表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達にゲームを勧められてしまった話  作者: しらすめし(遅筆屋Con-Kon)
6/57

最低最悪な奴らと遭遇してしまった

 オンラインゲーム〈ユートピア〉。


 "理想郷"の名を冠するこの世界は、しかし理想郷と呼ぶにはあまりにも過酷な環境であった。


 跋扈する魔物達、荒れ果てた荒野に燃え盛る火山地帯などの過酷なフィールド、多くの罠や複雑な迷路でプレイヤー達を惑わす迷宮(ダンジョン)……。


 そして、その中でも特筆すべきは。


 システム上許されている、PK(プレイヤーキル)の存在。


「へへっ、悪く思うなよ? かわい子ちゃん」

「……ちっ」


 何故こうなったかというと、時は少し遡る―――。






「っし、またレベルアップだ」


 正月明けのある日の事。


 オレは相も変わらずレベル上げに精を出していた。


 現在訪れているステージは、マップの西側に位置する採掘場跡である。


 一応新装備も欲しいので、素材ドロップにも期待してのレベル上げであった。


 だが……。


「落ちないな……」


 オレの運が悪いのか、はたまたドロップ率が総じて低いのか。


 素材はほとんど集まっていなかった。


 鉄鉱石をドロップする"タンコーロウ"という、どう見ても歩く石炭のような奴を先程から倒しまくっているのだが、20体ほど倒したにも拘わらずドロップした鉄鉱石はたったの1個。


 しょぼい……。


 タンコーロウはVIT値が高いようで、こちらの攻撃は1ダメージしか入らないのだが、HPが低めに設定されているらしく、振動拳を使用すれば比較的早く倒せた。


 経験値はやや少なめだが、攻撃が強い訳でも無く、武具の素材となる鉄鉱石もドロップするので、序盤の素材集めとしては悪くない部類のはずだった。


 のだが……。


「またハズレだ……」


 ドロップがあまりにもしょぼ過ぎる。攻略サイトでは『ドロップ率はおよそ3割程度』と書かれていたのに、現状オレのドロップ率は1割以下だ。


 今日はツイてない日なのかもしれない。


 現在の経験値を見ると、次のレベルアップまではあと少しだった。タンコーロウをあと2〜3体倒せば上がるだろう。


 今日はそこで引き上げよう……。


 ―――ビーッ、ビーッ!


「ッ!」


 突然の警報。


 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、敵襲警報だ。


「くぅ……っ!」


 背中に攻撃が着弾し、体勢が崩れる。


「おいおい、マジかよ。ダメージが通ってねぇじゃねぇか……」


 声がした方を向くと、そこには大斧を持った男のプレイヤーが立っていた。


 男の頭上に見えるHPバーの上に表示されたレベルは、31(・・)


 オレのレベルの2倍以上だった。


「へへっ。悪く思うなよ、かわい子ちゃん……」

「…………キモっ」


 さて、どうしようか……。


 さっきの攻撃は全然効かなかった。という事は、あれは物理ダメージ判定だ。


 斧使いで出来る遠距離攻撃手段といえば、爆弾などの投擲アイテムだろうか。


 きっとSTRも高めにポイントを振られているだろうし、いくらこちらがVIT極振りだとしてもダメージは通ると考えて良いだろう。


 うー、考える事が多くてめんどくさい……!


「左手のそれ、大バサミか? 見た事ねぇ武器だな……。お前を倒して、戦利品としていただくぜぇ!」


 男はそう言い放ち、斧を振り上げて襲いかかってきた。


「おぉらよおっ!」

「くっ!」


 男の斧を、左手の大バサミで受け止める。その衝撃が伝わったのか、足場が小さい地割れを起こした。


「おらっ! おらっ! おらあっ!」


 男は尚も斧を振り上げ、連続攻撃を繰り出してくる。


 それを懸命に大バサミで受けとめるオレ。


(……ん?)


 ふと、オレはある事に気がついた。


 ()()()H()P()()()()()()()()()()()


 受けるダメージ表記は全て1。オレの総HPは1000を優に超えている為、ゲージが減らないのは考えてみれば当然の事だった。


「くそがっ! なんでダメージが通らねえっ!」


 オレのあまりの頑丈さに、男はとうとうイラつき始めた。


「うおおおっ! 【ヘビースラッシュ】!」


 男は斧の攻撃スキルを使用するが、それを受け止めた際のダメージは、たったの3。


「お、やったね」

「こ、このバケモンが……っ!」

「逃がさないよ」

「っ!」


 逃げ出そうとした男の腰を、左手の大バサミで挟んで地面に押し倒した。


「さて、後は締め付けるだけ……。どこまで耐えられるか見物だね♪」


 大バサミの内側のトゲが、ギリギリと男の身体に食い込んでいく。


 ダメージは断続的に受けているようで、1、7、14、42、65、126……と、次第にダメージ量は増えていった。


「くそっ、くそがあああっ!」


 男の子は斧を振り回して抵抗するが、ダメージは1しか通っていないのでちっとも効かない。


「オレのHPを削り切りたいなら、次は貫通攻撃でも持ってくるんだね」

「………!」


 大バサミが閉じ、男の胴体が真っ二つになったところで男のアバターは消滅した。


 同時に、男がいたところから宝箱が出現した。ドロップ品って事なのだろうが、何とも言えない光景だな……。


 箱を開けてみると……。


「うわぁお……」


 中には、男が使っていた大斧と、いくらかの金が入っていた。所持金の半額なのだろうが、それなりに溜め込んでいたみたいだ。


 っていうか、これってどう見てもデスペナルティだよな……。


 やられたら、装備品をひとつと所持金を失う事になるのか……。そして、それが丸ごと相手の戦利品となる、と……。


 いやらしい、実にいやらしいシステムだ。


 これじゃあ、PKが横行するのも頷けるってものだ。


『レベルが15になりました。武器の熟練度システムが解放されました』

「おお、やった。……って、武器の熟練度?」


 初めて聞くシステムだ。


 ヘルプを参照してみると、どうやら武器の使い込み度を表すもので、熟練度はレベルで表記されるらしい。最大レベルは10で、1レベル上がる毎にステータスアップなどのボーナスが得られるとの事だった。


 これは良いな。


 どの道オレの武器はナックル固定だし、嫌でも熟練度はMAXになっていくだろう。


「もう疲れた。今日はこれで終わりにしよ……」


 鉄鉱石は集まらないし、プレイヤーに襲われるしで、今日はもう散々だった。


 何が〈ユートピア〉だ、完全に〈ディストピア〉じゃないか!


 はぁ……。


 メシでも食ってさっさと寝よう……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ