第69話 魔法の力
私は、安全なところからそれを見ていた。
ただ見ているしかできなかった。
スハジャの民と、それを見守った。
「凄い……」
思わずなんども口にした。
まずリチャードさんが風の力で、山の中腹まで道を作った。
モアディさまが大きな氷塊を作り出し、その道に沿って放つ。
リチャードさんは再び風を巻き起こし、その氷塊を押した。
ドカッと大きな音と、振動は遅れて私たちのいるところまで到達する。
初発ではなにも起こらなかった。
二発目でピキッと凍る音がした。
「次で山に穴が開く、なにが起きるかわからないからな、いつ飛ばされてもいいように準備しておけ」
イリは、私だけに聞こえる音量でそう言った。
「いやよ」
ここまで来て、私たちだけ逃げるなんていや。
私だって死にたくないけれど、他の人だって死んでほしくない。
願うしかできないって、こんなに歯がゆくて悔しいの?
「来るぞ」
モアディさまが、氷塊を作り出す。
二発目より、倍はあろうかと思うぐらいの氷塊。
モアディさまも、次で決めるつもりなんだ。
リチャードさんは肩で大きく息をしていて、明らかに疲労している。
モアディさまも辛そうだ。
そう何度も放てるものではない、あんな大きな魔法。
そういう意味でも、これが最後だ。
ビキビキと氷塊の発する音が大きく響く。
パァと発光すると、目を開けていられない眩しさに私はぎゅっと目をつぶってしまった。
次に目を開けたのは、ドカンという大きな音と振動。
ギィエァーーーー。
なんとも言えない地中から響くような、叫びのような轟音。
「え?」
山の中央に、大きな穴が開いていた。
そこから火柱が吹き出し、ここまでその熱さが伝わってくる。
火砕流というものは、こちらに流れてくることはなかった。
山の上にできた岩のようなものは、穴の衝撃でどこかに弾けたようだけれど、噴火口からは煙が上がっているだけで、溶岩さえ見当たらない。
「横の穴から熱がうまく逃げてくれたんだな。しかし、逆にこの熱じゃ……」
イリは心配げに家屋を見上げる。
熱だけじゃない。
森林を焼いた火の粉が、降りかかり始めていた。
「命は助かっても、家が燃えてしまったんじゃわしらは……」
火の雨。美しいともいえる光景に、私の隣に立っていたおばあさんがつぶやく。
「大丈夫。信じましょう、私たちの運を」
死に戻った私には、運があるんだと思いたい。
だって、この村が噴火でなくなるのは防いだもの。
モアディさまたちが。
足に砂袋でもついているかのように重く引き摺りながらこちらに歩いてくるふたりと、まだキラキラとした上機嫌の先生。
自分の研究しているものをこんな間近で見て、それも自分の仮説を立てたんだから上機嫌になるのもわかるけど。
連れてきちゃったことは、いい方向に転んでくれた。
だから、きっと今回も切り抜けられる。
「モアディさま、大丈夫ですか?」
イリに支えられてやっと立っているモアディさまに駆け寄った。
間近で見ると、白蘭のように顔面蒼白だ。
「残りの力で、あなたを安全な場所に移します。イリと手を繋いでください」
「え?」
私たちは助けると言っていたモアディさまだけれど、モアディさまは?
助けるのは私とイリだけ?
そんなに力は残ってないというの?
そんな少なくなってしまった力でそんなことをしたら、モアディさまの命だって危ない。
「いけません、モアディさま。馬があります、私たちはそれで逃げましょう」
マドックさんも危機感にそう進言した。
でも馬は3頭、私たちがなんとかなっても村の人は?
「モアディさま」
お願いです、私たちだけ逃げるのではなくなにか、なにか方法がまだあるはずです。
縋るように私はモアディさまの腕をつかんだ。
無理を言っている。
モアディさまはこんなに疲弊しているのに。
「お前なんなんだよ!」
マドックさんが、怒ってモアディさまから私を離そうとグイっと私の腕をひいた。
「あっ!」
その力があまりにも強くて、よろめく。
「す、すみません」
こともあろうか、モアディさまに抱きとめて助けられてしまった。
「す、すみません!」
マドックさんがしまったという顔をしたけれど、モアディさまに睨まれてすぐ謝罪の言葉を口にしてくれた。
「雨でも降れば……」
この晴天を見上げ、望み薄なことを先生は口にする。
「水魔法は……」
私の希望も、リチャードさんが力なく首を振って消える。
「水はないけれど、氷なら操れます」
きらりと、モアディさまの瞳に光が差す。
「え? そんな力が……」
残ってないですよね? さっきの大魔法のあとでそんな。
「マドック、力を貸してください。それからリチャード、風を起こすだけでいい」
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モアディさまはなにをしようとしているの?
私から身体を離すと、モアディさまはマドックさんの手を掴み天に向かって掌を両手で支えるようにのばす。
「氷の聖霊よ、私の声が聞こえたなら力を貸して欲しい」
手のひらから小さい環が生れ、空に大きくなりながら浮かび上がる。
詠唱が文字になり、回りながらどんどん環が広がる。
三人は環の下で、目くばせしあった。
「氷の聖霊よ……」
マドックさんの声に、空に薄い氷が張るのが見えた。
まるでこちらが湖の底にいるように、空の氷が見える。
「風よ、いま一度力を貸してください」
リチャードさんの詠唱で、小さな渦巻きが巻く。
「イリ! 剣をっ!」
「あ? あぁっっ、そういうことかっ」
モアディさまの声にはじかれて、イリは剣を空に向けた。
「壊れろっ!」
叫んで、渦の中心にその剣を投げつける。
パリンと氷が割れる音がして、ひびが入ると細かく氷が砕けて、渦に巻かれて地上に降り注いだ。
遅刻! いやーー暑くてみんなしんどいよね。
家計的にどうしても冷房を控えてしまう私です。電気代怖い。
早くきめつの映画も見に行きたいです。
夏休み、どこで取れるかな。とれた週はこちらもおやすみする予定です。




