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第70話 懐疑を持った魔法師のとある確認

「モアディさま、なにか飲まれますか? それともなにか口になさいますか? お熱はどうでしょう、どこか痛くはありませんか?」


「………………」 



「モアディさま、ここはとても景色がいいですよ。お加減がよいのでしたら、外で朝食などいかがですか?」



「――――――――――っ」

 しゃっと開かれたカーテン、差し込んできた強い日差しに目を焼かれる。


「モアディさま、いかがですか? ちょっとまだ焦げた匂いがあるので窓は開けられませんが、山が一つ吹き飛んだおかげでとても見晴らしがよくなって、村の人たちも観光力が上がると喜んでいましたよ」


「少し黙れ」

 これはとても不快な目覚めだ。

 私は静かな朝が好きだ。

 なのに、ただでさえ重い体と頭を覚醒させたいときに、この男は空気を読まずに一方的に話しかけてくる。


「なにか持ってきますか? ここはパイが美味しいらしいですよ」

「――――――――――」

 消えてくれ。

 頭が割れそうなんだ。



「マドック」

「モアディさまはお魚好きですよね。白身のパイを持ってこさせましょう」

「マドック!」


 痛むこめかみを押さえ、思わず声を荒げてしまった。

「なんでしょう! モアディさま!!」

 なにがそんなに嬉しいのか、マドックは寝台に傅きにこにこと私を見てくる。

 きりきりと頭が痛い。

 早く解放されたい。



 私には考えなくてはならないことがあるのに。

 目の前のコレを消してしまえば、少しは頭痛が和らぎそうだ……いやだめか、さすがに。

 ならば、用事を言いつけていまだけでも消えてもらおう。



「すまないが、ここにアマンダとイリを呼んでほしい」

「アマンダを? なぜですか?」

 マドックは不満顔で聞いてくる。

 めんどくさい。

 お前はただ黙って遣いもできないのか。


「お前に説明する必要はない。お前はそのまま戻らなくていい、リチャードと先にあの地学者と戻れ」

「えぇっ!?」

 あぁうるさい。

 なぜに無駄にこの男は声がでかいのだ。


「早くここから出ていけ」

 つい本心で邪険にしてしまった。

「モアディさまぁ………」

 ええぃうっとうしい、涙目になるな。

「先に戻って、今回の経緯を報告書にまとめておけ。これは、お前にしかできないからな」


「僕にしか…はいっ。わかりました、お任せくださいっ!」 

 こうでも言わないと、なかなか部屋から出て行ってくれないだろうからと、そう言った。

 本当はそんなこと思っていないが、自分のためなら私だって嘘も口にする。

 まだ魔法師としては開花していないが、雑用にはまだ使えるやつだからな。

 面倒なことぐらいは任せてもいい。


「行ってくれ」

「はいっ」


 ばたばたと、出ていく背中を見送りほっと息をつく。

 私には才能があった。

 魔法師を目指してその才を伸ばし、ある程度好き勝手出来る場所まで昇ってきた。



 自分の信じたい道を照らす人と出会い、ともに進む。



 そうあるように、私なりに努力と訓練をしてきたつもりだったが、計算違いがあった。

 上に立つ立場ということは、下で支える者がいるということだが、その支えが盤石であるとは限らない。


 自らの手で盤石にしなければいけない。

 自分だけ優れていても、どうにもならないのが「組織」なのだ。

 私が入ってしまった「組織」なのだ。


 育成というものが、こんなに苦痛でままならないものとは、体感するまで知らなかった。

 もっと上に行けばそれも解放されるだろうか。

 早くその立場になりたいものだ。




「入るぞ」


 扉が三回叩かれると、イリと彼女が顔を出した。

 ひとが寝込んでいる間に湯でも利用したのだろう、ふたりともさっぱりとした小ぎれいさになっていた。


「お加減いかがですか?」

「そろそろ動けそうか? 早く帰らねぇと、王から帰国を急げと伝書が届いたぞ。どうなんだ?」


 一応心配している彼女とは反対に、イリは帰国を急いでイラついていた。

 気持ちはわかるが、私は大量に使ってしまった魔法でしばらく動けず寝込んでいるんだ。

 ねぎらいの言葉一つ出てこないのか。


「確かめたいことがあります」

「確かめたいこと? 俺とこいつを呼んでか?」

 訝しるイリに、言葉で説明する気力がまだない。

 なので、もうそこは飛ばして実践してみる。


「リーディア・カイゼン。私のそばに来てください。手の届くところぐらいまで」

 そう彼女に声をかけると、彼女はなんの疑いもなく、すすすと歩み寄ってきた。

 もう少し疑ったらどうだろう、いつもこちらを疑うことをしない。

 多少の無茶を言っても、受けてしまう。

 まぁ、こちらもかなり彼女をかなり手助けしているのだから、信頼してしまうのも当たり前か。


「こ、このぐらいですか?」

 まだ手が届かない。

 だが、渡すにはちょうどよい距離だ。


「こちらを」


 私が差し出したものに、彼女は最初戸惑った。

 寝台の横に活けられていた花。

 私が寝込んでいる間に、しおれてしまった花たち。


「こちらに新しい花を活けてくればいいですか?」

 差し出した花瓶を、使いだと思い違いして受け取った。


「え?」



 変化はすぐに現れた。


 しおれていた花が、彼女が花瓶を手にしたとたんにキラキラと光を集めてまるで時を巻き戻すように輝きを取り戻す。


「綺麗、素敵な魔法ですね」


 それが魔法だと。

 再び息を戻したそれを見て、綺麗と嬉しそうに微笑むなど。


「それだけか?」

 イリは、それが魔法なんかじゃないことを察したようだ。


「あなたにここにいてほしかった」


「ん? え? えぇっ!?」


 私が腕を急に引いたから、彼女の手から花瓶が落ちて派手な音を立てて割れる。

 驚きよろめいた彼女を、この胸に抱きとめる。

 本来は腰まである髪の余韻。

 ふわりと洗い立ての香りが鼻をくすぐる。

 この腕に落ちてきたもの。

 あの時も、それはとても柔らかい感触であった。

 人間など重いはずなのに、私が受け止めた体は重みを感じない。

 これが女性の柔らかさなのかと、普段鍛えている軍の男たちとの違いに感嘆する。

 力を入れては壊してしまいそうだ。


 それならとそっと抱きしめた。


「な、なんですか!?」

 私の行為に、驚きと戸惑いの声が上がる。

「暴れるな。少しだけでいい」


 手足をバタバタとされると、力が入ってしまいそうになる。


「少し甘い…なにかの蜜のような香りですね。香油…香水ですか? 嗅いだことがない」

「い、いえっ。なにも、あの、は、放して………」


 この地方特有の石鹸なのだろうか。

 城にいる女の、誰からもしたことのない香りだと思った。


「お、おいっ」

 もっと嗅いで分析しようとして、イリに肩を掴まれた。

「もうじゅうぶんだろっ」

 荒げた声に、腕の中のリーディアがビクリと身体を固くする。

 イリの荒々しさは時に女性を怯えさせるようだ。


「ちっ!」

 バリッとはがされて、改めて彼女の顔を見た。

 赤らめた頬、なにか言いたげでなにも言えずに震える唇は少し濡れていた。

 この顔はなんだ? 私も怖がらせてしまったか。

 瞳に溜まりいまにもこぼれそうな液体を、指で拭ってやる。


「すまない」


 だが確信した。

 私があの時、限界を超えてもなお動けたわけを。

 いや、まだなにもわかってはいない。

 この娘の不思議はまだなにひとつ解けていない。



「帰りましょう。彼女の家の侵入者も気になります」

「あ? だってお前身体が……」

「動けます。急いで帰国しましょう」


「本当に大丈夫なんですか?」

 急な失礼を働いたのに、私を心配してくれるとは。

 つくづく純粋すぎないか。

 商いを学びたいといきなり酒場に出たり、イリのような出自の知れない男を信頼したり、よく今まで間違いが起きていないものだ。


「あなたのおかげで動けるようになりましたので、心配は無用です」

「え? そうなんですか?」


 私の言葉の意味を、なにもわかっていないようで首をかしげている。

 ああ、そうだ。早く元の姿に戻してやらなくてはな。

 ここをたったら、すぐ術を解こう。


 伝説の少女と呼ばれてしまったこの姿にも見慣れてしまったが、本来の姿が懐かしくもあるな。



 もっと彼女を知りたい。

 知らなければいけない、わからないままは好きではない、私はそういう質だからな。  




お盆休み、いかがお過ごしですか?

先日プールに行ったんですが、足を日焼けしていたことをさっき気づきました。

さて、お休みしたというより長くなってしまった。

文字数的には二話分あります。

今月後半はちとばたばたするので更新できる変わらないな。

広い心で待っていてほしいです。


言い訳としては、仕事よりもPCを新しくしてまだ調教中なのと、慣れたキーボードが壊れて安いの買ったら打てないキーがあってまさかの欠陥品。

それが返品期間過ぎて気づいたの、バカすぎる―。

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