狩場問題
朝。
「―――昨日は凄かったみたいね、アレ」
「そう、みたいだね……」
姫川さんと高山さんが会話しながら教室に入ってきた。
2人はいつも一緒に登校し、いつも一緒に下校している。
オレとヒロアキのような、親友の間柄なのだろう。
……もっとも、あいつは塾があるので、最近は一緒に下校出来てないが。
「あ……。お、おはよう、進道……」
「おはよう姫川さん。あと高山さんも」
「ついでみたいに言うなってのよ」
ぶっきらぼうながらも、律儀に反応してくれる高山さん。
態度は悪いけど、根は優しくて真面目なのかもしれない。
「あ、その、えっと……」
「?」
「…い、いや、何でもない。そ、それじゃ……っ!」
姫川さんは逃げるように自分の席へと向かっていった。
「……はぁ。まだまだ、か」
「?」
「あんたも、少しは察してあげなさいよ」
「え?」
「ふん」
気になる一言を残して、高山さんも自分の席に着いた。
察してあげる?
(……何を?)
◆◆◆
夜。
風呂に入り、夕食を済ませた後、いつも通りにユートピアにログインした。
3階層に到達したので、今日から本格的にイベント用交換アイテムや専用素材の回収の為魔物をひたすらに狩り続ける事になる。
ギルドメンバーの皆と合流し、4人全員で大平原へとやって来た。のだが……。
「「「…………」」」
「あら、これは凄いわね……」
すでに数十人くらいのプレイヤーが到着しており、だだっ広い平原だというのに魔物はほとんど狩り尽くされていた。
再出現した魔物も、出た瞬間即座に狩り取られる始末。
これではとても、狩りどころではない。
「はい、全員集合ー」
平原の片隅で、緊急会議を執り行う事にした。
「予想外の事態となりました。まぁちょっと考えれば予想出来た事だけど……」
「そうねぇ……。ちょっと楽観視し過ぎたわねぇ」
「ど、どうするんですかこれから……?」
「スミレちゃん、それを今から話し合うんだよ?」
「で、ですよねっ!」
さて、どうしようか。
効率の良い平原の狩場がこれでは、他の狩りポイントもだいたい似たようなものだろう。
誰にも知られてないような穴場スポットを探す事も考えたが、そういう場所もだいたいは知られていそうな気がする。攻略サイトとかで。
「いっそ、マップの端っこで狩りをするのはどうでしょうか?」
「端?」
「移動に時間がかかる端っこの方にいけば、時間効率を求めるオタクな人たちは寄り付かないでしょうし、ちょうど良いのではないでしょうか?」
「なるほど?」
確かに、サクラちゃんの言う事も一理ある。
時間効率を気にしないのであれば、狩場はいくらでもある。
ただ、この第3階層は端に行くほど魔物の強さが上がっていく。
中央の平均レベルは24〜27くらいだが、大平原を抜けた北側にある遺跡エリアでは31〜35、より外周に近い西側の湖畔エリアでは42〜48、もっとも遠い南東の毒沼エリアではなんと最高60にまで跳ね上がる。
貴重な素材のドロップも狙える反面、気を抜くと一撃でやられる事すら有り得る。
自分とパーティーの実力に見合ったレベリングの場が選べるが、ドロップ品を狙った狩りにはそれほど向かない。
オレのレベルは現在46。サクラちゃんとスミレちゃんのレベルは50を超えたらしいが、そういえばユリネさんのレベルは全然知らないな……。
「それなら、いっその事効率度外視でいこうか?」
「どういう事ですか?」
「ボス級の強敵狙ってハメ狩りしようって事」
「「えっ?!」」
サクラちゃんとスミレちゃんは揃って驚愕の声を上げた。
もちろんそれなりに考えがあっての事だ。
「オレには〈毒の霧〉があるからね。"硬くて"、"動きが遅くて"、"毒が効く"相手だったら、猛毒でひたすら削っていける。小型や中型の相手なら大バサミで挟み殺しても良いしね」
スタッグビートルアームズならば、ある程度の大きさの敵ならサイズ差補正で挟む事が出来る。
この間のスカイワイヴァーンクラスの大きさは無理だが、その翼の付け根やしっぽくらいの太さなら挟む事が出来た。
この事から、中型のサイズの敵―――ゴーレム未満の大きさの敵なら大バサミで確実にキルが取れる。
「でも、ボス級の魔物って危険じゃないですか?」
「もし失敗でもしたら……」
「そこは大丈夫かな?」
「そうね。心配は要らないと思うわ」
「「え?」」
2人はとても心配そうな表情を浮かべているが、問題は無いだろう。
「2人とも、忘れてない?」
「「え?」」
「フリント君の防御力」
「え……あっ!」
「オレの防御力は1000超えてる、つまりHPも10000超えだよ? ドラゴンのブレスにも耐えたんだから大丈夫だよ。それに、サクラちゃんが回復魔法で支えてくれればやられる事も無いと思うし。ね?」
「……! は、はい! 回復はお任せください!」
どれだけ攻撃力が高かろうが、レベルが近い魔物なら大抵の攻撃は受け止められるだろう。
たとえブレスなどの魔法に分類される攻撃や防御貫通攻撃であっても、膨大なHPで耐える。
攻撃力が高いはずのレベル52のドラゴンの踏みつけ攻撃すら1ダメージだったのだ、ドラゴンですらない魔物の攻撃が通るとは考えにくい。あまり気にする必要は無いだろう。
「それに、レアな魔物の素材を集める良い機会でもある」
「魔物の素材、ですか?」
「うん。何てったって、ウチには最高の生産職がいるからね。たくさん集めて、ユリネさんにいいものを作ってもらおうか!」
「そうね。レアな素材がいっぱい取れたら、最高にいいものを作ってあげるわ!」
「はいっ!」
「が、頑張りますっ!」
「うん。それじゃあ、まずは……」
そんなこんなで話は進み……。
オレたちは強敵を求めて移動を開始した。




