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第百五十一話 試し釣り・2

作者: 山中幸盛

 隣接する名古屋市が『最も遅い猛暑日』の記録を更新した令和五年九月十五日金曜日に、新居の目の前の蟹江川で、二度目の試し釣りを行うことにした。うだるような暑さには閉口するが、北斗十二月号の原稿提出期限が近づいているのでやむを得ない。

 前回は家にあったハムをエサにしてアカミミガメが一匹釣れただけだったので、あわよくばフナやコイが釣れることを期待し、今回はミミズを使うつもりでいる。

 水田が小・中学生の頃は近所の畑の一角にある腐葉土などを堆積した場所を掘ればシマミミズが容易に獲れたものだが、さすがに今はそんなことできないし、あちこち探すのも面倒なので、近鉄蟹江駅近くにある釣具店で数十年前に買った記憶があるので、朝八時過ぎに行ってみた。

 店のオバサンに「ミミズありますか?」と聞いたところ「もう置いてないんだわぁ。皆さん練り餌がほとんどだでねぇ」と危惧していた通りの返答だ。店の棚に並んだ練り餌は種類が多すぎて初心者には選べないし、作り方もよく分からないので、虫エサファンの水田は「それじゃあ、ゴカイはありますか?」と聞いてみると、アオムシならあるというので、一杯だけ五百円で購入した。川は海と繋がっているしミミズとゴカイは似ているから釣れないこともないだろう。

 八時半頃から釣竿を二本出した。一本は投げ竿で8号のジェット天秤オモリを使い、一本はタナ(中層)を探れるように浮き仕掛けにした。針はおそらく十年以上前に釣具店で買ったキス・カレイ2本針仕掛けがあったので、今回は自分で仕掛けを作らずそれで間に合わせることにした。(市販の仕掛けは便利だが三十年ほど前、結び目がほどけたり針が折れたことがあったので信用できない。)だから、万が一大きなコイやライギョがかかった時のために、リールのドラグをゆるめに設定し、リュックの中には落としタモを忍ばせている。

 はたして何が釣れるかだが、百メートルほど離れた場所では海鵜か川鵜だかが二羽、盛んに潜水と浮上を繰り返しているし、時々ボラが水面高く連続ジャンプしているから、状況は悪くないはずだ。

 九時二十分頃に投げ竿の鈴が鳴ったのでリールを巻いていくと、重いだけで引くわけでもないからイヤな予感がする。足元から三十センチほど下の川面まで引き上げてみると案の定大きなアカミミガメだ。針を呑み込んでいるので糸をハサミで切って逃がしても良かったが、ブログ用に写真を撮って長さを測りたかったので、重さは一・五キロくらいありそうだからこのまま糸ごと引き上げると針が折れたり糸が切れたりするかもしれないので、膝を着いて右手を伸ばし胴体を掴んで陸に放り投げた。するとカメは結構な速さで逃げるのでサオでコントロールし、足で蹴飛ばして腹を上に向かせると両手両足と首を胴体に引っ込めて動かなくなった。写真を撮って寸法を測ると胴の長さは21センチだ。

 それ以来、十時を過ぎても何も釣れなかったが、投げ竿のエサを何者かに獲られ、川の流れが速くなってきたので、ウキ仕掛けの方もウキを外して投げ仕掛けに変更する。

 すると十一時頃、鈴が少し鳴ったような気がしたのでリールを巻いてみると、なんと体長6センチほどの小さなハゼが釣れていた。川にもハゼの仲間はいるが、このハゼは間違いなく海で見慣れたハゼと同じ種類と確信する。

 さらにその直後、鈴が鳴ったのでリールを巻いたら今度は体長22センチのアカミミガメが釣れてきた。先ほどのカメとは1センチしか違わないのに栄養状態がいいのかずいぶん大きく見える。このカメも同じように胴体を手で掴んで陸に放り投げ、写真を撮って寸法を測ったのだが、針は呑み込まず口に刺さっていたので、フイッシュトングの先で針を挟んで外そうとしていたら針がペキッと折れてカメはスタコラサッサと逃げて川にドボンと飛び込んで行った。

 猛暑の中での釣りに体力の限界を感じたので、残っている二本の針に新しいエサをつけ替えると残りは川に捨てた。その直後の十一時二十分頃に鈴が鳴ったので上げてみると、なんと海にいるはずの15センチのセイゴが釣れた。一瞬目を疑ったが、ハゼが釣れたのだからセイゴが釣れてもおかしくはない。朝来た時から時々大きな魚が水面で捕食するガバッという音が聞こえていたので、てっきりライギョだろうと思っていたが、もしかしたらセイゴが成長したスズキがボラの子供の群れを襲っていたのかもしれない。

 十一時半を過ぎたので、まずまずの釣果に満足し、もう帰ろうと決めてサオのリールを巻き上げると、今度は先ほどのセイゴより2センチほど大きなセイゴが釣れてきた。今日のセイゴたちは水温が低い川底付近に避暑しているようだ。

 徒歩で五分もかけずに家に帰ってシャワーで汗を流し、エアコンで躰を冷やしながら昼メシ食って少し昼寝した。そして起きて元気を取り戻した頭で地図を開いてみる。

 家の前から二・五キロほど下った地点で日光川と合流し、そこから四・五キロほど離れた下流域には有名な藤前干潟が広がっているが、合計すると七キロしか離れていない。

 思えば、木曽三川公園の辺りでもハゼが釣れることは知っていた。そこで地図に定規を当てて、木曽川の河口から木曽三川公園までの距離を測ってみると十三・五キロもある。なるほど、家の前でハゼやセイゴが釣れても不思議ではない。


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