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第63話 幕開け

 モアディさまの言葉に、私は凍り付いた。

 侵入者って?

 まさか、まさか?


 脳裏に浮かび上がってきた、朝のあの姿を否定したい。

 ユハスさまはどこに向かったの?

 なぜいま私の家に侵入者が?


「いくらなんでも、無理だぞ。どんなに足の速い馬でも、まだ着かない」

「そ、そうだよね」


 私の疑いを晴らしたイリの言葉に、ホッと胸をなでおろす自分に呆れる。

 ユハスさまのあんな姿を見ても、まだどこかそんな人じゃないと否定したいの?

 私の首を落とすときの、あの顔を忘れたの?

 どこまで甘ちゃんなの、私は。


「話の中身が見えません」

 私とイリの会話に、ムッとしたようなモアディさまに私は今朝見た光景の話をした。

「ユハスの馬には羽がついていますか? ただの馬なのでしょう? ならば、ユハスではないことになりますね」

 

 なぜだろう、この言い方、私のこと鼻で笑って。

 羽の生えた馬なんていない。

 そんな当たり前のことで、なにをうろたえているのかと言ってる?

 モアディさまらしい、曲がった伝え方な気がするのは私の被害妄想かな。


「では、いったい誰がモアディさまの張った結界を突破したんですか?」

 なんかもやもやするけれど、ここは引っかかってる場合じゃないわね。

 でも私の発言に、モアディさまは気を害したような顔になった。

 眉間に深いしわを刻んだまま、上から私を見降ろす。



「いつ突破されたと言いました? 私の結界を誰が突破するというのです」

「え?  でも『侵入者』って…」


 寒い。

 部屋の温度が、一気に下がった気がする。

 イリ、ニヤニヤしていないでなにか言ってよ!!!


「侵入者が結界に触れただけです。こちらにいる夜鳴鳥を飛ばしましたので、ユーを付近に待機させます」

「すみません…ありがとうございます」


 遠方に居ながら、任務をこなしている最中に私の家の対応もしてくれていることに、謝罪と感謝を口にした。

 時折もやもやするけど、この人はすごい人なんだよね。

 実力の上に、態度があるんだ。

 多少の引っかかりは飲み込まないといけない。


「今夜にはこちらの任務は終わります。明日の昼には、帰途につけるでしょう」

「明日か、長かったな」

「まったく、予定にないことばかり起きて」


「…………」

 イリとモアディさまは、もう終わりだと思ってる。 

 だけど、いちばんの災難はこれから起きるのだ。


 ダーリアさまが幽閉された後、ここはどうなるのだろう。

 見張りや世話をする人を残して撤退する。

 ユハスさまを心配していたけれど、ユハスさまはいなくなってしまった。

 責任者としては、モアディさまだけれど軍屈指の魔法師を国外にいつまでも置くことはないわよね。

 見習いが残る?

 

 私と接したマドックやリチャードの顔が浮かんだ。

 あの二人は私とかかわった。

 私の輪の中に、巻き込んでしまった可能性がある。


「ここはどうなるんですか? ダーリアさまは、いったい何の罪で……」

 まだ公表されていない。

 罪状はあった。

 でも、あのダーリアさまの叫びを幾度も聞いていた私には、その罪状が信じられなかった。


「存在が罪になる人もいるのです」

「そうなのかもしれないな。だが、王命が下れば俺たちは動くだけだ」


 ふたりには当たり前のことかもしれないけれど、ダーリアさまだって望んで王子だったわけではないのに。

 王位継承者の争いは、絶えることがない。

 誰も幸せになれない、輪がそこにある。


「モアディさまやイリはそれでいいの? ずっとそうしていくの? 命令されたら

これからも?」

 私だってわかってる。

 これは八つ当たりだ。

 わかってるけど憤りは消せない。

 あの悲痛な叫びを、ずっとずっと耳に残ってしまった叫びを知ってしまった八つ当たり。


「私は望んで軍に入りました。軍の規定があるならそれを遵守していかねばならない。命が下れば動きます」

 モアディさまは、こんな小娘の言葉に信念を語ってくれた。

 わかっていたことだけど、その口から語られるととても重い。

 そして続けた。

「重要なのは、その命を誰が下したかです。いずれ……」


 モアディさまがなにかを言いかけて、言葉を止めた。

 それは経験したことがなくてもわかる異変だった。 


 カタカタと、窓枠と硝子が震えて部屋に響く。


「なんだ?」

 イリがカチャリと剣の柄に手をかけて身構えていたけれど、これは剣でどうにかなる問題ではない。

 

「まさか、本当に?」

 モアディさまが、窓の外を確認する。

 その瞬間、ドンと身体の中に響くような大きな音と、地面に走った衝撃が伝わってきた。

「モアディ!!!」

 窓硝子が弾けるように割れ、モアディさまに降りかかる。

 イリはその身をモアディさまにぶつけて、ふたりはもつれるように床に転がった。


「イリッ!」

 粉々になった硝子が散ったけれど、イリのとっさの判断でモアディさまに突き刺さることはなかった。


「なにが起きた? 爆発か?」


 硝子のなくなった窓の外、空が赤く燃えるような色をしていた。

 


関東梅雨入りです。

「VIVANT」の続編も発表されましたね。梅雨は憂鬱ですが、わくわくです。

低気圧に左右されますか?

私は調べたら負けだと、事前気圧を調べることはないのですが、雨が降る直前に頭痛が始まるので大人しく薬に頼ります。

あなたはロキ派? イブ派? アセトアミノフェン派?

私はロキです。

さ、やっと噴火しましたよっ。やっとですよっ。

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