ギルドハウスを手に入れてしまった
「ギルドの拠点、か……」
ユートピアにログインしたオレは、街の中をうろついていた。
(拠点って、多分これの事だよな……)
オレはヘルプ一覧からギルドの項目を開き、それに目を通したところ、あるワードが目に止まった。
―――ギルドハウス。
その名の通り、ギルド結成に際し、拠点となる建物の事。その建物に〈ギルド結成券〉を使用する事で、ギルドハウスとして利用する事が可能となる。
……と、項目には書いてあった。
オレは今〈ギルド結成券〉は手元にあるので、後は拠点にする建物を探すのみ、なのだが……。
これが一向に見つからない。
いや、建物自体は見つかるのだ。それこそ至る所に空き部屋があるので、何処でも選び放題ではある。
ただ、問題なのは"立地"だ。
オレは街の中は出来るだけ選びたくない。選ぶとしたら街の外周部だ。
今のオレの外見は、何処からどう見てもクラシックロリータファッション装備の女の子。アバター自体の性別は男であるものの、外見をキャラメイクの時点で好き勝手に弄りすぎて、どうやっても女の子にしか見えない。
こんな目立つ女の子が、ドレスアーマーの双子の女の子を引き連れて一緒にギルドを結成したとなれば、一気に注目の的になるのは想像に難くない。
目立つ事自体は良い。ただ、せめてギルド結成はひっそりと行いたい。「あれ、いつの間にかギルド出来てる?!」くらいに思われた方が幾分マシだ。
という訳で、今は街の端っこをぐるりと巡っている。
が、外周部となると途端に建物の数自体が相当少ない。オマケに外部のデザインも微妙と来た。
一応、引っ越し機能もあるみたいではあるけれど、とりあえずサクラちゃんとスミレちゃんが来てから相談しよう。
「……という訳で、いくつかめぼしいところをピックアップしてみた」
「「ほぇ〜……」」
オレはスクリーンショット機能で撮影したいくつかの写真を見せながら説明した。
場所や立地、広さなどを話しながら、何処がいいのかを話し合った。
あーでもない、こーでもないと議論を重ね……。
「……ここっすか」
「「はい♪」」
街の西側の森にある、小さな湖畔。
そこにぽつんと建てられた、レンガの家。
オレたちのギルドハウスは、そこに決まった。
ここ、議論の中には無かったはずなんだが……。
「実は、夕方くらいに、お姉ちゃんと一緒に探して見つけたんです」
「憧れだったんですよー、『3匹のこぶた』に出てくるレンガの家♪」
「なるほどね……」
サクラちゃんの趣味でしたか……。
まぁ、確かに見た目は悪くない。立地も良いし、中もそれなりに広い。
街から少しだけ距離があるのが気になるけど、それも慣れれば大丈夫だろう。
「うん、じゃあここにしようか」
「「やったぁ♪」」
オレは早速チケットを取り出し、ドアにかざす。すると、ドアに白いプレートと半透明のキーボードが出現した。
ここにギルド名を打ち込め、という事らしい。
「どうしよう……」
「えと、フリントさんにお任せします……」
「私も同じく……」
「あっ、ハイ……」
一緒に考えてはくれないのね……。
うーん、何が良いか……。
名前は一生モノだし、下手な名前は付けられない。
既にあるギルド名と被っても嫌だし、出来る限り珍しい名前が良い……。
うーーーん…………。
「………et」
「「?」」
「La ciet el campantie mi sela〜」
「「???」」
「……あっ」
しまった。
考え込みすぎて、好きな曲を無意識の内に口ずさんでしまっていた。失敗したな……。
「ごめん、いきなり……」
「い、いえ……」
「でも、聞いた事のない、不思議な曲ですね……。誰の曲なんですか?」
「〈一二三神奈〉っていうアーティストの曲なんだけど……、知らない?」
「「知りません……」」
「そっか……」
まぁそうだよな。
ゲームの曲だし、まだまだ一般には浸透してないか……。
って、早くギルドの名前を決めないと……。
えーっと、森、湖、湖畔、魚、鳥、花、月、風……。
「……"花天月地"……」
「はい?」
「…何ですか、それ……?」
「オレが大好きな四字熟語。意味は『花が美しく咲き乱れ、月が大地を明るく照らす』……ってね。ほら、花の名前が多いでしょ、オレたちって」
サクラにスミレ、それからユリ。
女性ばっかりの華やかなギルドだし、とても良いんじゃ無かろうか? 中の性別は知らないけど。知らないけど。
「どうかな?」
「とっても、良いと思いますっ!」
「そ、そう……?」
「はい。それに、なんだか少しだけ大人っぽいのも素敵です……♪」
「そ、そっか……。なら、うん。まぁ、良かったよ、気に入ってくれて……」
「「はい♪」」
2人とも気に入ってくれて何よりだ。
オレはプレートに名前を打ち込み、登録した。
ギルド〈花天月地〉、結成だ!
「それじゃ、早速メンバー登録を……、あ」
「「あっ……」」
そこで、オレは重大な問題に気がついた。
そして、それは2人も同じなようだった。
オレたち、まだフレンド登録してなかった……。
2人のフレンド登録、作者も忘れていました……汗




