初めてフレンド登録をしてしまった
「生産職のプレイヤーって誰だろう……」
オレは今、生産職のプレイヤーを求めて街をさまよっていた。
その理由は、先日PKを狙ってきたプレイヤーを倒して手に入れた大斧を解体してもらう為である。
売り払ってお金に替えても良いのだが、素材のドロップ率が悪いと気づいてからは評価を変え、解体で手に入るものは容赦なく解体してやる事に決めた。
どの道オレは斧なんて使えないし、それなら解体して鉱石を回収した方が役に立つ。防具の精製にも使えるし、その方が有意義だろう。
そういう理由から生産職のプレイヤーを探しているのだが、これが一向に見つからない。
なるべく自力で見つけたかったのだが、仕方ない。ちょっとそこらで聞き込みを……。
「あの、ちょっと良いかな?」
「?」
誰かから声をかけられたので振り返ってみると、そこには剣士のプレイヤーが立っていた。
片手剣か、オーソドックスだな。良いと思います。
「何か?」
一応アバターの声質は女の子のものに設定してある。オレが話した言葉を女の子の声に変換して伝えてくれるこの声帯変換機能、ホントにハイテクだなぁといつも思う。
なので、オレが男だとはバレないようになっている、はずだ。
性別は男なので、相手がオレのアバターの公開情報を確認したらその時点でバレるのだが、別に隠している訳でもない。
ちゃんと性別を確認せず、オレを女の子だと思い込んだ相手がバカだというだけの話だ。
「いやぁ、そのガントレットカッコイイなと思ってね。それに君もとっても可愛いし、良かったらスクショ撮らせてくれないかな?」
「良いですよ。条件がひとつありますけど」
「条件?」
「ええ。あなたが知っている、生産職の人を紹介してください。それが条件です」
「あー……。ごめんね、生産職の知り合い、ウチにはいないんだ……」
「そうですか……」
ちぇっ、残念。
「それじゃ、ほら。撮るなら早くしてください」
「え、良いの?」
「とりあえず情報をくれましたからね。1枚だけならどうぞ」
「ありがとう! それじゃ、ポーズなんだけど……」
オレはお相手の望むポーズを取り、スクリーンショットを1枚撮らせてあげた。
「ありがとう! 今度会ったらまた撮らせてね!」
「はいはーい、何時でもどうぞ」
よっしゃ、これで情報のカモが1人確保出来たぞ。スクショ1枚で情報が手に入るなら安いもんだ。
「おやおや。中々アコギな商売してるねぇ、キミ」
「?」
今度は上質な鎧を身につけた、騎士風の青年が現れた。背中の大剣がちょっとカッコイイ……。
「ふん。スクショ撮らせてくれって頼まれたから、対価として情報を教えて貰っただけだよ」
「そうかい。まぁ確かに、互いが納得してるんなら、別に良いのかねぇ……」
「それで、何の用?」
「ん? ああいや、特に用は無いよ。強いて言うなら、物珍しさから声をかけたってところかな?」
「珍しい?」
「そうさ。性別は男なのに可愛い女の子みたいな見た目で初期の服装、それでいて両手にはいかついガントレットを身につけている……。しかもそのガントレット、左手に大バサミがついているやつなんて聞いた事が無い。見た目だけなら、トップクラスで違和感の塊だよ、キミ」
「ふぅん……」
違和感の塊、か……。
そうか、他人からはそう見えているんだな……。
「それで、何やら迷っているとお見受けしたけど、合ってるかい?」
「まぁ、一応……。この辺りで生産職の人を探してるんだけど……」
「あぁ、生産職のプレイヤーね。それなら、あっちの店にいるよ。〈ユリネ〉っていう女性プレイヤーだ。行ってみると良い」
「本当か?! 助かるよ!」
これは良い事を聞いたぞ。
早速行ってみるとしよう。
「ちょい待ち」
「え?」
教えてもらった店に行こうとしたら、呼び止められてしまった。
「ま、まだ何か……?」
「情報を教えたんだ。見返りを貰っても良いかな?」
「?!!!」
み、見返り……。
スクショか? それとも素材か? あるいは、ま、まさか……!
お、オレの、か、か、か……っ!
「良かったら、俺とフレンド登録してくれよ」
「え、あ? フレンド、登録……?」
「そ、お近づきの印にね。キミ、とても面白そうだし」
「まぁ、別に良いですけど……」
オレは了承しながら、自分のフレンドコードを青年に送った。
「お、来た来た。はい、登録完了。これからよろしくな、フリントさん」
「あ、はい。よろしくです……」
名前を呼ぼうとフレンド登録画面から青年のユーザー名を確認したところで、オレはフリーズした。
―――びよんど☆ざ☆わーるど。
………………ナニコレ?
「えっ、と…………、びよんど、さん?」
「呼びやすい方でどうぞ♪」
「あ、はい。……びよんどさん……」
「うん。それじゃまたね、フリント君」
びよんどさんは何処か満足したような表情を浮かべながら去っていった。
オレはもう一度、フレンドリストを確認した。
―――びよんど☆ざ☆わーるど。
「……色んな名前のプレイヤーがいるもんだな……」
何とも言えない気持ちでそっとフレンドリストを閉じ、オレは紹介して貰った店へと向かった。