第56話 偶然です
とても雰囲気の良い教会だと思った。
この土地はよい石が採れるのだろう、扉までも石なので開けるのに力がいるけど外の音が一切入ってこなくてとても静かで荘厳。
聖女様の像も石造りで、美しくて見惚れてしまった。
「リーディアさま、こちらへ」
もっとゆっくり鑑賞したかったけれど、呼ばれてしまった。
ここのシスターだろうか。
灰色のカウルがとても似合っている。
私に用意されたのは、また緑色の服だった。
胸元の刺繍が凝っているから、ジアの用意してくれた服よりも上質な感じがした。
「モアディさまたちもお待ちです」
案内された部屋。もう待ってるですって?
あの汚れた服は洗濯してくれると言っていたけれど、もう渇いたの?
待たせたことをチクチク責められるかと思うと、一気に気が重くなった。
「お待たせしました」
遅い、と怒鳴られるかと思ったけれど違った。
何か変だ。
あえて言うなら妙な空気が流れている。
「ど、どうしたんですか? なにか?」
なぜみんなして、私をそんなに見るのかしら。
「本当だな」
「偶然にも、似ていますね」
イリも、モアディさまも私を見る。
「なにがですか?」
視線が、私とその後ろの少し上を行き来する。
なぜ私と壁を交互に?
「え?」
振り返って目にして、瞬きを多くしてしまった。
私の後ろには絵が飾られているだけなのだけど、その絵が、私だった。
正確に言うなら、モアディさまの魔法で変わってる、私。
「この絵は?」
崖の上にひとりの少女が立っていて、なにかを指さしている絵だけど、その少女の髪は青で着ている服がジアが用意してくれた服にとても酷似していた。
「『若草の乙女』と呼ばれています」
静かに答えてくれたのは、私を案内してくれたシスターだ。
「若草の乙女とは?」
モアディさまが追加の疑問を投げかける。
「スハジャに伝わる伝説の乙女でございます。国の危機に現れて人々を救うと伝えられています」
え? 待って、違うわよ。
私じゃないわよ、誤解しないで欲しい。
緑色の服だって、たまたま。この髪色は偽装だもの。
そんな希望を含んだ目で私を見ないで、シスター。
「くっくっく…」
それまで黙っていたイリが、笑う。
ずっと笑いをこらえていたようだ。
「お前、すごい女だな」
「イリ!」
「服までお揃いだ」
「え?」
よく見たら、刺繍が一緒じゃないっ。
草がからまる円の中に咲き誇る花のデザイン、服の形。
「この服はスハジャ伝統の服で、正式な場でよく着られているものです」
なぜこの服を私に?
違う、ただの偶然です、そんな当てはめていくようなことをしないで欲しい。
「た、ただの伝説ですよね」
「はい、ただの伝説でございました」
ましたって、過去形ですよシスター。
神に仕える身の人は、時に妄信的だと言うけれど、この人はうっとりとした目で私を見るから怖い。
否定の言葉なんて、右耳から入って左へすーっと抜けてしまってとどまらないだろう。
ここは早く退散してしまいたいと思っていたら、モアディさまがそれを口にしてくれた。
「我が国の使節団がこちらへ赴いているはずです。そちらへ一刻も早く案内していただきたい」
「使節団ですね。護衛のひとは街の宿屋と、貴族ですかな、その方たちはドレナの麓の邸宅をご用意したと聞きました」
村の村長だと言う人がそう話すと、イリはさっと荷物を持ち上げる。
さっきの私をからかう顔から、キリリとした剣士の顔になっていた。
ずっとその顔でいればいいのに。
悔しいけど、そのイリの顔は好きだ。
とても頼れる男に見える。
「使節団……?」
ダーリアさまのこと?
「使節団ですよ、さ、早く合流しに行きますよ」
それ以上、なにもくちにするなというような冷たい視線で刺したモアディさまに、私は黙った。
隣国の失脚王子がここに幽閉されること、気軽に口外しちゃうとこだった。
まぁ、その前に私は凍っていただろうけど。
「では、使節団と早く合流しましょう」
私はちゃんとわかりましたと示すように、作り笑いを浮かべた。
気を引き締めて、自分の着替えの入った袋を抱える。
「湯をありがとうございました」
なんとなくこのシスターにはもう会いたくないけれど、私の服やモアディさまの衣を綺麗にしてくれたことに深く頭を下げた。
汚れたままだと、モアディさまは機嫌が悪いままだったと思うから助かりました。
まずひとつ。
でもここに来た目的は違う。
よりによって、ダーリアさまは麓にいるだなんて。
隣の席の人がコンコンと咳をしていて、うーん今現在ちょっと喉の痛い私です。
ちょっと前まで、咳をしようものなら会社に出て来るなって感じだったけれど、いまはまた「風邪ひいてるの」と言いながら仕事に来るようになりましたね。
風邪でうつされるのは嫌なんですけどぉ。
葛根湯飲んで寝ますっ。




