第61話 心外の言葉
予想外のことが起きた。
ゆっくり休めた朝、窓からユハスさまが、愛馬ククジにまたがっているのが見えた。
あの白い美馬は、確かにユハスさまの馬。
ククジには荷もくくられていて、近い場所へ走るという感じではなかった。
帰る? まだ任務中なのに!?
ユハスさまが主のものを離れるのは、不自然に思えた。
これは報告したほうがいい。
モアディさまはまだ集中時間だろうか。
隣の部屋の物音がまったくしないので、帰ってはいないと思う。
わからないから、イリに話すことした。
コンコン。
いま思えば、さっき迷い込んでイリの部屋を知っておいてよかった。
たくさんある部屋の扉を叩き回らないで済む。
そんなことしたら、ジュンリカさま派の人に私の存在が知れ渡ってしまって、面倒なことになりそうだったものね。
「なんだ? おとなしく部屋にいろと言われているだろう」
私の顔を見ると、イリは眉を寄せてそう言った。
「急ぎだったの! モアディさまはまだ部屋に帰っていないみたいだし、イリに言っておきたかったの」
「……入れ」
私が必死に言ったから、イリは周りを見回して私を部屋に引き入れた。
「そこに座れ」
椅子を指さして命令する。
自分は窓際に立って、距離をあけたのだろうか。
あの時みたいに。
「なんでお前は、ただそこに居れないんだ」
低い声。
腹立っているみたいだけれど、私だって優雅に用意されたお菓子とお茶でのんびりしていたかった。
でも、のんびりしていられないから動いているの。
「さっき見たの」
私がそう口にしたら、イリの表情が変わった。
「また夢を見たのか? どんなっ、なにを見たっ」
一気にまくしたてるほどに。
胸倉でも掴まれそうな勢いだったから、慌てて違うと手を振って否定した。
イリは私の方に詰め寄りそうだった足をとめ、戒めるようにどんと自分で叩く。
首を振って落ち着こうとしてるのがわかった。
自覚あるんだ。
感情が着火しやすいことに。
私の言い方も悪かった。
私が見たと言ったら、ふたりは「夢」だと思っても仕方ないことだもの。
「ごめんなさい。でも、窓からユハスさまがどこかへ出かけたのが見えて」
「ユハス・モリアネが? どこへ?」
イリもおかしいと思ったのか、腕組を解いて私に向き合う。
「ユハスは、あ……ジュンリカの側近だろ? 見間違いじゃないのか?」
驚いているのか、イリはジュンリカさまの名前が一瞬出てこなかった。
やっぱり、おかしいよね。
この時期に、ジュンリカさまのもとを離れるなんて。
「見間違えではないわ。ユハスさまの愛馬は、とても気が難しくて主人以外をのせないの。あんな美しい馬、見間違えない」
そんなに馬を見分けられるわけではないけれど、見覚えのある鞍だった。
私も乗せてもらう機会があったから、覚えている。
「見間違いではないとすると、なんだ? まだ結界は張られていない。監視者のジュンリカは残ったままだ」
顎に手をやり、ブツブツとイリがつぶやく。
考えを巡らせているようだけど、ふと顔をあげて私を見た。
「本当に見間違いではないのか?」
「間違えないっ。ユハスさまだった。私の知ってるユハスさまに間違いない」
疑われたかと思って、力いっぱい答えてしまったけれど、イリはふんと私を鼻で笑った。
「な、なに?」
「いや、よほどユハス・モリアネに執着あるんだと思ってさ」
馬鹿にしたような口調で言われて、腹が立った。
執着ってなに?
私は、ユハスさまを自分から追いかけたことなんて一度もない。
首を落とされるその時でさえ、命乞いもしなかった。
喉を焼かれてできなかったけれど、もし話せたとしても、しなかったでしょう。
イリはそんな私の姿を見てないから、そう言うんだわ。
悔しい。
私がここにいることになった理由を話せたら、そんな言い方させないのに。
悔し涙が込み上げそうになるのを、ぐっとこらえる。
ここで泣いても何も始まらない。
「行き先はわかりません。でも、荷物が多かったので国に戻られたかと」
「はぁ? なぜだ?」
知らないってば!
私は姿を見かけただけだもの。
でも、昨夜のこともあるから見過ごせなかった。
「もしかして、ユハスさまのご家族になにかあって、一足先に帰国なされたのでは?」
理由としては、いちばんもっともらしいものを口にしてみた。
でもイリはさらに鼻で笑う。
「主の命よりも優先されるものはない」
「そんなこと言っても、ユハスさまのお祖母さまがご高齢なのは確かだし、主の申しつけだったら……」
自分で、反論してはっとした。
「ジュンリカさまは、ユハスさまになにを命じたというの!?」
大遅刻!
ちと咳き込む風邪をこじらせていまして、思うように机に座っていられない週刊でございました。
その間にひとつ歳もとりまして('ω')ノ
5月が終わりますね。
来月は仕事な予定が多く、時間をうまく作っていかねばな、なのでございます。




