第65話 あなたにしか
困った顔の中に、まるでかわいそうなこどもを見たような憐れみがある。
そうだよね、いきなりそんなことをつぶやくなんて、なにごとかと思うよね。
でも、私はあなたを巻き込むことを決めた。
ごめんなさい、私に関わってあなたの未来を変えてしまうかもしれないけれど。
「スハジャ公国の民なら、全員が知っているはずです」
「はぁ」
私の言葉に、リチャードさんは疑問符を隠せない返答になる。
そんな反応になってしまうの、仕方のないことだと思う。
でも、ここは押し通します。
「自覚が出たのは、私もここに来てからです。信じられないかもしれませんが、考えてみて下さい。モアディさまが私を帯同していること、そして私を逃がそうとしていること、なぜだと思いますか?」
使えるものはなんだって使う。
ただの偶然だと突っぱねた伝説だって、利用する。
考えている時間がないんだもの、目の前の材料でなんとかするしかないんだから。
「た、確かに……」
ありがとう、リチャードさん。
大真面目な顔でうなずいてくれて。
「私を、モアディさまのところへつれて行ってください」
「で、できません。モアディさまからは、あなたを国に届けるよう言われております」
「でも、このままじゃモアディさまは死にますよ。モアディさまだけじゃない、スハジャのひとたちもここに残った人も」
リチャードさんは、そんな、と小さくつぶやいて頭を抱えた。
上司の命令か、よく知らない女の突然の申し出か。
たくさんの命を人質にかけられたら誰だって悩んでしまうだろう。
酷なことを強いているわね。
いつか何かで返せるといいんだけど。
「私は見届けたいのです。ここへ来ることになったのも導かれてでした。私は、大いなるなにかに動かされているのです」
両手を広げ、天を仰ぎ、そんなことを口にしてみる。
ちょっと芝居臭いかなと思ったけれど、リチャードさんはとても素直な性格なのかこんな私をうっとりと見るもんだから、調子に乗った。
「導きを」
私が手を差し伸べると、おずおずとリチャードさんも私に手をのばす。
その手を取って、畳みかける。
「あなたにしか、頼めないのです」
「私にしか……」
「そうです。あなたが頼りです。あなたにしかできない」
「……わかりました。こちらへ」
リチャードさんは使命感を帯びた瞳で、力強くうなずいてくれた。
だいぶ短いんですが、ここで区切りの方がいい気がするので。
今週はもう一回更新したいなぁ。
早く助けに行かないと、モアディさまたちが溶岩にのまれちゃうからね。




