無表情の騎士は初恋をする
このオリジナルBL小説は、とあるTL小説と繋がる位置にあります。
国名や登場人物の名前は架空のものですので、現実とごっちゃにならないよう気をつけて下さい。
それはないと思うけど。
感情は、不鮮明で不必要なものだと思っていた。
それはある日を境に、真逆の結論を手にすることになる。
とある国の騎士の家系に生まれて、何不自由なく生きてきた。
三人兄弟で、俺は次男坊。特に家を継ぐ必要もないため、何も考えず国の騎士団に入ろうと先を決めた。
そのためには学校で訓練を受け、筆記試験と実技試験を突破しないといけない。
筆記はあまり得意ではないが、やれなくはない。実技は昔から父親に鍛えられているので問題ないと言われてしまった。
ただ、最後に行われる面接をとても心配されている。
学校に入学する前に、その答えを聞こうと思って父親に問い詰めたことがある。
執務室にいた父は大きなため息を吐いて、顔を指さした。
「昔からだけどな、お前の表情のなさが心配なんだ」
「……騎士に感情は不要かと」
「……時には必要になるんだ。まぁ教育してこなかった俺も悪いんだが……」
三兄弟の中で俺だけ特に無表情。そのことを心配されているようだった。
表情がないのは他者から畏怖されてしまう。
特に騎士団は団体行動をするので、協調性が重要視される。
「……それなら、傭兵になった方がいいですか?」
「傭兵でも団体行動は取る。どちらでも同じだ。やれるだけやってこい」
「はぁ……?」
心配されているのか、激励されているのかよく分からなかった。
話はこれで終わりだ、と一方的に告げられて俺は渋々執務室を後にする。
学校に通う間は寮生活になる。必要なものをカバンに詰め込んで、共同馬車に揺られて家を後にした。
到着後、すぐにオリエンテーションが始まり、教師からの説明があった。
眼鏡をかけて黒いローブを着ている辺り、おそらく魔術師の一人だろう。しかも王宮魔術師のバッチが付いている。
上位の魔術師がここで何やってるんだろうと思わなくもない。
「以上が、この学校の説明になります。何か質問ある人ー?」
「先生、いいですか?」
「はい、どうぞ」
「さっきから先生の足元にくっついている子は誰ですか?」
え。と教師が下を見ると、確かに黒いフードを被った小さい子どもがいる。
気づかれたと思ったのか、教師の視線とは逆方向に移動する。
「あ、こら!お前は殿下たちの横にいろって言っただろう?ちょろちょろするな!」
「えへへーだぁって、暇なんだもんー!」
「暇じゃないだろう、護衛の仕事をしろ!仕事を!」
はぁい、と返事をすると殿下と呼ばれた少年のところへと行ってしまった。
王族の人は初めて見るが、確かに綺麗な顔立ちをしている。
俺の視線に気づいたのか、その殿下がニッコリ微笑みを返してくれた。綺麗な笑顔が眩しい。
「えーっと、そのおチビは王族専属の護衛魔術師なんだ。見た目は5歳児だけど魔術の力は私たちより上だ」
「へぇ、こんなに可愛いのにすごいんだね!お名前は何かな?」
「ボク?ボクの名前はルカだよ。よろしくねぇ」
俺の隣にいる少女は全く臆することなく話しかけている。
王宮魔術師よりも優れている護衛魔術師に気安く話しかけられるものではない。
けれどそのルールは上位階級にある貴族たちでの話だ。
もしかしたら、この少女は男爵なのかもしれない。
どことなく母と似たタイプのような気がする。少し苦手だ。
そうしていると、クラス分けが行われ、俺は殿下と同じクラスになった。
必然的にその殿下がクラスの委員長となり、クラスを率いることになる。
誰が上になろうと関係ない。けれど、その日からいつも一緒にいる護衛魔術師のルカを探すようになっていた。
ちょろちょろ動き回って、誰に対しても人懐っこく愛らしい。
しかし、フードだけは決して外すことがなくルカの顔を見た者は殿下たち以外はいない。
不思議な奴だと思う反面、すっと傍で見ていたいという感覚でいっぱいだった。
「アレックス、聞いているのか?」
「え、あ、すみません」
「お前が上の空なんて珍しいな。具合でも悪いのか?」
「いいえ、体調は良好です。その、ガウリイル殿下の護衛の姿が見えないなと思いまして・・・」
今はちょうど中間試験のための陣営に関する打ち合わせの最中だった。
隊長は殿下だが、俺は副隊長に任命されている。
大事な時に何を考えているんだ、俺は。正直なことを打ち明けると、なるほどね、と納得した顔をされた。
「ルカは兄さんのところだよ。もしかして、それできょろきょろしていたの?」
「え、きょろきょろしていましたか……?」
「しかも無自覚なんだね。ねぇ、初恋ってしたことある?」
「……いえ、ないです。恋が何かも分からないので」
「なるほどね、それならきっと、今がそうなんだと思うよ。アレックス、君はルカに恋してる」
真正面からそう言いきられて心臓が大きく跳ねる。
何か言い返そうと思っても、言葉が出ない。とても確信を突かれた気がしたからだ。
どうにも気まずさを感じて、視線を下げてしまう。
「ごめんね。困らせるつもりはなかったんだけど……アレックスがルカを見ている時はね、とても優しい顔をしているんだよ」
「他の人たちには……?」
「気づいているのは、俺と兄さんくらいだよ。それぐらいほんの一瞬だけだから」
まさか一瞬だけでも顔に出ていたとは思わなかった。
日頃から無表情な俺だから、すぐに感情の変化に気づけたのだろう。
「ルカには告白しないの?」
「あいつは男です。きっと気持ち悪いと思われて、離れて行ってしまう。それだけは嫌なんです」
「……ルカはそういう子じゃないんだけどな。でも、明日からは必然的にルカとも関わり合いが増えてくると思うよ。大丈夫?」
「大丈夫です。感情を出さないことだけは慣れていますので」
「そうか、わかった。これ以上は言わないでおこう」
恋心を自覚したのは、本当にその時だった。
それと同時に絶対に想いを告げないことを決意した時でもあった。