正月に予想外の出会いをしてしまった
「そっか……。正月は特にイベントは無いのか……」
オレは現在、ヒロアキに勧められた攻略サイトで〈ユートピア〉のページを観ていた。
このサイトはネット内で最もユートピアに関する情報が多く更新されており、1番賑わっているとの事だ。
ギルドメンバーを揃えたり、新しいフレンドを募集したりする時にもよく使われているらしい。
「ギルド、かぁ……」
正直、今のオレには他人のギルドに入りたいと言える程の腕前は無いし、入るつもりも無い。
ヒロアキは既に、トッププレイヤーが集う大規模なギルドに所属しているらしい。スゲェな、あいつ。さすがは脳筋メンタル、心まで筋肉で詰まってるんじゃ無かろうか?
ともかく、オレは今のところギルドに所属するつもりは全く無い。
オレは自由気ままにソロプレイを楽しみ、時折アイツとか他のプレイヤーとちょっとご一緒する程度で良い。
「……」
ページの下へとスクロールしていくうちにコメント欄へとたどり着き、ぼうっと流し目で見ていくと、ふと気になる書き込みを見つけた。
189『そーいや最近、めっちゃ可愛いアバターのプレイヤーを見かけたわ』
190『へぇ、それどんな奴?』
191『装備は初期装備なんだが、銀髪のサイドテールで、瞳の色は金色っぽい(?)。とにかく顔の完成度がめっちゃ高くて、他のどの女子アバターよりもめっちゃ可愛かった』
192『マジか』
193『キャラメイクガチ勢現る、ってか』
194『俺も見てみたいわ』
……そんな感じのやり取りが書き込まれていた。
銀髪サイドテールの美少女アバター、か……。
オレが使っているアバターと似ているけど……。
「ま、別人だよな。見た目が被るくらいは良くある事だし、実際『自分と同じ顔した人は全国に3人はいる』ってよく言うし」
むしろ、『キャラメイクガチ勢』とまで言われる人とセンスが近いようで、逆に誇らしい気分だ。
「さて、と。……もうすぐ日付が変わるな」
現在時刻は夜の11時58分。
もうすぐ今年が終わり、新しい一年が始まる。
「……happy new years」
時刻が変わると同時に布団に潜り込み、そのまま夢の中へと入っていった。
◆◆◆
「おっはよーぅ! あけましておめでとう、マイフレンド!」
「はいはい、あけましておめでとう、ヒロアキ」
元旦当日。
オレは水無月神社にて参拝を済まし、いつかの約束通りヒロアキと合流していた。
「あれ。お前、妹ちゃんはどうしたよ?」
「カガリなら、友達と来てるはずだぞ」
「はず、って何だよ? 一緒に来たんじゃ無いのかよ?」
「知らんよ、アイツの事は……」
何せ今、カガリは絶賛反抗期中なのだ。
下手に声をかけようものなら、即座にヴェノムワードブレスで返り討ちにされてしまう。
そんなの、兄は耐えられません。(泣)
「まぁ良いや。それよりもおみくじ引いて行こうぜ!」
「はいはい」
オレはヒロアキと共に売店へ寄り、おみくじを引いた。
結果は……。
「…………大凶か」
「お! やった大吉だぁぁぁ!」
オレは見事に大凶を引き当ててしまったのだった。くそぅ、新年早々ツイてない……。
しかもヒロアキの奴、隣でさらっと大吉引いてるし!
あー、さっさと帰ってユートピアしたい……。
「おーい、ヒロアキー!」
「げっ」
「?」
突然、ヒロアキを呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。
これは紛れもなく女性の声、しかもヒロアキを名前で呼んでいた……。しかも、当のコイツのげっていう顔!!!
これは、もしかして―――!
「ね、ねーちゃん……!」
「ヒロアキ、お母さんが探してたよ。早く戻りな」
(うん……?)
ねーちゃん?
ねぇ、ちゃん…………。
姉ちゃん。
ピーン。
(ヒロアキの、姉?!!?!)
コイツに姉がいたとは聞いていたが、まさかご本人とここで会えるとは……。
とんでもないサプライズゲストだった。
「……ん?」
「!」
ドキリ。
ヒロアキのお姉さんと目が合った。
「んー? ……もしかして、"アカリ"って君の事?」
「あ、はい……。そうです、けど……」
「やっぱりね。ヒロアキから名前は聞いてたけど、まさか男の子だったなんてねぇ……」
説明不足!
なんと説明していたのか、ちょっと問いただしたいところだ。
「はじめまして。私は左川愛優、そこの愚弟がいつもお世話になっています」
「いえいえ。こちらこそ、そこの愚友とは仲良くさせて貰っています……」
なんて礼儀正しいお姉さんだ……。
しかも美人だし、スタイルも良い。とてもアイツと血が繋がっているとは思えない。
ここで、少しでも好感度を上げておこう。
「せっかくで悪いのだけど、今からコイツを連れて戻らないといけないの。ごめんなさいね?」
「え、ちょっ……」
「いえいえ、そちらにも事情がある事でしょうし、どうぞ連れて行ってください」
「アカリ?!」
オレはヒロアキを差し出した。
「ふふ、ありがとう。今度埋め合わせしてあげるからね」
「はい、楽しみにしています」
「ちょ、待ってねーちゃん! アカリ、助け……」
(すまんヒロアキ。オレには無理だ……)
「ほら、行くよ」
「ぞんなああああぁぁぁぁ…………!」
ヒロアキは、アユさんに容赦無く連行されていった……。
すまんな、ヒロアキ。お前の姉ちゃんには勝てなかったよ……。
(アユさんの埋め合わせ、楽しみだなぁ……)
新年早々、オレの脳内は煩悩だらけだった。