生産職の人に気に入られてしまった
「………」
オレは先程フレンドになったびよんどさんに教えて貰った、とある店に足を踏み入れた。
この店は、どうやら武具店のようだ。
壁には色々な武器や盾が飾られており、棚にも様々な種類の刀剣類が所狭しと並べられている。
そんな店内は閑散としていて、ともすれば閑古鳥の鳴き声が聞こえて来そうな程静かだった。
そして店内の奥のカウンターに、ひとりの女性プレイヤーが座りながら居眠りをしていた…………居眠り?
「おーい」
「むにゃむにゃ……、すぴー……」
「起きてくださいませんかー」
「すぴー……、すぴー……」
「…………」
起きる気配すら無い……。
「起ぉきろおおおぉぉぉっ!」
「うひゃあぁあぁあぁあっ!」
オレは彼女の耳をグイッと引っ張り、大声で呼びかけると、彼女はようやく目を覚ました。
「え? え?」
「ようやく起きてくれた……」
「あ……っ」
オレの姿に気がついた女性プレイヤーは、すぐさまパパっと身なりを整えて向き直った。
「いらっしゃいませー!」
とびっきりの営業スマイル。
「今さら取り繕っても遅いですけど」
「うぐ……っ。……それで、何かご用ですか? ……というか、よく見たらとても可愛らしいお客様ですね」
「ちゃんと公開プロフィールを見てください」
「公開プロフィール……、……え?」
「ふふん」
オレのプロフィールを見た女性は、しばらくの間フリーズした。
そして……。
「きゃあぁあぁあぁあ♪ まさかホンモノの男の娘?! このゲームを始めてから、初めて男の娘アバターに出会ったわ! きゃー嬉しいっ♪」
「お、おぉ?!」
何なのだろうか、この人は……?
こういうのは初めてだ。
もしかして、そっち系の人だったりするのか……?
「ねぇ、もしかしてまだ装備は整っていないのかしら? もしそうなら、私に装備を用意させてくれない? 誰よりも可愛く、可憐に仕立ててみせるから! ね? ね?」
「えぇ〜、……っとぉ?」
「あぁっ! どんな衣装が良いかしら……! ドレスアーマーが似合いそうだけれど、ゴスロリ系の装備も捨て難いわね。それともそれとも……ああっ、決められないわ♪」
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って!」
「はい?」
オレは暴走する彼女を必死に制止した。
「あの、まずはこちらの用件を……」
「あ……。 ……あらあら、ごめんなさいね。私、興奮するとちょ〜っと周りが見えなくなっちゃうみたいなの。本当にごめんなさい」
(ちょっ、と……???)
・ ・ ・ ・ ・ ・。
(ま、良いか)
オレは気にしない事にした。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はユリネ、主に武具が中心の生産職をしています。よろしくね」
「あ、はい。オレはフリントといいます。こちらこそ、どうぞ、よろしく……」
く……っ!
改めて自己紹介をするとなると、妙に気恥ずかしくなるこの現象はいったい何なんだ〜〜〜っ!!!
「それで、本日のご用件は何かしら?」
「あ、えと……、これを解体して、素材を手に入れたいんですけど……」
オレは大斧を取り出しながら説明した。
「ふんふん、〈銀のラブリュス〉ね……。これ、かなりのレア武器みたいなのだけれど、本当に解体したいの?」
「はい、オレは使えませんので。……元は、PKを仕掛けてきたプレイヤーが使っていた武器なのですが、先日返り討ちにしまして……」
「え? 襲われたの?! しかも返り討ちに?!」
「え? あ、はい……。……その、何かおかしかったですか……?」
オレ的には、これといっておかしな点は無いはずだけど……。
「許せないわ……! こんなに素敵可愛い娘に襲いかかるなんて……! 返り討ちにあっちゃって、ザマアミロっての!」
うわぁ、また何か変なスイッチ入っちゃったよ……。
「……っとと、コホン。……そうね、PKを狙ってきたっていうそのプレイヤーなのだけど……」
お、今度は自力で戻って来れたみたいだ。
「このような武器を使っている事から考えて、おそらくはPKの常習犯……でしょうね」
「やっぱりですか……」
「あら、気づいていたの?」
「オレも、あのプレイヤーを倒した事で理解出来ました。このゲーム、デスペナルティがとてもキツい代わりに、プレイヤーを倒して得られるリターンが大きいんです」
このゲームにおいて、PKはハイリスク・ハイリターン。
負ければ所持金と装備品をランダムでひとつ失うというバカでかいリスクを背負う代わりに、そのリターンとして相手の所持金と装備品をランダムでひとつ獲得出来る。
金はいくらあっても困らないし、装備品は使わないものであっても売り払うなり解体するなりすれば良いだけ。相手が格下であっても、それなりに装備を整えていれば最低限のリターンは保証され、無駄骨にはなりにくい。
"狩る"のなら、魔物よりもプレイヤーの方が単純にリターンが大きいのだと説明した。
「うん、合格です。ちゃんと分かっているみたいね」
「ほっ……」
「PKを仕掛けてくるプレイヤーは1割もいないはずだけれど、全くいない訳じゃない。襲撃される可能性は、今後も十分にあります」
「そうですね……」
「この大斧は解体するとして、取り出した素材は預かっても良いかしら?」
「え?」
預かる……?
「取り出した素材を元に、あなたの防具を作ってあげるわ」
「ええっ! ……い、良いんですか?」
それって、いわゆるオーダーメイドというやつでは……。
金、足りるかな……?
「あぁ、お金の事は気にしないで。初回限定の"お試し価格"という事にしておくから♪」
「で、でも……」
「だぁってねぇ、見た目はこおんなに可愛いのに初期装備っていうのは、見ててとても悲しいんだもの〜♪」
「えぇ〜……」
「大丈夫! 私が絶対、君をとびっきりの美少女に大変身させてあげるから! お姉さんにまっかせなさい♪」
とびっきりの美少女に……は置いといて。
まぁ確かに、初期装備のままなのはいい加減どうかと思っていたし、ちょうどいい機会なのかもしれない。
この際だ、全部お任せしてしまおう!
「それじゃ……、よろしくお願いします……」
はてさて。
いったいどんな装備品が出来るのやら……。
内容は完全に思いつきです。
その時々のノリと勢いだけで書いています。