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第三話 鍵

 仕掛け箱の中から取り出した鍵。




「どこの鍵?」




 お母さまの残してくれた手紙は紐解けたけど、また次の問題が出された感じ。


 出てきた鍵に、まったく見覚えがない。




 この屋敷の部屋の鍵などは、無駄に美しい細工がされているものがほとんどで、四葉をモチーフではあるが、こんなシンプルなものは家のものではないように思う。




 裏に「6」と小さい刻印があった。




 しばらく鍵を手にぼぅっと考えていたが、思い当たらないものは無理だ。




 お母さま、もっとヒント置いていってほしかったな。


 どこのなんの鍵なのか。




 隠し部屋? この家に私の知らない隠し地下室とか実はあったりするの?


 ここはお母さまの生まれた家だから、お母さましか知らない秘密の部屋があってもおかしくはないけれど。




「お嬢さま、お支度はいかがですか?」




「あっ!」




 考え事で物音がしない部屋を不審に思ったのだろう、心配でマリがまた顔を出した。




「ねぇ、マリ。この家は地下室とかあったりする?」


「地下室ですか? 私は存じ上げません」




 きっぱりとしたマリの答え。


 マリの母親もうちの使用人だから、マリは私よりうちに詳しい。


 だからお母さまも信頼してマリを私の担当にしたんだけど、マリが知らないならそんなものはないのだろう。




「それよりお嬢さま、これに大事なものだけをお詰め下さい。さ、こちらへ」




 マリの号令で、大きな箱を三つ使用人が部屋に持ち込んだ。


 箱の数が少ないとか、大きさもこれじゃなにを逆に持っていけばと悩むのは、前にやったからあえて言わないけど、言いたい。




「明日、新しい部屋のカーテンを街へ買いに行きましょう」




 まるでいいことのように言うけど、安価なものに買い替えられてしまうってことだ。


 マリは私がこれ以上落ち込まないように、元気づけのつもりで言ってくれているのよね。




「あぁ、そういえば」




 マリは、持っていける家具を持ち出す準備をしながら、私を振り返った。




「地下室はありませんが、お嬢さまは知らないかもしれない所は心当たりがありますよ」




「え!? ど、どこ!? そこの鍵は!?」




 思わずマリに駆け寄って、その腕をつかんでしまった。




「ど、どうされたんですか?」




 マリは驚いた顔をしていたけど、私も必死になってしまった。




「ここがひと段落したら案内いたしますよ」


「約束よ!」




 本当は今すぐにもと思ったけど、マリ以外はあまり信用できないからここは大人しく荷物の選別をする。




「これは絶対……」




 本に、オルゴールに、よく結んでもらったリボン。


 私は、お母さまとマリとの思い出を箱いっぱいに詰め込んだ。





「お待たせ!」




 早く支度しすぎて、まだマリの方の仕事が終わっていなかった。


 仕事が終わるのを、迷惑そうなマリについて回り待った。




「子供のころみたいですね」とマリに笑われたけれど。




 でもこのままだとマリは数日後に解雇で、私はマリと二度と会えなくなる。


 そう思ったら、ずっと子供のころのように後ろを付いていたい気持ちだった。




「こちらですよ」




 マリは階段を上がる。


 二階の奥は、住み込みのお手伝いさんエリアだから確かにあまり行くことはない。




「え? そこは道具部屋でしょ?」




 マリが手をかけた扉は、どの部屋より小さい。


 掃除用具をそこから出しているのを見たことがあるが、そこなの?


 でもその扉に鍵はついてない。




「少し狭いし、道具に隠れて普段は見えないんです」




 ぶら下がった箒をかき分けると、そこに小さい扉が出現した。




「隠し部屋!?」


「部屋ではありません、階段です」




 秘密部屋へ上がる階段なの?


 マリが開けた扉の向こうに、確かに狭い階段が見えた。




「上がってみますか?」


「上がるわ!」




 私はガッとスカートをたくし上げた。




「頭をぶつけないように」




「うん」




 いまの私の背でも、前かがみでくぐらないと通れない扉。


 灯したランタンでぼんやりと見える階段は石でできていて、壁はレンガ。


 壁に手をついて上がらないと危険なほど、狭く急な階段。


 上を見上げると、とても小さい窓があるのが見えた。




「え? 窓だけ?」




 踊り場についたけれど、そこから別の部屋への扉なんてなかった。


 灯り取りのような、小さい窓があるだけ。




「屋根や、煙突の点検修理にここを使うんです。この階段は……」




 言葉を止めて、マリは遠い目をした。




「アーリアさまが、お好きだったところです」




「お母さまが?」




 マリの視線の先は、街だった。


 小高い丘の上にある屋敷だから、街並みもその向こうに見える山並みや湖も見える。




「確かに、見晴らしがいいわね」




「アーリアさまは、しかられたときとなどにはここに上って街を見ていたそうですよ」




 狭いところに、二人並ぶからマリがとても近い。


 このぬくもりはお母さまじゃないけど、温かい。


「具合が悪くなられる前にも、ここに上がっているのを見ました」





「え……まさか……」




 街のいちばん大きな建物。その壁にかかった看板に、あのカギと同じモチーフが描かれている。




「マリ、あの建物は?」


 指をさすと、マリはすぐ答えてくれた。




「あれは四つの葉銀行ですよ。カイゼン家とは古くから取引があります」


「銀行……」


 自分で銀行なんていかないから、思いつかなかった。




「ねぇ、マリ。銀行で預かるものはお金以外もあるのよね?」




「貸金庫というものがあります。家に置いておけないものなど、預かってもらう方もいますね」




 そこだわ!




 あの鍵はあの四つの葉銀行のもので、お母さまはそこになにかをあずけている。




 四つの葉を見つめて、私は確信した。

隠し部屋、子供の頃うちにないか探し回ったことがあります。

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