取引を持ちかけられてしまった
「ただいま戻りましたー」
「「戻りましたー」」
「はぁーい、お疲れ様ー」
ダンジョン攻略を終え、オレたちはユリネさんの店に戻ってきた。
帰り道でもやっぱり注目の的で、正直居心地が悪いったらなかった。正直なところ、普通の装備が欲しい……。
「どうだった、新装備の性能は?」
「凄かったです。ゴブリン程度ならダメージゼロでしたし」
「ダメージゼロなんて、初めて見ました……」
「レベルは低いはずなのに、フリントさんは凄いです」
「へぇ〜そうなのね、役に立ってるようで良かったわ」
役に立ってるどころじゃないけどな。
むしろ、初期のメイルにはもう戻れないと思うくらいの高性能ぶりだし、見た目の注目度さえ気にしなければずっと使っていたいくらいだ。
それはそうと、ダンジョンの報酬は結構渋かった。
ボロボロの指輪:キングゴブリンが何処からか拾ってきた指輪。装飾は無く、ヒビが入っている。MP+2、INT+1。
正直、弱い。無いよりはマシといった程度の性能でしかなく、しかもINTを必要としないオレには無用の長物だ。
本当にこんなのが、ボスのドロップ品なのかと疑いたくなる……。
「ハズレを引いちゃったみたいね。とりあえず身につけておいたらどう?」
「え? いやでも、こんなもの付けていても……」
「忘れたの? デスペナルティの事」
「デス…………、あ」
そうだった。
倒された時のデスペナルティ。
所持金の半額と、ランダムな装備品1つ。
「ハズレのアイテムをひとつ身につけておけば、それだけ重要な装備品を失う事を避けられる。PKを仕掛けてきた相手に、少しでも得をさせない為の工夫は大事よ」
「そう、ですね……」
「ま、専用装備品は他人が手に入れてもあんまし旨みは少ないけどね」
「え?」
どういう事……?
「専用装備は、他人が使えないだけじゃないの。生産職プレイヤーによるオーダーメイド品は、製作者が認めない限り売却もトレードも出来ないわ。それをPKして奪ったところでただのガラクタ……。解体して素材にするくらいでしか見返りが得られない。だから、トップランカーほどオーダーメイド品で装備を統一しようとするのよ」
そんなシステムになっていたのか……。知らなかった。
となるとこのゲーム、結構金策の重要度も高いな。オーダーメイド品となると、結構値が張るものだし……。
「そこで、私からひとつ提案があるのだけど」
「提案?」
「そ」
そう言って、ユリネさんはピラリと1枚のチケットを取り出した。
ただのチケットでは無い。金色に輝く、黄金のチケットだった。そんなバカな。
「これは、〈ギルド結成チケット〉よ」
「ギルド結成……」
「私はいわゆる"微課金勢"でね、月額のブースト券を購入してるの。その初回限定報酬として、これを貰ったの」
「そ、そうですか……。でも、それをどうしてオレに?」
「取引しない?」
「取引、ですか?」
「これをあげるから、君がギルドを立ち上げて欲しいの。その見返りとして、私が君のギルドの専属生産職プレイヤーとして加入してあげる。どうかしら?」
「え」
それは、結構オレにとって破格の条件なのでは……?
「どうして、その提案を?」
「ギルドを立ち上げれば、ギルド専用のウィークリーミッションとマンスリーミッションが発生する。それを定期的にクリアするだけで、ギルドメンバー全員がその報酬を毎回貰えるの。それに、ダンジョンを攻略するパーティーメンバーにも困らない。ギルドに所属するだけでもメリットだらけよ?」
「いえ、それもそうですがそうじゃなくて……」
オレとしては、ユリネさんが何故オレのギルドに入りたがるのか、それが聞きたいのだ。
「他のギルドに加入すれば良い話なのでは……?」
「それも考えたんだけど、ちょっとね……」
「はい……?」
「例えば、報酬目当てで大規模なギルドに入るでしょ?」
「はい」
「そしたら生産職の私は、少なくとも数十人分の装備品を用意しなくちゃならない。依頼がくる限り、毎回ね。それだけでも、結構しんどい」
「はぁ……」
「同調圧力っていうの? 私、それが嫌いなのよね。ギルドが大人数である程、何も言われなくても周りに合わせなくちゃいけない空気感……。そういうの、結構キツいのよ。かと言って、自由にやっていたらそれはそれで気に食わない人がいるかもだし、それでギルドを転々としていると変なイメージがつくかもだし……。だから今のところ、ギルド勧誘メールは全てお断りしているの」
なんというか、苦労してるんだな……。
「でも、ギルド報酬が欲しいのも確かだし。それなら、君に作って欲しいなって思ってね」
「どうしてオレなんです?」
「フリント君は、他のプレイヤーと違ってガツガツしてないし、始めたてでまだフレンド同士の繋がりもほとんど無い。君のところでなら、私も自由にさせて貰えそうだしね」
要は、オレのギルドに入る事で勧誘の嵐から解放されたいって事か……。
「どうかしら? 私を君のギルドに入れてくれたら、専用装備をたくさん作ってあげるわよ? もちろん、サクラちゃんとスミレちゃんの分もね」
「わぁ……!」
「本当ですか?!」
「ええ、もちろん。フリント君さえ良ければ、だけどね?」
まぁ、オレとしては断る理由は無いかな。
元々大人数は苦手だから、他人のギルドに入るつもりは無かったし。
「……分かった。作るよ、ギルド」
「決まりね。じゃあ、これあげるわ」
ユリネさんからチケットを受け取り、とりあえずストレージに入れた。
「今日はもう終わるから、ギルドは明日で良いかな?」
「良いわよ。それに、ギルドにする為の拠点探しもあるし、一生モノの名前も考えなくちゃだしね」
「えっ……」
衝撃の事実。
ギルド立ち上げって、拠点探しから始まるの……?




