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金の夕焼け、君の文

 僕が小学生だったころ。そこそこ広い庭の砂利、水道水垂らしては道掘って、小さな川みたいなの作って泥だらけになっていた。今思えば水道代が勿体ないなと絶対にできるものではないが、あの時はもちろん子供心と集中力で遊びに全力だった。

 友達が来た時もそんな風にやって、初めは友達も混乱して僕を外から見ていたけれど、参加したら一緒に頑張って砂利掘ってた。ここ掘って分離させようとか、合流させようとか、流してみてから決めようとか。

 まぁそうやって大作仕上げていって――――夕暮れになったらまた埋めてサヨナラだけど。


 いつだったか、その時は一人で、確かとても晴れた日だったか、また穴を掘っていたんだ。庭の外を通ってく近所のおばさんとかに、優しい目で見られていたのを覚えている。あと犬に吠えられたりして、ビビって逃げたりしたのも。

 大概一人の時はそんな感じで、ちょっと寂しさもあったけど、それを埋めるように砂利を掘っていた。時間が経つのどこか長かったな、一人で黙々だったから。

 でも掘っていくとやっぱり硬い岩にぶつかって、しばらく削ろうとシャベルの先をカンカンとやるんだけど、疲れて諦めて水流すんだ。

 

 「なんだこれ?」


 滲んだ水は次第に流れになって土を洗っていった。涼しい日光を反射させて、出来上がった川はまた煌めいて、まるで宝石箱のように。けれどもその日は――――本当に宝石があった。金色に輝く何かが川底にあったんだ。

 僕は期待ではなく疑問と不安に手を震わせて、ゆっくりゆっくりと金色に触れようとした。毒や未確認生物なんかと恐れていたのではなく、この世にはないかもしれない未知との遭遇だったから、好奇心の真逆のようなものだった。

 

 「小判? 小判だ!!」


 薄い楕円の金色――――どこかのアニメで不良警察官が騒いでいたので見たことがあった――――埋蔵金だった。僕は手に持って認識して初めて小判の輝きを目に映していた。そこで価値が分かって、嬉しさに体を震わせ、飛び跳ねたんだ。

 

 「よし、大ちゃんのとこに行こう!!」


 僕は泥まみれのまま、水道流したまま、無我夢中に大ちゃんの家へ走った。大ちゃんはよく遊んでいた友達で、小判を見つけたって驚かしてやろうって思ったんだ。

 横断歩道や近づく車に気づくことなく、後ろから叫ばれても無視して、とにかく走った。普段は怖い犬の吠えも気にせず、とにかく。

 

 「大ちゃん! これ見て!」

 「なに? どうしたの?」


 玄関の扉の隙間、ちょっと眠たげに大ちゃんが顔を出した。扉の高さに比べた子供の身長くらい、テンションが低い。


 「じゃーん! すごいでしょ!」

 「えーなにこれ?」

 「埋蔵金! 見つけたんだよ!」

 「まいぞうきん??」


 大ちゃんはピンと来ていないようで、首を傾げて小判を睨んでいた。それで「何がすごいの」って聞いてきて、僕はうまく説明できなかったけど、テレビで凄いって言ってたって叫んだ。


 「へー、貸してよ」

 「いいよ!」

 「うわーほんとに光ってる、すごーい」

 「小判だからね」

 「でもなんか形キモイね?」

 「え?」


 僕はピンと来ていなかっただろう。首を傾げて大ちゃんを睨んでいた。「そんなに形キモイ?」って聞いたら、大ちゃんはごにょごにょと、やっぱなんかキモイって呟いた。

 でもすごいものだって僕はなんとか説得した。驚いてほしかったし、たぶん見つけた自分も凄いんだぞって気持ちだったんだろうか。


 「それでさー武が窓ガラス割ってさー」

 「まじか、武どこにパス出してんだよ」

 「もう俺じゃなくて、あっち向いて――――あ、大樹なんだそれ?」


 大ちゃんの兄貴がやってきて、僕はガクブルと近くの車の後ろに隠れたくなっていた。大ちゃんの兄貴はすごく威圧感があって怖かったんだ。しかも友達連れで余計に怖かったのだと思う。

 大ちゃん兄は躊躇いなく大ちゃんが掴んでいた僕の小判を取り上げ、注意深く眺めた。その友達もいろいろ騒いで、僕の心は不安に硬直していた――――早く返して、僕の小判壊さないで――――けれども怖くて口出せずに。


 「よし、川行くぞ!」

 「新記録ってことか!」

 「ああ、このおもちゃ、絶対よく飛ぶだろ!」

 「ちょっ兄貴!」

 「うっせえ、勉強の時間だろ! これで遊んでたお前が悪い」

 

 大ちゃんの兄貴はそのままあっちへ、すぐ近くの川のほうへ走っていった。

 僕は察していた――――早く止めないと――――でも叫んで止める勇気はなく、その姿が見えなくなってから初めて追いかけた。


 「止めときなよ、兄貴に殴られるよ?」

 「でもあれはおもちゃじゃない! 僕の――――」


 手首を掴む大ちゃんを振り払い、僕は走った。

 正直、このときの感情は覚えていない。怖いはずなのにどこかまだ勇気や正義感もあって、ひょっとしたら小判を見つけた自分に何か力があるんだと幻想を抱いていたのだろうか。

 けれど僕は結局――――ダメだった。単純に走る体力が無かったのもあるが、土手を下りる勇気がなかった。

 僕の小判が無残に投げられたところをただ、ただ、上から見ていた。


 「うわー三回かよ」

 「全然飛ばなかったなー、あ、これなら飛ぶか?」

 「おい、俺の金ぴか丸よりそんな石のほうが飛ぶわけ――――」

 「はい、七回ー!」


 ずっと日が暮れるまで大ちゃんの兄貴らが水切りを楽しむ様子を見ていた。いつもよりも夕焼けが眩しかったのは、きっとそこに金の小判の影があったのだろう。


――――もしもあの日、私が大ちゃんの元へ行かずにその宝を隠していれば、今頃大金持ちだったろう。何故僕らは自分の求めているものをわざわざ他人に見せびらかすなんて、馬鹿な真似をするのだろうか――――

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