このガントレット、強過ぎる?
宝箱を開けると、中には武器が2本収められているだけだった。
しかし、目に見えているモノがそれだけだというだけだ。
実際にはオレたち3人に経験値がどっさりと分配され、オレは一気に8もレベルが上がった。うひょー、コレはスゲェ!
さらに、オレのガントレットには新しい形態が追加された。
ドラゴンファングアームズ:スカイワイヴァーンの素材から造られた、ドラゴンの頭部を模したガントレット。STR補正2倍、VIT+50、スキル〈ドラゴンファング〉〈ブレイズカノン〉〈アーマーブレイク〉使用可能。
取得条件:初期装備のガントレットで、天空竜・スカイワイヴァーンを撃破する。(ナックルの熟練度4以上で開放)
「強っ……」
何と破格の性能だろうか。
STR値が2倍、さらにVITも大きく上昇し、固有のスキルが3つも増えた。
ドラゴンファングは相手が装備している武器を破壊する攻撃スキルだ。驚くべき事に、このスキルは盾も破壊出来る。どうやら、手で装備出来る物は何でも破壊出来るようだ。強い。
ブレイズカノンは超強力な遠距離火炎攻撃スキルで、ざっくり言うと"火属性のビーム砲撃"を撃つ事が出来るスキルだ。クールタイムに30秒もある事とMPを全部消費する事が難点だが、その分火力と射程はバカ高い。
3つ目のアーマーブレイクはその名の通り、相手の防具を破壊する事が出来るスキルだ。ドラゴンファングもそうだが、破壊する為には直接触れなければならないという制約があるが、これはその欠点を補って余りある、超がつくほどの優良スキルだ。
総じて、破壊に特化した性能をしている。
攻撃スキルのブレイズカノンも、使い所さえ考慮すればオレの切り札とも言えるだけの効果を秘めている。
まぁ、1発撃つ毎にMP全部持っていかれるのは結構厳しいし、ボス戦以外で使う事はあまり無いだろう。
宝箱に入っていた2つの武器は、それぞれサクラちゃんとスミレちゃんが回収した。
おそらく、戦闘に参加したプレイヤーの装備に合わせた報酬となっているのだろう。
サクラちゃんが手に入れた武器は〈ドラゴンメイス〉という名の武器だった。INTと耐久性に優れた武器で、なんと物理戦闘もこなせるほどのSTR値もあった。
スミレちゃんが手に入れた武器は〈ドラゴンアロー〉という大弓だった。番えた矢に火属性効果を付与するというスキルが備わっており、射程距離もかなり高いのだが、スミレちゃんが扱っている弓はショートボウに分類される短めの弓なので、ドラゴンアローはいまいち合っていないように見える。
「スミレちゃん。その弓、扱えるの……?」
「そうですね……。一応、どうにか扱えそうです。結構重いのでAGIが下がるのが気になりますけど、こちらの方が威力が高いですし、目的に応じて使い分けようかなと……」
「そっか」
使い分け、か。
なんとも良いものだよな、そういうの……。
オレのガントレットも切り替え出来るから、戦場によって使い分け出来るように考えていかなきゃな……。
「それにしても……」
「ん?」
「フリントさんのそのガントレット、ちょっと強過ぎませんか……?」
「今のところ、3つの形態に切り替え出来て、装備ステータスは全部合算なんですよね?」
「まぁ、そうだね」
固有スキルは共有出来ないからいちいち切り替える必要があるけれど、STRやVITなどのステータス補正関連は全部合計して計算されている。
「それって、形態を増やしていく毎にどんどんステータスが上乗せされていくって事じゃないですか! 強過ぎますよそれ!」
「といっても、ひとつひとつの武器性能は単品の武器よりもやや控えめだけどね」
例えば、第1階層の湖にいるクラブタートルの甲羅から造られる〈クラブナックル〉のSTR補正値は+50。
同じ第1階層に生息している紅眼甲殻虫から手に入れたスタッグビートルアームズの実に2倍以上である。
オレのガントレットはスキルもりもりながら、単品での性能自体は低いのだ。
それを、ステータス補正をひとつに統合していく事で、他の種類の武器を持てないというデメリットを帳消しにしているのである。
…確かに、武器自体は強いと言われれば強いだろう。ゲームがゲームなら最強と言っても過言ではないほどだ。
だが、コレを使っているオレ自身はそこまで強いとは思っていない。
というのも、上位ランクにはオレと同じような武器持ちが2人もいる上、ユートピアはステータス以上にPSがものを言うゲームだ。
多少のステータス差は技量で補えるし、このゲームのステータスは割り振ったSPと装備品が全て。
それらの要素もPS次第であると言える以上、プレイしてまだ3ヶ月目のオレは自分が強いとは自信を持って言う事は出来ない。
けれど、オレは2人の援護もあったとはいえ、つい先程ドラゴンを倒す事が出来た。
あのクソデカいドラゴンの右足振り下ろし攻撃にも耐えたし、強力な火炎攻撃だって凌ぎきった。
少なくとも、もう初心者の域は脱した…くらいには思っても良いのかもしれない。
少し話は逸れたが、要は『武器自体は凄く強いが、それを扱うオレはまだまだ弱い』という事だ。
「コイツの第4・第5形態が今後も都合よく手に入るとは思えないし、しばらくはここらで頭打ちだろうけどね。でもまぁ、あと1形態くらい増やせれば、トップ争いに名乗りを上げても良いのかな…くらいは思ってるよ」
「そうですね。…フリントさんは、のんびりとプレイしている方がお似合いかもしれませんね」
「そうそう。オレはさ、本当は回りとは関係なく、ゆっくりのんびりとやっていきたいんだよね……」
駆け足気味に上を目指していくのもいいけれど、本来のオレはマイペースなのだ。
自分のやり方で、自分の歩く速度で、のんびりとゲームを堪能する……。
それが、オレの本来のゲームスタイルだ。
「という訳で、さっさと戻って3階層に行こうか。ぐずぐずしてたらイベント終わっちゃうしね」
「そうですね、行きましょう!」
戦利品を回収し終えたオレたちは、3人仲良く転移ゲートを潜って外に出た。
いや、ホントに楽だな。この転移ゲート……。
瞬間移動スキルとか欲しくなるけど、それはさすがに欲張りか……。




