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第53話 見えたもの

「あれ!!!」


 私は、目に飛び込んできた光景を指さした。

 見えない山の向こうからも確認できる煙。

 白く細く空へと立ち昇る。


「まだわかりませんね。あれぐらいだと、ただの野焼きの可能性もあります」


 渓谷を見下ろせる高台に馬を止め、煙の方向を三人して見る。

 山の陰にあって、なにが燃えているのかまではわからない。


「急ぐぞ」

「えぇっ!?」


 ダンっと馬を蹴ると、馬が片足立ちになるぐらい跳ねた。

 着地するその勢いのまま、渓谷へと駆け下りる。



「きゃあーーーっ!!!」


 落ちるっ。

 振り落とされるっ!


 もう必死に馬の首にしがみついて、耐えた。

 バンバンお馬さんの首に私は胸を打ち付けてしまったけれど、腫れたらイリ好みの体形になってくれるかしらっ。

 恨みがましく怒りをそこへぶつけながら、耐えた。

 この高さから落ちたら、落馬じゃなくても死んでしまう。



「なんだあれは」

 モアディさまが、()()をみて少し息をのんだように見た。


「初めて見るな。機械、なのか?」


 渓谷にならんで建てられた塔に、大きな羽がくくられて、それが風を受けてくるくると回っている。

 建造物、に間違いはないけれど、なんのためのものなのかは、わからない。


 いちばん奥に建てられた搭から白煙が上がっている。


「あれは、火災だな」

 バタバタと、中から人が飛び出してくるが、煤けている。

 頭に作業用の白い頭巾をかぶっている夫人も見られた。


 風に乗ってくるきな臭い、物が焦げる匂いに顔を顰める。


「急がないと、もっと燃えてしまうな」

「なぜ?」


 見たところ、火災が起きてるのは一塔だけだ。


「ここは渓谷だ、おまけに風向きは向こうから手前に吹いている。風が巻いて、火の粉を運ぶぞ。ほら、二塔目が燃えだした」

「あっ!」


 モアディさまの指さす、燃えている塔の隣からも白煙が上り始める。

 ほどなくして、ボンという破裂音でもっと激しく燃えだした。


「しがみついとけっ」

「え? いくの? あそこに!?」


 私の叫びが渓谷にこだましながら、吸い込まれる。

 また私は、馬の首にしがみつく。

 それも今度は、急こう配で大きな岩も飛び越えたりして、もう落ちなかったのが奇跡。

 下におり終わった時には、足ががくがく震えてしまって馬からも降りれなくてイリに舌打ちされた。

 それでも手を貸してくれたから降りれたけれど、しばらく足に力が入らなかった私は、お馬さんに寄りかかってトントン自分の脚を叩いてなんとかひとりで立ったぐらいよ。

 

 しっかりしなきゃ、リーディア。

 こんなところで産まれたての仔馬でいちゃだめよ。

 叩いて叩いて、奮い立たせる。

 

「でかいな」

 

 イリの言葉通り、下に降りてみるとその建造物の大きさに驚く。

 見上げるほどに高く、そしてぶんぶんの大きな音を立てて回る羽が恐ろしい。

 渓谷の入り口まではまだ火が回っていないけれど、もう半分のところまで来ている。

 最初に白煙を上げた塔は、燃え崩れてしまっていた。

 

「急いで逃げなさいっ!」

 ろうそくに火をともすように、次々に羽に火が付く。

 消そうとしたのか、みな手に水桶を持っているがそんな水の量ではどうもできないと私でも分かる。

 モアディさまは、水や煤で汚れた女性の腕を掴んで、逃げなさいと促した。

「いえ、この施設は大事な施設なんです。なんとか…」

「命を落としますよ」


 モアディさまの冷たい口調で、事態の深刻さが伝わったのか女性は言葉を失った。


「みんなにも逃げるように言ってください。このままでは、死者が出てしまう」

 私からもお願いした。

 女性は私を見て一瞬すごく驚いて瞳を大きくしたけど、無言でうなずいてくれた。


「火薬庫だったら、こんなもんじゃすまないから違うな」

「ええ。白い粉が舞い上がっています。なにかの粉ですね」 

「さぁ、色だけじゃわからねぇな」

「後々調べましょう。いまはどうこの炎を止めるかです」 


 二人でそんなことを話しているけれど、どう消すというの?

 渓谷といっても、川や湖がそばにあるわけじゃない。

 井戸の水だけでは、どうにもならない。


「なにか策はあるか?」

「策と言っても、水がなければ……あなたはなにかありませんか? 夢では燃えるだけだったのですか?」

「へ?」


 急に私に振られると思っていなかった。

 夢では、消火についてはなにも。


 業火は渓谷にかかった石橋をも熱してしまい、逃げ道が断たれた人たちがたくさん出たと聞いている。

「と、とにかく避難を…橋が渡れなくなるから」

 石橋までは、急な坂になっているから徒歩だと厳しいだろう。

 でも、ここにはこの二頭の馬しか見当たらない。

 全員の避難は無理だし、なにより。


「私たちも避難しないと。モアディさまは軍に合流しないといけない」


 国の宝を、この(わざわい)に巻き込んではいけない。


「橋が渡れなくなるだと? なんだ、あれが落ちるのか?」

 石橋はイリの後方。振り返って見上げた石橋をイリが指さした。


「落ちはしないけど――――」

 理由を説明しようとしたとき、腕を組みなにかを思案していたモアディさまが恐ろしい提案を口にした。



「あの橋、落とせばいい」


一週間、早いなー。

三月ももう終わりです。

新しい環境になるので、やっぱりごたごたしていますが、ちまちまでも更新出来たらな、と。

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