精霊の帰還
「リーフィア、生きてたのか?」
このリーフィアは、ソーサリーエレメントに宿っていた大精霊で、俺の師匠のリーフィアさんに取り憑いて俺を信じこませ、戦闘に巻き込んだ張本人だ。
だが、最後のサリエル戦で精霊石と一緒に砕け散ったはずだ。
「そうなの、精霊石は砕けたけど私の魂はそこに残っていて、周りの魔力を少しずつ吸収してやっとこの大きさまで戻ることができたのよ」
「そうだったのか。よくここまで来れたな」
「ずっと、あなたを探していたのよ。やっと見つけることができた」
「どうして俺を?」
「あ、そうだ大変なのよ。神様が···」
「神様?」
「人間の俺にどうしろと?」
「あなたにしかできないことなの···」
「詳しくはまだ話せないけど、私に力を貸してくれないかしら?」
「いや、俺はもう医術師として父さんの後を継ぐ決意を固めるところまで来ているんだ。今さら、お前に協力する義理はないだろ?」
「確かにそうだわ、あなたの師匠のことも、元の世界へ戻す約束も果たせなかったし···」
「その事は、もういいんだ。俺が、何とかするから」
「なんとかするって、何か宛でもあるの?」
「あ、いや···」
「だったら、私と世界を見ながら、手掛かりを探した方が有意義じゃないかしら?」
「まあ確かに···」
「だったら私と一緒に」
「いや、もう騙されない!お前の言うことを聞いてもロクなことがなかったからな」
「そんな···」
「とりあえず、今は帰ってくれないか。仕事中なんだ」
「分かったわ···」
リーフィアは、寂しそうな後ろ姿でゆっくりと去っていった。
「師匠のことは気になるが、今は仕事を覚えなきゃ」
数日後、いつものように日々の仕事に追われながらふと思った。
「神様か、もしかして神様に恩を売ればあるいは···」
そんなことを考えながら、町へ買い出しに来ていた。
「おい、ハーベル!」
「こんにちは、カザキ先輩」
「ハーベル、久しぶりだな」
「はい、お元気でしたか?」
「おお、修行三昧よ!」
「カザキ先輩らしいですね」
「お前は何してるんだ?」
「今は、買い出しに···家の手伝いをしているんです」
「そっか、またいつでも修行に付き合ってやるから声かけろよ」
「ありがとうございます」
そう言ってカザキ先輩は、忙しそうに走っていった。
「修行か、ここ数年、魔法も体術の修行も全然してないや···」
家へ戻る途中、小さな橋を渡ると向こう側に誰かうずくまっている。
「大丈夫ですか?」
「あれ、ハーベルじゃない!」
「ネルさん?」
「また、観察ですか?」
「違うよ!そこに咲いている花を詳しく見ていただけ」
「いや、それを観察と言うのでは···」
「観察もいいですけど気をつけてくださいね!」
「ハーベル、今は何しているの?」
「家の手伝いです。うち医術師なんで」
「そういえばそうだったね」
「そうだ、ネルさんちょっと時間ありませんか?ちょっと相談したいことがあるんですが···」
「うん、いいよ」
「忙しくないですか?」
「やることは、たくさんあるけど、ハーベルが最優先かな」
「そう言っていただけると助かります」
俺は、ネルさんと並木道を歩きながら相談してみた。
「なるほどね、でハーベルは何を迷っているの?」
「何って、医術師になるかリーフィアに協力するかで」
「いえ、何を迷うことがあるのかって聞いてるの」
「うん」
「本当に医術師になりたいなら、私は止めないけど、ハーベルの目標は何か?ってこと」
「師匠のことを···」
「でしょ、じゃあ迷うことなんて何もないじゃない!」
「はい、ネルさん」
「なんなら、私が一緒に着いていってあげようか?」
「ネルさんが?」
「あ、それはいいか···足手まといだしね···」
「そんなことないですよ。とても嬉しいです」
「本当?」
「もちろん、でもネルさんやること一杯あるって言ってませんでしたか?」
「いや、ハーベル優先、ハーベル第一だから、もうやることはなくなりました」
「ええ、絶対に無理してるでしょ」
「そんなことないもん」
ネルさんが顔を赤らめて怒っている姿を見ていると、
なぜかとても愛らしく思えた。
「もしよかったら、お付き合いください。よろしく頼みます」
「頼まれました!」
俺は、後で必ず連絡することを告げてテルミットを手渡した。
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