第50話 盟約
そこへ行く、夢に見た、それに意味があるなら。
噴火なのか、渓谷火災なのか。
そのどちらとも同時期と言うのは、考えたくもない嫌な展開だけれども。
「その渓谷に行けと? いまでも遅れてるのにか?」
いつものことだけれど、イリは反対した。
「そんないつかも、起こるかもわからないことに、いまはつきあえない」
イリの主張はもっともだ。
護衛している魔法師をいち早く軍に合流させて、任務をこなさなければいけない。
私と言う予測外なことが起きてしまって、それができないのだからイラつくのもわかる。
「でも気になります。お願いです、通るだけでも……」
「あなたは、私たちにお願いをしてばかりですね。あなたからはなんの見返りも得られないのに、私たちがなぜ?」
頭を下げた私の上から、冷たい声が降り注ぐ。
さっきは同意してくれたモアディさまだったのに、やっぱりイリの言うことが正しいから考えが変わったのだろうか。
「見返りって…確かに私は、きっとなにもあなたたちに返せませんけど」
頼るところが、私にはなかったから。
確かに甘えているけれど。
「めんどくせぇ、見返りなんて求めねぇよ」
私が泣きそうになったからか、イリはぽつりとそうつぶやいた。
男には、泣く女が愛しくなるか面倒になるかのどっちかだと言うけれど、ふたりは後者だろう。
泣くな、泣いたら見放される。
泣くのはいつでもできる。
「返せる時が来たら、返します。とりあえず、イリと交わした契約もあるし利益も出てきているから金銭では返せます」
言いきったら、涙は引っ込んだ。
そうだ、私ちゃんと稼げてる。
大金ではないけれど、イリに渡せるものはあるんだ。
モアディさまには……ないけど。
「お金の問題ではなく―――――」
「あぁ、そうだったな」
モアディさまの言葉を、イリがさえぎった。
「金は大事だ。稼げるうちに稼がないと、いつ国がひっくり返るかわからないからな」
そう言って、にやりと笑う。
その顔はなに?
なにかを企んでいるような、悪い顔。
その笑いの意図がわからず、怖くなったけど天秤が示したのはイリだ。
それは信じたい。
「まぁ、金銭契約があるから見返り云々は無しだ。俺には見返りがあるんだから」
「はあ? お金でっ!?」
「見に行くだけだ。なにもない谷があったら、その時はこいつの髪でも切ればいい」
絶対納得していないモアディさまを、イリはそう言って説き伏せた。
「えぇっ!?」
驚いたのは私もだ。
どうしよう、この髪を切るですって?
なにを言いだすの!
私は思わず、この髪を触って確かめた。
まだ切られていないのに。
「どうしました? あぁ、髪は貴族女性にとって大切なものでしたね。だけど、この魔法師を惑わせた罰としては軽いでしょう。命じゃないのですから」
「ひっ……」
イリの笑いよりも、もっと怖い笑顔だった。
凍った。
大丈夫よね?
私の記憶違いってことはないわよね?
現在は週一更新でお届けしているこちら、今週もできました。ほっ。
年度切り替えもあり、私生活はバタバタしています。
あ、iPad発表されましたね。
私に何の関係があるかと言うと、買い替えるから今のあげるねってこないだ言われて、いまのノートもうギリギリだからもう文章書くだけならそれがいいかな、と。
りんご初心者で使いこなせないんですけれどね。
ということで、イリの笑みの意味は? な回でございました。




