第58話 めんどくさい男
「モアディさま!」
バタバタと、ふたりがかけてくる。
手にいろいろ持っていて、私たちを見つけて驚いていた。
報せていたんじゃなかったの?
「モアディさま!」
結構な距離を、もうすごい形相で走ってきた。
「騒がしいぞ、マドック。支度はできたか?」
はぁはぁと、荒い息をなんとか整えようとしているところに、冷めた声を降らせるモアディさま。
マドックと呼ばれた青年は、なぜか馬上にいる私をキッと睨みあげる。
「誰ですか、その女性は。僕にこんな雑用押し付けて、モアディさまは女となにしてるんですか!?」
「なにを言ってる? 彼女はアマンダ。とある人からあずかった、身の回りの世話をしてくれる人だ」
それは、ここに来る道中に決めた設定だった。
ここにはユハスさまもいるし、少なからずリーディア・カイゼンを知っている人がいる。
見た目は変えてあるけれど、名前も偽名をつけることにした。
「身の回りの世話? 世話なら僕たちしているじゃないですかっ」
「マドックさま、落ち着いて……」
マドックと呼ばれる青年が、モアディさまの足に縋りつこうとするのを止められる。
馬だってドン引きで数歩下がった。
「セイロンが驚いてしまうだろう、三歩下がれ」
そう言われて、すごすご三歩下る。
なんかこの人、小姑みたい……とは、心の中だけで思っておこう。
きっと普段からモアディさまに振り回されてこうなってしまってるんだわ。
そう思ったら、同情が沸いてきた。
馬上は失礼かと思い、下におろしてもらう。
「雑用下女のアマンダです、なにかありましたら遠慮なくご指導ください」
頭を下げると、すごく納得していない顔のまま「マドックだ」と返された。
「私はリチャードです。ふたりともまだまだ見習いなので、そんなにかしこまらないでくださいね」
マドックさんと違って、リチャードさんはとても好青年だった。
「よろしくお願いします」
見習いということは、モアディさまの傍にいる以上この人たちも巻き込んでしまうのね。
申し訳なさを含めて頭を下げた。
「頼んだものは出来上がってるのか?」
「はい、ここにっ」
モアディさまに、茶色の遮光された小瓶を掲げて近寄る。
「うむ」
モアディさまは人にものを頼んでおいて、すごく上から目線だ。
馬から降りようとしない。
「ちゃんと調合してあるな?」
「もちろんです!」
マドックは自慢気に胸を張った。
でもモアディさまは小瓶を手にしたとたん、少し眉がびくりとした。
「マドック、これがお前のいまの力だ」
モアディさまは瓶を掌に載せて、なにかぶつぶつ口の中で唱える。
すると茶色い瓶の中心から光が広がって、金色に輝きだした。
でもその光は、すっとすぐ消えてただの遮光瓶に戻る。
「そんな……」
「失敗作だ。使えないな、お前にはまだ早かったか」
マドックさんがガクリと崩れ落ちる。
なんかかわいそうすぎる光景だった。
ぜったいモアディさまは、手紙ひとつで雑用を言いつけたに違いない。
教会で伝書鳩を借りていたし。
無理難題をがんばってこなしたはずなのに、うまくいかなかった。
「大丈夫ですよ、モアディさまならちょいちょいっと調合されちゃいますから。材料は残っていますか?」
あまりにもガクリときていたので、肩を叩いて励ます。
まったく、モアディさまの言い方もきついんだから。
「あります…部屋に……」
ぽそりと答えると、ゆっくりとマドックさんは立ちあがった。
「ではマドックはすぐに部屋にそれを届けるように。リチャードは馬を頼む屋敷はあれか?」
「はい、あちらにご用意しております」
ふたりの後方の、赤い屋根の邸宅を指さしたモアディさまに、リチャードさんが返答する。
「わかった。では頼んだぞ。あぁ、セイロンは喉が渇いているから水をやってくれ」
「かしこまりました」
モアディさまの愛馬、セイロンの手綱を引き受け、リチャードさんはにこやかに返事をする。
どんよりのマドックさんと比べると、ますますマドックさんに悲壮感。
「マドック」
「はいっ!」
それでも、なにか言いつけられることは喜びなのか、名前を呼ばれて嬉しそうに顔をあげた。
「荷物を運んでくれ。それと、このリ…アマンダの部屋を私の隣に配してくれ」
モアディさま、つい私の名前を出しそうになってる。
わかるよ、私がいちばん「アマンダ」って名前に慣れていないから。
「イリ、行きますよ。急いで」
「はいはい」
ふたりは速足で行ってしまい、残されたのは私と陰陽なふたり。
「と、とりあえず部屋に案内していただきたいのですが」
着替えたい。
この格好でここにいると、また誤解を呼ぶ。
「お荷物、持ちますよ」
「あ、はい」
小さなトランクを受け取ると、リチャードさんは馬に載せてくれる。
「さぁ、行きましょう」
にこやかに歩き出したリチャードさんにはホッとするけれど、とぼとぼ一緒についてくるマドックさん、なぜ私を睨むの?
なにかぶつぶつ口の中でつぶやいているし。
「……気にしないでいいですよ。いつものことですから」
リチャードさんは苦笑いでそう言ってくれたけど、気になる。
ちょっと聞こえた言葉が、「なぜ女と二人乗りなぞ」とか「僕がいるのに」だとか、絶対私にも関する恨み言なんだもの。
「あの…、私になにか言いたければはっきりと言ってください」
ぐちぐち言われるのは好きじゃない。
学園の頃もそうだったな。
義妹のことで、影で言われていたときも、相手が上級生でも「根も葉もない確信のないことを広めないでいただきたい」と面と向かって意見したりした。
無駄に終わってしまったけれどね。
クミンとユハスさまが踊るのを、拍手で賞賛して私を見て笑っていた。
ああ、嫌なこと思い出してしまった。
「では、聞きますけど」
私の態度が気に入らなかったのか、ますます棘のある視線を投げてくる。
ピタと、歩みを止める。
まっすぐ私の瞳を見て、訊ねた。
もしかして、このかけられた魔法のこと気づいた?
「あなたは、モアディさまとどういうご関係ですか?」
「は?」
まじめな顔しているから、なにか勘づいて聞いてくるかとも身構えたのに。
「はぁ……」
馬鹿ばかしくて、溜息出ちゃった。
「私はモアディさまとイリさまの、雑用係です。それ以上でも以下でもないです。もう一度モアディさまに確認したらどうですか?」
モアディさまは同じことを二度聞かれるのは好きじゃないから、きっとバッサリ切られると思うけれどね。
それをマドックさんだって知っているから、唇噛みしめてるんだろうけれど。
めんどくさい。
モアディさまに憧れて自分以外がそばにいることをゆるせないのは、女性だけじゃないのね。
憧れってつくづく面倒だと思ったわ。
憧れには、必ず嫉妬がまとわりつく。
それが時に面倒なことになるから、気をつけなきゃね。
モアディさまとの仲を変に勘違いされて、意地悪されるのはとても心外だわ。
ここにいる間は、私はお世話係。
モアディさまにも、イリにも従順な使用人。
これを徹底しないと怪しまれちゃうしね。
さて、やっとスハジャにつきました。
GWなにしてました?
私、ししゃもに当たってひどい目見ていました ははは。
でも、知り合いの先生が他の人とお誕生日を祝ってくれて、お腹痛いのにいっぱい食べちゃった♪
遅刻ごめんなさい。




