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神殺しの騎士は振り回される

この部分でとあるTL小説の結末が少しわかってしまうんですが、それは流しておいてください。

「神殺しの騎士」の異名が広まるきっかけとなる部分です。

とても団長が振り回されていますが、読者も振り回されています。ごめんな。

真相に関しては次くらいでわかるよ。たぶん。

それからの時間はあっという間だった。

学校を卒業し、すぐに騎士団へと入隊。それから沢山の努力を重ね、三年後には騎士団長へと昇りつめた。

クラス委員長だったガウリイル殿下は、王位を継承し、四代目の国王陛下になった。

陛下の横には溺愛する異世界から来た女性である王妃様が座られている。

今はこうして玉座では対等の位置に座っているが、自室に戻ると椅子に座る王妃様の膝に擦り寄るように座り込む姿がある。

初めてその姿を見た時は別人かと思ってしまった。

国王陛下が飼い犬のように甘えている姿は、とにかく衝撃的だった。違法な手段で結婚できたらしいが、おそらくこれは代償なのだろう。

上役の人間しかその状況を知らないため、これは国家秘密であると教えられた。


(そこまでして、結婚したい相手だったのか……恋は人を変えてしまうな)


それと陛下は一見、紺色のチョーカーが首に付けているがあれの本来の姿は「服従の首輪」らしい。

王妃様への絶対服従を誓う国王陛下はたぶん、この人が初だろう。

というか、後にも先にもこれきりにしてくれ、と側近の文官が嘆いていた。なんか可哀想だな。

国王陛下への書類関係を提出した後、鍛錬場へと足を運ぶ。

今はちょうど休憩中のようだった。副団長に現状の確認を取っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「だぁあああんちょぉおおお!!!!」

「つまり、修練用の木剣の破損が増えてきているのか」


副団長との打ち合わせを途絶えさせず、後ろから飛びついてきたそれをそのままにする。


「だんちょ、だんちょ、だーぁんちょー!」

「修繕費用の方が高いか、新規購入の方が高いか要検討だな。文官に伝えておこう」

「えっと、団長……さっきからルカが……」

「知っている。こいつはいつもこうだ」

「気づいているなら、構ってよー!ねぇ、だんちょおおお!!!」


背中に頭を押し付けているのか、それがくすぐったい。

提出書類に一通り目を通し、誰に渡すかを指示出しする。それから背中にくっついているルカを引っぺがす。

片手で抱っこすると、サイドポシェットから小さな飴を取り出して口に入れる。


「んふー!んむんむー」

「ルカ、お前には好き嫌いはないのか?」


嬉しそうに飴を舐める姿を見て、そう聞くと大きく縦に頷いた。

つい最近までひっそりと贈り物をしていたが、次は食べ物系がいいかもしれない。

飴で大人しくなったルカを片手で抱っこした状態のまま、休憩が終わった団員たちに鍛錬の監督役を始めた。

鍛錬終了後、王城へ向かうととてもざわついていた。

何かあったのだろうかと思い、そのまま執務室へと向かう。

そこには国王陛下と、隣国の公王となった兄のミハイル様が難しい顔をされていた。


「失礼します。何か起こったのでしょうか?」

「あ、団長……それが、信じ難い話が起こって……兄さん」

「僕から話すよ。騎士団長、中立国とこの国の間に、渓谷があるのは知っているかな」

「はい、昔に出来た渓谷だと聞いています」

「そこに邪神が現れたそうなんだ。ルカ、お前の因縁の相手だ」


情報量が多すぎて混乱しそうになる。

まず神が現れること自体が前代未聞だ。しかも、邪神となると周囲に厄災が多発しているはず。

それにルカの因縁の相手というのはどういうことだろうか。

謎が多すぎる。疑問は多いが、ひとまず邪神をどうにかしにないことには事態を収束できない。

身体を強張らせて小さく震えるルカの姿は見ずに、ただ抱き寄せていた。


「周囲の被害状況はどうなっているのでしょうか?」

「先発隊は全滅、周辺の村の情報は一切不明。限りなく最悪な状況だ」

「兄さん、やっぱり俺が行った方が……」


国王陛下は結婚した直後に、巨大魔獣を単身で討伐したことがある。

しかもその魔獣の数は十を越えていたから、本当に化け物みたいに強い。

だからこそ自分が出ようとしているのだろう。けれど、今は王妃様が身重で、国王陛下はもうすぐ父になる。


「いえ、国王陛下は我らの要であり、今後産まれる殿下の父君です。単身で討伐するのは得策ではありません」

「そうだけど……」

「ガウリイル、団長の言う通りだよ。お前は総大将なんだ。前線には行くべきじゃない」

「前線に赴くのでしたら、俺でも問題ないかと」


三人から「えっ」と言われる。そう反応されるとは思わず俺も「え?」と返してしまった。

力不足だと思われているのか、無謀だと思われているのかよくわからない。


「だ、団長?本気で言ってる、の?」

「相手は邪神だぞ?堕ちてはいるけど、神だぞ?」

「物理攻撃が通るのであれば、神でも殺せるかと思いますが」


ミハイル様がすごく困惑している。陛下は必死に笑いを堪えている様子だった。

ルカはその邪神について知っているようだったので、物理攻撃は通るのか聞いてみると「と、とおり、ます……」とぎこちない返答をされた。ルカでも動揺することがあるんだな。

ミハイル様に近づいて、そっとルカを手渡すと一礼をして部屋を出た。


「ええええ?!もしかして今から行くつもり?!ちょ、ちょっと騎士団長ー?!」


執務室からすごい声が聞こえたが、今は聞かなかったことにしよう。

あれだけ大声を出せるのは、たぶんミハイル様の方だろう。国王陛下の大声は戦闘時にしか聞いたことがないからな。

自室に戻り、装備を整えると武器庫に向かう。そこの奥の壁にかかった大剣を手に取る。

この大剣は本来国王陛下が使っていたものだ。巨悪に立ち向かうための宝剣らしい。

両手剣らしいが、国王陛下は軽々と片手で扱っていた。俺も持ってみたが、片手で持てる。

専用の鞘に納め、馬小屋に向かうと愛馬であるブラックを連れて渓谷へと向かった。

黒い馬だからブラックって安直だなと同期に笑われてしまったが、ブラックはこの名前を気に入っている様子だった。

王城から二・三日かかると言われている距離を軍馬で入りぬけ、目的の渓谷にたどり着くと周囲は悲惨なものだった。

黒い霧が立ち込め、雑草すら存在しない。人の気配もない。

霧の濃度が高い方向へと進むと、途中で人骨が転がっていた。おそらく先発隊のものだろう。

途中でブラックが暴れ出した。


「どうした……?!あぁ、一番瘴気が濃いのか……落ち着け、ブラック。お前はここで待機していてくれ」


ブラックを宥め、降りて近くの岩肌に待機させる。ブラックは心配そうにこっちを見ている。

苦笑しながら「俺は大丈夫だ」とだけ告げると、そのまま瘴気の奥へと進む。

すると突然下から骨の手が現れた。身構えると、下からそいつが姿を現した。

両手が骨だが、ブラックドラゴンの羽根に黒衣を纏う巨人。顔はフードで見えない。こいつが邪神だろう。


「……本当に物理攻撃が通るのかわからないな」


ぽつりとそう呟きながら、鞘から大剣を取り出し炎の魔法を唱える。

魔法剣なら物理がダメでも通る可能性は高くなる。

こちらを捕まえようと片手が伸びるが、それを回避して飛び乗り、一気に顔へと近寄る。

すぐにそれを阻止しようと片手が伸びる前に、顔面を突き刺すと甲高い悲鳴が上がる。


「効くんだな。なるほど」


一人で納得した後、剣を引き抜き、頭上に飛び乗ると身体を使い、首を一刀両断する。

頭と首が分断された瞬間に、その空洞に剣を突き刺す。

ほぼ中身は空洞に近かったが、途中の心臓部らしきところも無事に破壊できたようで悲鳴を上げながら邪神は消え去った。

地上に降りると、そこには奴の黒衣だけが残っている。他の部位は消滅してしまったのだろう。


「……邪神のわりに、あっけなかったな」


黒衣を回収しながら、ブラックのところへと戻る。

平然としている俺を見て困惑しているようだったが、帰ろう、と告げると大人しく城へと帰ることができた。

王城にたどり着いた頃、ブラックを馬小屋に戻して執務室へと向かう。


「国王陛下、ミハイル様。戻りました」

「え、え?騎士団長、それって……?」

「邪神が着ていた黒衣だと思います。首を落としましたが消滅しました」


ミハイル様がすごいドン引きしている。国王陛下は俯いた状態で腹を抱えて笑っているようだった。

何かおかしいんだろうか、この状況は。わからないことが多すぎてどうしたらいいんだろうか。

ようやく笑いが収まったらしい国王陛下が顔を上げて、黒衣をミハイル様に渡すよう言われた。

その後はバタバタとどこかへ行かれていたが、あれはどうするのだろう。


「団長はすごいね。本当に邪神を倒してしまったんだ」

「陛下があれは邪神の服だというのならそうなのでしょう。無傷で帰還できてしまいましたが」

「ふふ、実感ないって顔しているね。今の状況がわからなくても、淡々とやり遂げるところは変わっていないね」


そういう陛下も昔と変わらないと思うのだが、言わないでおく。

そんな話をした後、神官たちから呼び出しを受け、急遽中立国へと出向くことになった。

何か怒られるのかと思いきや、希代の英雄として称えられてしまった。

英雄の像として城門に建てようと提案された時は丁重に断っておいた。目立ちたくない。

神官たちの上司でもあるミハイル様はそれを見ていて、苦笑していた。


「ガウリイルもだけど、どうしてお前たちはそんなに名声に無頓着なんだよ……」

「色々と面倒事になりそうなので」

「なんだか雑だな。それなら、お前が欲しいものってないのか?」

「ものではないのですが、生涯の伴侶として傍にいたい相手はいます」


そこまで告げると、ミハイル様が王子らしくない悪い笑みを浮かべていた。悪い顔が似合わない人だな。

紙とペンを持って来させると、何か書いて俺に渡してきた。


「ガウリイルに渡してくれ。渡せばわかると思うから」

「はぁ……?わかりました」

「そんな困った顔するなって。すぐわかるからさ」


この人がそういうのならそうなのだろう。

その手紙を持ったまま王城へと戻ると、いつも通りルカが背中に飛びついてきた。

俺の身長は国王陛下ほどではないが、それなりに高い方だがよく飛びつけるものだ。

引っぺがして片手で抱きかかえたまま、執務室へと向かうと国王陛下が出迎えてくれた。


「おかえり、騎士団長。みんなから神殺しの騎士って噂されていたよ」

「……あまり嬉しくない呼び名ですね。反逆者みたいに聞こえます」

「ふふ、本当だよね。あれ、兄さんから何か貰ったの?」

「はい、ミハイル様から陛下宛てに、と伺っております。渡せばわかる、と」


その場ですぐに開封し、読み終わるとルカに声をかけている。


「ルカ、もうお前の時止めの魔術は必要がないと思うよ。兄さんなら解除できるから、行っておいで」

「んぇ?んー、わかった!だんちょー、下ろしてー」

「あ、あぁ……時止めの魔術ってなんだ……?」

「そのままだよ。ボクの時間をずっと止めてたの。それを解除しておいでって言われたー」


俺からの疑問にそう答えると、下ろした瞬間にすぐにいなくなってしまった。

たぶん転移魔法だろう。

全く状況が掴めない俺は、ただ茫然とその姿を見守ることしかできなかった。

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