一話
ザーザーと雨粒が屋根に当たった音で目が覚める、
どうやらベンチで寝ていたようだ、
背伸びをしようと手を握ろうとした時に何か持っていることに気づいたので、
見てみるとそこには駅の切符があった。
そういえばこの場所はと思い辺りを見渡す、
どうやらここは駅のロータリーで、
屋根沿いに歩けば濡れずに駅に行くことが出来るようだ。
周囲はビルが立ち並び大都会のようだが、
雨の降る音しか聞こえず人の気配がまるでない。
そして駅の反対、道路を挟んで向こう側に、
先端が雨雲に隠れて見えないほどの巨大なビルが立っていた。
そうかここがサーバーの中ということは、
自分の姿が気になったので髪をつまんで見てみるとそれは、
いつもの黒色ではなく黄緑色をしていた。
「この色は‥もしかして」と顔もどうなっているのか気になって、
近くの水面を覗いてみたが、波紋のせいでよく見えなかった。
ここに来る前に案内役が居て迎えに来ると聞いていたのだが、
さっきから色々していて、時間が経っているはずなのに来ない。
来なかったら駅にいると言っていたので、
探すために向かうことにした。
駅の入り口らへんは改札が無くここにも人の気配はしなかったが、
トイレがあったので、自分の姿を確認するために立ち寄り鏡を見ると、
そこには眠る前に私が作ったキャラクター、ノリの姿があった。
「これが‥自分の姿?」
変化した自分の姿を少し受け入れることが出来ず、
本当に自分なのか確かめるために
しばらく鏡の前でポーズをとったりしていたが、
こうしている間に案内役とすれ違うかもしれないので、
一旦気にするのを止めトイレを出て案内役を探すことにした。
ホームの方まで探しながら歩いていくと、
青色で4両編成の電車が止まっていた、
そしてその中に人影が見えたので案内役かなと思い電車に向かった。
電車の入り口から中を覗いてみると不思議な見た目をした子がいた、
その子は車掌が良く被っている帽子を被り、
半透明で青白く光っている。
そしてその子はつり革を一つずつ確認していた、点検でもしているのだろうか、
「あのー‥‥すみません」と声をかける。
その子がこちらに振り向く、
振り向いた顔は、メガネをかけていて、
片目に海賊が良くつけていそうな眼帯をつけていた。
「あっ、どうもすみません車両の点検をしていて迎えが遅くなってしまいました」
その子が申し訳なさそうにお辞儀をした。
「あなたが案内役ですか?」
「そうです私が案内役ですよ」
どうやらこの子が案内役のようだ。
せっかくなので目覚めたときにあった、
切符について聞いてみることにした。
「この切符が何か知っていませんか?」
「それはこの電車の切符で、
各島にある駅を回りながらチュートリアルを受けることが出来ますよ、
せっかくですしもう出発しますか?」
まあ他にやることが無いので、
「お願いします」と答えた。
「わかりました、出発時に揺れますので座席に座ってお待ちください」
そういってその子は前車両に向かって行ったので、
座って待っていると電車が動き出した。
しばらく窓から大都会の景色を眺めていたが、
トンネルに入ってしまい、やることがないので切符を眺めていたら、
前車両からさっきの子がやってきた。
よく見ると、着物っぽい服と短パンの間にある帯から
アザラシの尻尾みたいなのが出ている。
「改めまして私の名前はデコイズCP、案内人代行としてあなたを案内します、
何か質問がありましたなら気軽に声をかけてください」
「わかりました、なら早速ですがそのアザラシの尻尾みたいなのは何ですか?」
「これですか、これは地面や硬い所で座りたいときに、
クッションになってくれる便利グッズです」
そう言いながらデコイズCPは向かいの席に座った。
「案内人代行ということは他の人が居るのですか?」
「はい、ここを管理しているデコイズという名前の子がいるのですが、
ネクストライフプランが始まると
一気に5000人以上が最初にここを訪れます、
そうなるとデコイズだけでは対処しきれないので、
私達CPが案内をしています」
そうやって話していたらいきなり窓からまぶしい光が入ってきたので、
ドンネルを抜けたかなと思って窓の外を見てみたら驚愕した、
さっきまでの大都会とは打って変わって窓の外は一面に広がる海と島々だった。
窓の下あたりを見ると線路が海面ギリギリのところにあり、
鳥居の形の架線柱が向こうにある灯台が見える島まで続いていた、
目の前に広がる非現実的な景色に見とれていると
デコイズCPが一言言った。
「ようこそチュートリアル群島へ」