嫌われている理由が分からない
「ただいまー」
「おかえりー。あ、ちょうど良かった」
「え?」
「アカリ、ちょっとお使い頼まれてくれない?」
「え?」
帰宅早々、お使いを頼まれてしまった。
という訳で、オレは今近所のスーパーへとやってきていた。
「……」
「……」
……妹付きで。
「なんでお前も来てるんだ?」
「お父さんに頼まれたの。新しいカミソリ買ってきて、って」
「あ、そう」
オレと一緒か。
「んじゃあ、一緒に見て回ろうぜ。カガリ、男物のカミソリとか取りづらいだろ」
「……はいはい、仕方ないから一緒に行ってあげる」
「……」
何なんだろう、この腑に落ちない感……。
くそ、数年前までは『お兄ちゃーん♪』とか言って甘えて来てたのに……。
いかん、ちょっとうるっときた……。
「えーと、買うものは……」
オレは母さんから渡された買い物リストに目を通していった。
……なるほど、今夜はカレーだな。モロにカレールウとか入ってるし。
「ほら、まずは肉から行くぞ」
「はいはい……」
オレはカガリを先導しながら、リストにある品物を次々と買い物カゴに入れていった。
「よぉ、アカリー」
「ん? ……なんだ、ヒロアキか」
偶然にも、ヒロアキとばったり出くわした。
そのヒロアキの後ろには、パスタコーナーの棚を物色しているアユさんの姿があった。
「……という事は、そっちもお使いか」
「まあな、今晩はパスタにするらしい。って事はそっちも使いか、奇遇だな……っと、カガリちゃん、久しぶりー!」
「どうも」
ヒロアキの挨拶に対し、興味無さそうに一言だけ返すカガリ。
「素っ気ないなー」
「……」
「すまんなヒロアキ、ウチの妹はお前に興味が無いそうだ」
「へいへい、知ってるよ。初対面の時からずっと変化ねえし」
そうなのだ。
カガリは昔から、他人……特に男が相手だと何も喋らなくなる。せいぜい挨拶を返す程度だ。
男嫌いかとも思ったが、父さん相手には平然としているし、中学の体育祭を見に行った時も普通にクラスメイトの男子と会話していた。
カガリの他人との線引きは一体どうなっているのか、オレにはよく分からない。
「こんにちはアカリ君。久しぶり」
「はい、アユさんもお久しぶりです」
と言っても、初めて出会ってからまだ2週間しか経ってないけど。
「それと、後ろにいるのは妹さんかな?」
「はい、妹のカガリです」
「そう。……よろしくね、カガリちゃん」
「はい。……こちらこそ、よろしくお願いします、アユさん……」
「んん〜っ、可愛いわね〜♪ 私にもこういう妹が欲しかったわ〜」
「へぇへぇごめんなさいねぇ、こんな可愛くない弟で」
「まったくよ。さ、あらかた取ったし、レジ行くわよ」
「へーい。んじゃあまたな、2人とも!」
「ああ」
別れを告げた後、ヒロアキとアユさんはそのままレジの列に並んでいった。
「……なぁ、カガリ」
「何?」
「お前、アユさんの時だと態度違い過ぎないか?」
「気の所為でしょ」
絶対気の所為じゃない!
……とか言っても毒吐かれるだけなので、オレはすぅっと飲み込んだ。
「……はぁ。……後はカミソリだけか、さっさと選ぶぞ」
「はいはい」
そうしてオレたちは父さんのカミソリをカゴに入れ、レジへと並んだ。
「「ご馳走様でした」」
この日の夕食は、やっぱりカレーだった。
終始無言の食事を終え、食器を洗い場へと持っていき、部屋へと戻る。
その時、カガリがすぅっと部屋に入っていく姿が見え、そのままパタンとドアは閉められた。その後、ガチャリとしっかり鍵まで掛けられた。
鍵まで掛けるか……。そこまでしてオレを嫌うのか、アイツは……。
うーん……。
(心当たりは、無いはずなんだけどな……)
いくら過去を遡っても、カガリの機嫌を損ねるような出来事は記憶には思い至らなかった。
「分からん……」
オレには、妹の考える事が分からん……。
オレはため息を吐きつつ、自分の部屋に入った。
そして、いつものようにユートピアを起動した。
◆◆◆
「…………はぁ」
―――ボスッ。
カガリは、自分のベッドに突っ伏した。
「疲れた……」
ぽつりと呟きを漏らし、しばらくしてゆっくりと起き上がる。
枕元に置いてあるソレを手に取り、じっと見つめた。
「……バカお兄ぃ」
カガリはソレを被って横になり、スイッチを入れた。




