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友達にゲームを勧められてしまった話  作者: しらすめし(遅筆屋Con-Kon)
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新学期です

 中途半端に短い冬休みが終わり、ついに新学期が始まった。


 クラスはいつも通りの賑わいを見せている中、オレは図書館で借りた本を読んでいた。ウチの高校の図書館は、冬休み期間中でも本は借りられるのだ。


「おっす、アカリー! 元気してたかー?」

「おう。そっちこそ、生きてたようで何よりだ」


 相変わらず元気な挨拶をしてきたヒロアキは、やっぱりどこも変わっていないようで、いつも通りのにこやかな笑顔を浮かべていた。


「んじゃ、そろそろ聞かせてもらおうじゃねーか」


 ヒロアキはそう言って、隣の席にどっかと座った。


「何を?」

「おいおい、もったいぶるんじゃねーよ。ユートピアだよユートピア」

「ああ、あのディストピアね……」


 少なくとも、オレの中ではあれは理想郷では断じて無い。


 〈ユートピア〉という名前のディストピアだと思っている。


「ディストピアって……。何があったんだよ?」

「色々だよ」


 オレは、この冬休み期間中にやったユートピアのプレイ状況をかいつまんで説明した。


 特に"鉄鉱石のドロップが渋い件"と"PKプレイヤーに襲われた件"については、ほぼ愚痴っぽくなった。


「それは、散々だったな……」

「ああ……」

「でも、その格上の相手に勝ったんだろ? さすが俺の親友だぜ!」


 いつからオレ達は親友になったんだろうか……。


「まだ聞いてなかったけどよ、どういうSP(ステータスポイント)の振り方をしてるんだ?」


 そう問いかけるヒロアキの顔は、ここ最近で一番楽しそうな表情をしていた。


 好きだよなー、他人のステータス情報……。


「全部VITに振ってるよ」

「え……」


 楽しそうにしていたヒロアキの顔が凍りついた。


「え、全部……?」

「全部」

「他の能力は……?」

「振ってない」

「…………」


 少しの沈黙の後。


「バッカじゃねぇの?!」


 ヒロアキは、腹の底から叫んだ。






 ◆◆◆






「むすっ」

「あー、もう悪かったって! ほら、謝るからさ……」


 昼休み。


 自分のプレイスタイルを散々バカにされたオレは、弁当を食いながら不貞腐れていた。


「別に良いだろ……。VIT極振りだって……」

「あー……」

「防御力だけじゃなくて、HPも上がるんだし……。毒とか魔法にもしぶとくなれるんだし……」

「ま、まぁな……」


 オレの愚痴に、ヒロアキはただ相槌を打つくらいしか出来ていなかった。


「そ、そうだ! お前が使ってるっていう大バサミ、どうやって手に入れたんだ?」

「説明したじゃん、巨大クワガタを倒したって」

「いやいや! 簡単に言ってるけどよ、あれ倒すの結構めんどくさいんだぜ? 空飛んでるし、頑丈だしよ」

「そうだな」


 オレだって、振動拳でヒット数3倍にして延々殴りまくってやっと倒したんだからな。


 思えば、一番倒すのに時間がかかった相手は間違いなくあのクワガタだ。


 もう二度と戦いたくない。


「あれが武器をドロップするって、聞いた事無いぞ?」

「正確にはドロップじゃないぞ」

「え?」

「初期装備のガントレットで殴り倒したら、そのガントレットが"進化"したんだ」

「進化……って、うお、マジか!」

「な、何だよ……」

「マジで? マジで武器が進化したのか?」

「したよ! したから落ち着け」


 何なんだ、このテンションの上がりようは……?


「何か知ってるのか?」

「それ、ユートピアの隠し武器だぜ」

「え?」

「"特定の敵"を"特定の装備"で、"特殊な条件"を満たした上で撃破しないと手に入らない、ある意味ラスボスのドロップ品よりも貴重な武器なんだよ」

「えー……」


 何そのめんどくさい隠し要素……。


 そんなの、全部見つけきれるのか……?


「今まで見つかっているのは2つだけで、それぞれランキング1位と3位のプレイヤーが使っているらしいぞ。という事は、お前は3人目だな。これめちゃくちゃ凄い事なんだぞ! もっと喜べよ!」

「そうだな……」


 オレとしては、もう凄すぎて驚くどころじゃない。


「そいつらの武器は、どんなヤツなんだ?」

「3位のやつのは知らねーけど、1位のコウエンさんが使ってるやつは有名だぞ? "ヘラクルブレード"っていう名前の片手剣だ」

「すっげぇ名前だな……」


 神話の英雄の名前をつけられている時点で、もうヤバい武器だと分かる。


 それに比べて、オレの相棒はただのクワガタ……。格が違った。


「出来る事なら、俺も一緒にログインしてやりたいけどよ……」

また(・・)ゲーム取り上げられたのか……」

「そうなんだよーーー! 3学期のテストで成績上位に入らねえと、ゲーム出来ねえんだよーーー! 無理に決まってんだろぉ!」

「自業自得だろうがよ……」


 成績上位というと、ウチの高校では上位40位内を指す。


 いつも赤点ギリギリのこいつがそこまで食い込めるとは到底思えない。


 一緒にプレイ出来るのは、まだ当分先になるようだ。


「まぁ、ガンバ」


 今のオレには、それしか言えなかった。



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