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1 春の訪れとともに魔女がやってくる

健気に生きる魔法使いの少女の短編です。

軽くお付き合いくださいませm(_ _)m


 中世を彷彿する剣と弓矢が支配する異世界「ノヴァリス」には、マナと呼ばれる未知なる力が自然界に満ちている。

 そこにはマナを操る精霊や魔法使いが存在し、一方でマナを力の源とする異物、魔獣が出没する。


 こうした世界の中で「渡り魔女」と呼ばれる魔法使い達がいた。

 彼女たちは一人、もしくは数人で、それぞれの得意な魔法で(ささ)やかな仕事(アルバイト)をしながら、各地の国や町を巡り旅している。

 十七歳の少女「ベティー・コルネ」もそんな渡り魔女の一人だった。


 冬を過ごしたアステカの街を飛去したベティーは、荷物を括った(ほうき)に乗って、ひたすら北へ向かって飛んでいた。


『うーーー、さぶーーー』


 ベティーの羽織る厚いローブの胸元に身を潜ませている黒猫のミーが、呻くように鳴いたあと

『僕たち北へ向かっているから、春を追っかけている方向なのに、なんなのこの寒さ』

 ※注:『 』は魔法使いしか理解できない猫言葉(鳴き声)、ということで。


「この先に大きな山脈があって、標高が高くなっているからね」

 ベティーは冷たい風で頬を赤くし、(かじか)む手で箒の柄を握りながら、どこまでも続く広大な針葉樹林の上を飛翔している。


 しばらくすると、地平に真白い筋の模様が浮かびあがる。

『あれってカルディア山脈じゃないの、確か標高6000m以上ある』

「そうだよ。見てあそこの山、有名なエレベストだよ」

 白の地平線の中に少し尖った山がある。


『エレベストって! 世界最高峰の山だよね』

「そうだよ」

 ミーは目を丸くして

『あそこを越えるの』


「まさか。山脈は越えられないから、これから行くイリア村に寄った後、山脈の麓に沿って東に向かって、そのままカルディア山脈の端まで行って内陸に向かうんだ」

 ミーは少しほっとした様子で


『山脈を迂回するのだね。大きな山脈だから結構かかりそうだね』

「一週間くらいかな」

『そんなに遠いのか、この山を越えれば近いのにね』

「山の上にはジェット気流という、めちゃくちゃ強い風が吹いて、気温も零下数十度になるらしいよ。それでも行きたい」

『とんでもない! 』

 大きく頭を振るミーに、ベティーが笑っている。



 遠くに見えていた山脈が次第に近づき、峻険な峰々の威容が遠望できるようになってきた。

 しばらくして、森が開けたところに湖と、その周囲に牧草地などが広がり、人家が見えてきた。

『村が見えてきた! 』

 ミーが嬉しそうに鳴くと、ベティーも人の営みを感じほっとする。

 そのまま村の入口に降り立つと、ベティーに気づいた子供たちが寄ってきた。


「ベティーだ! 」

「春告げ魔女さんだ」

 数人の子供たちに囲まれたベティーは

「こんにちは。みんな元気にしているようね」

 挨拶すると

「また他の町のお話し聞かせて」

「魔法見せて」

 などなど、元気な声で返事が返ってくる。さらに横のミーに気づくと

「ああ! 黒猫がいる」

「ミーっていうんだ。よろしくね」


『ミャー〜〜』 

 子供達に撫でまわされ、少しめいわくそうに一声鳴いた。

 そのまま、子供たちと一緒に村に入ると、すれ違う村人も笑顔で挨拶してくれる。


『へえー、歓迎されているね。それに春告げ魔女だって』

 足元を歩くミーがベティーを仰いで話す。もちろん、周りの子供たちには『ミャーミャー』と泣き声にしか聞こえない。


「ここではね。帰りに寄るときは、秋だから実りの魔女って呼ばれているの」

『なんか、女神様みたいだね。でも、()()()()、ってことは歓迎されないこともあるの』

「まあ、いろいろ」含みのある返事をした後

「大きな街には定住の魔女がいたり、渡り魔女もたくさん立寄るけど、こんな辺境の村に魔女はめったに来ないから、重宝されるんだ」

 答えをはぐらかしたが、ミーも察して話題をかえ


『そういえば、なんでベティーは渡り魔女をやっているの』

「………まあ、いろいろあってね」

 言い渋るベティーに

『いろいろ、ばかりだね』


「話すのめんどくさいし、そのうちね。それに、紳士はレディーの詮索をしないのじゃない」

 めんどくさい、というより言いたくないようだ。一方、紳士と言われたミーは、背すじをのばし


『そうだよ。僕は紳士だから』

 自称紳士と言うミーにベティーは笑いをこらえ

「猫のくせに紳士だなんて。おばあさんに拾われた野良猫じゃないの」

『ええ! これでも由緒正しい猫だよ』そう鳴いたあと

『……まあ、野良していたこともあったけど』小さく呟いたが、聞こえていないベティーは


「へえー、どこかの貴族にでも飼われていたの」

 信じられない様子のベティーに、ミーは

『いろいろ、あってね』

 つんとして言い返されたベティーは苦笑いする。


 こうして、先ほどからぼそぼそ話すベティーと、呼応するように鳴くミーに、子供たちは不思議そうに

「どうしたのベティー。猫とお話しているの」

 ベティーは子供たちに目を向け

「そうだよ」

「ええ! 猫と話せるの。すごいな」

 羨望のまなざしの子供たちに、ベティーは微笑んでいる。


 しばらくして、村に一か所ある小さな役場につくと、子供たちと別れて事務所を尋ねる。中には事務作業のおばさんが一人いるだけだった。


 おばさんがベティーに気づくと笑顔で

「おやベティーさん、いらっしゃい。部屋あいてるよ、何泊するんだい」

「はい。四泊ほどお願いします」

 おばさんは、すぐに鍵を用意して渡した。


 旅行客の来ない村なので旅館はないが、旅人や商人たちなど仕事で来る人のために、簡素な宿泊施設がある。

 板張りの小さな部屋に粗末なベッドと、小さな机があるだけの合宿所のような部屋だが


『久しぶりにベッドだね』

「そうね、この一週間ずっとテントや廃小屋だったし」

 長旅のうえ野宿続きのベティーとミーにとっては、豪華ホテルのようだった。

 疲れた足取りで荷物を床に放り投げ、その晩はゆっくりと休み、翌日から仕事(アルバイト)をすることにした。


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