プロローグ
玄関の扉を開けて、
「ただいまー、疲れた~」
と靴を脱ぎだるそうにテーブルまで歩き、
買ってきた弁当を食べながら
刺激を求めスマホでSNSを見る。
いつものような繰り返し、
そう思っていたが今日は少し違った。
ふと、SNSで凄く話題になっている記事が目に入った、
「ネクストライフプラン‥リローケタブル? なんじゃそりゃ」
聞いたことない言葉だったのでさっそく検索する。
「リローケタブルっと」
すると、トップページにカトルロという会社が最近発表した、
生まれ変わり技術と書いてあるが、
「生まれ変わり技術?」
ざっくりしすぎていてわからないので、
カトルロ社とやらのリンクを押しウェブサイトを見ることにした。
すると、どうやら作ったキャラクターで仮想現実世界を40日楽しんでいる間に、
現実の自分の体がそのキャラクターと同じ姿になる正に夢の技術だそうだ。
正式に特許も取っていて、ニュースで引っ張りだこになっているらしい。
で気になる値段は、割と高いが貯金崩せば行けそうだな、
すごく胡散臭いが話題にもなっているし、
ちょうど刺激が欲しかったから応募してみようかな、
という軽い気持ちで応募用のページから応募することに、
「メールアドレス登録よし! 当たってくれ~」
応募を済ませ、スマホにお祈りしてからシャワーを浴びに浴室に向かった。
それから何日か後、当選していればメールが来るはずの日になった。
日中にメールが来なかったので、帰宅して布団に寝転がりながら、
SNSで当選したつぶやきを見つつ待っていると、
メールの通知が来たので、すぐに確認するがそれは落選のメールだった。
「そりゃあ、当たるわけないか」
悔しいが、もう寝て明日に備えようと布団を被る。
‥‥それからひと月と半分が経ち、話題が下火になっていたころに、
再びカトルロ社から定員応募をするという発表があったので、
乗るしかないと思い応募することに。
そして結果が届く日、昼ご飯を食べる前にメールが気になるので確認すると、
カトルロ社から当選のメールが届いていた。
「えっ!? やったー!」
メールを開いて読む、その内容はメールが届いた4週間後に車で迎えに来るので、
それまでに身分証明書と個人的に必要となる物を、まとめて荷物にしておくこと。
40日間の長期滞在になるため、
カトルロ社のサイトにある長期不在Q&Aを読み、
長期不在の準備をしておくこと。
支払いは、このメールにある振込用のURLを使い、
事前にインターネット経由で払うか、
当日受付にて説明を聞いた後カードや現金で払うこと。
車で迎えに来た際本人確認のために身分証明書と、このメール本文を使って
確認するため、このメールは消さずに大切に保存しておくこと。
というもので、メールの最後には車で行く場所なのか、
山の谷間に白色の建物が立っていて、通りようになっている場所の奥に、
正面がガラス張りで横長な建物と、迎え用の車の写真がのっている。
メールを読み終わり、さっそく準備しようと昼ご飯を食べて、
必要なものを買いに出掛けた。
それから4週間後、準備や事前に支払いを終えて、
メールにあった迎えの車を窓から探していた。
すると写真と同じ車が、
自分のいるアパートの道沿いに止まった。
「あっ来た!」
準備していた荷物を持って向かう、
アパートの階段を降りると、車から運転手が出てきたので、
その人に
「すみません、メールに書いてあった迎えの車ですか」
と話しかけると、
「はいそうです、本人確認のため身分証明書と当選のメールを見せてください」
この車で間違いないようだ、
ポケットから身分証明のカードとメールを取り出して見せる。
「確認いたしました、お荷物をお預かりする前に、
電気の消し忘れや戸締りなどは大丈夫でしょうか?」
「はい! 大丈夫です」
そう答えて車に乗って待っていると、
荷物を積み終えた運転手が乗り出発した。
出発してからしばらくたって運転手が、
「まあ目的地までまだありますので、景色でも見ながらくつろいでいてください」
と言ってくれたので言葉に甘えて景色を眺める、
しばらく眺めたあと、スマホでゲームやSNSをしていたが、
最近の疲労や車の揺れで、眠たくなってきたので寝ることにした。
「お客さんもうすぐ着きますよ」
運転手の声で目が覚め、あくびをしながら窓の外を見ると、
車はメールにあった白色の建物の通りを走っていた。
起きて降りる準備していると、正面に写真で見たことある
建物が見えてきて、その横にある駐車場に止まった。
車を降りて荷物を受け取り、
「建物に入りましたら、まずは受付に行ってください」
と運転手から説明を聞いて建物に向かった。
建物に入ると、そこは病院のロビーのようになっていた。
さっきの運転手に言われたとおりに
受付に話しかけ本人確認をすると、
「確認が取れましたので、あちらの個別カウンター9番で、
ネクストライフプランの説明や、事前準備を受けてください」
そう言われたので個別カウンターに向かい、椅子に座ると説明が始まった。
「こんにちは、ここではネクストライフプランについて大まかに説明をします。
まず基本的に、お客様はコンパクトシティという所で過ごすことになります」
「コンパクトシティ?」
「コンパクトシティは、バイトしたり仲間と遊びに行ったり
買い物したりして、お客様が40日間を自由に過ごす場所です。
そして、それとは別にネクストライフプランの目玉要素として、
ダンジョンと言う要素があります」
「ダンジョン‥?」
「ダンジョンは、40日間の非現実をより楽しむ要素となっていまして、
自分で作った武器を使い、
そのダンジョン特有のギミックや敵と戦うことが出来ます。
そして奥でボスとして待ち構えている施設管理者と戦い勝利すると、
クリアの証としてスタンプを手に入れることが出来ます」
「スタンプって何に使いますか?」
「スタンプは一定の数集めると、
統合管理人に挑むことが出来るようになりまして、
勝利するとより高い難易度が解放されます」
「スタンプは全部で何個ですか?」
「まずチュートリアルで一個、初級は五個、
中級も同じく五個、上級が八個の計十九個になっています」
「これで大まかな説明は以上ですが、他に質問はありませんか?」
「いえ大丈夫です」
「わかりました次は支払いですが、お客様は事前に済ませていますので、
その次のキャラクター作成をします。
あちらの作成と書かれた名札がある部屋に行きまして、
こちらのカードと数字が一緒の座席を探して、
座席のパソコンに付属している端末にカードをかざしてください。
かざすと案内が出ますので、その案内に従いキャラクターを作成してください、
作成が終わりましたら完了ボタンを押して、
カードをここに返却しに来てください」
番号が書いてあるカードを受け取り、
キャラクターか何にしようかなと軽く考えながら歩き、
部屋に入り、カードにある番号の座席を見つけたので端末にカードをかざす、
そうするとパソコンの電源がつき作成画面に、
キャラクターの名前を決めてくださいと表示された。
椅子にもたれかかり考え、頭の中で複数の案が浮かんでいたが決まらず、
スマホでいい名前を探そうとカバンを開いたとき、
ふと隅っこにあったスティックノリに目が行く。
ノリか、これでいいなと思い名前はノリにした、
入力すると顔の設定画面になったので、
いじりながら考えた結果、髪型は黄緑色のショートにして目は水色で、
耳は普通の頼りがいのある感じの顔に決まったので決定ボタンを押す。
体の設定画面が出てきたが特にこだわりがないので
いじらずに完了のボタンを押すと、
画面にキャラクターの設定が終わりましたと出てきたので、
席を立ち個別カウンターにカードを返却すると、また説明が始まった。
「次は、体に異常がないかどうかを調べますので、
あちらの更衣室でこの服に着替えてください。
脱いだ服は荷物と一緒に保管しますので、
専用の袋に入れて荷物にまとめて出してください、
順番が来ましたら服に書いてある番号を呼びますのでそれまでお待ちください。
呼ばれましたら向こう側の通路に向かい
指定された部屋に入って検査を受けてください。
終わりましたら、また説明を聞きにここへ戻って来てください」
裾の部分に72の数字が書かれた白い服と袋を受け取り、
更衣室で着替えて袋と荷物を個別カウンターに出し、近くのソファーに座る。
しばらく待っていると
「72番72番のお客様は1番室へどうぞ」と呼ばれたので、
1番の名札が書かれた部屋へ移動した。
部屋に入ると、CT検査で使う機械が置いてあって、
その隣の椅子に白衣を着た人が座っていた。
「こんにちは、ここではリローケタブルを行う際、
万が一でも体にトラブルが起こらないために検査をします」
それから問診やCT検査などをして個別カウンターに戻った。
「これにて、ネクストライフプランの準備が整いましたので、
最後にトイレや他に預かる荷物などは無いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「わかりました、それでは個別カウンター横の通路にある
7番部屋に向かってください」
いよいよかと通路を歩き一息ついてから、ドアノブを回し7番部屋に入る。
部屋の中には、SFでよく見るカプセル型のベッドと白衣の人が居て、
自分が来たことを確認すると話し始めた。
「こんにちは、ここではネクストライフプランの最後の準備をします。
とは言っても、お客様はこちらのベッドで寝るだけですのでご安心ください」
「このベッドは?」
「リローケタブルのサーバー側に送るためには、
お客様は深く眠る必要があります。
このベッドはアロマの匂いやヒーリングミュージックなどで、
それを手助けするためのものです」
白衣の人がカプセルの蓋を開けて
「ではこちらの枕を自分が寝やすい場所に置いて横になってください」
手渡された枕を置き横になる。
「最後に向こうに着きましたら案内役が迎えに来るはずですが、
来なかった場合お手数をおかけしますが、駅にいると思うので探してください」
そう言った後カプセルの蓋が閉まり、
アロマや川のせせらぎに包まれながら、
ゆっくりとまぶたを閉じた。