初めてログインしてしまった
「おお、コレがゲームの世界か……」
凄い、まるで現実世界のようだ……は、さすがに言い過ぎか。
でも、……悪くない。
「えーと、メニューコマンドは……。あ、こうか」
正面に手をかざすと、半透明のボードが出現した。
タッチパネルよろしく、これをタップする事でコマンド入力出来るようだ。
オレはそこからマップのアイコンをタップして開いた。
マップを頼りに、オレは森の中までやってきた。
この世界めちゃくちゃ広くて、覚えるのが大変だ。
しばらくはマップとお友達だな……。
「っと、早速来たか」
茂みから飛び出して来たのは、角がついたやや大きめのネズミだっ……ネズミ?!
でかっ?! 下手すりゃ1メートルくらいあるぞ!
あ、でもそれなりにデフォルメされていて、ちょっと可愛い……。
などと思っていたら、いきなり角で攻撃された。
「痛っ! ………くは、無いな。そりゃそっか」
ゲーム内において、衝撃感覚はあっても痛覚は無い。
痛覚なんてものがあったら、それはもう大変な事になる。ちょっと攻撃が掠っただけでも大惨事だし、それが腕や足の切断ともなれば、想像を絶する痛みが襲う。
これで猛毒を受けようものなら、それはもはや拷問同然。精神的にもダメージを受け、社会問題にまで発展しかねない。
リアルさを追求するにしても、痛覚が再現されないのは当然の事なのである。
「ダメージは受けてない……。自分の防御力が相手の攻撃力の4倍以上あれば、ダメージはゼロになるのか、ふむふむ……」
今のオレのVIT値は90。つまり、あのネズミのSTRは22以下という事になる……、のか?
これはとても嬉しい。
つまり、防御力に全振りしていけば、将来は魔物の通常攻撃を大抵無力化出来る訳だ。
全振り万歳。
角付きネズミはさっきから角で突撃してきているが、オレのHPは1すら減っていない。どころか、ネズミの方が徐々にHPが減っている始末。
反動ダメージか……。そんなのもあるんだな。
これ以上は可哀想だし、楽にしてやろう。
「ていっ」
「ぷぎゅっ!」
ガントレットによる鋼鉄パンチで、角付きネズミは無事昇天した。
角付きネズミの身体は光の粒子となって分解され、それがオレの身体に流れ込むようなエフェクトが出た。
魔物を倒すとこうなるのか……。
「お、レベルが上がった」
経験値を取得し、レベルが2になった。やっぱりレベルアップは嬉しいもんだな。
そして、新しいウィンドウが続けて出現した。
「ん? ……『スキル〈物理反射〉を獲得しました』……?」
物理反射:相手に物理反動ダメージを付与する。ダメージ値は、相手のSTRを参照する。
という事らしい。
さっき角付きネズミが反動ダメージを受けてたから、きっとあれがスキル取得の条件だったのだろう。
「ありがとうネズミくん。君の犠牲は、無駄にはしない……」
というか、スキルってあんな感じで取得出来るんだな。
やり込み型MMORPGというアイツの言葉は、こういう事を言っていたのか……。
そりゃ、こんなのはやり込みとひらめきが無きゃ分からないよな。これだって、たまたま偶然取得出来た訳であって、オレ自身はこういうのがあるって知らなかったし……。
確かに、やりがいはあるかもしれないな。
「もうちょっと奥に進んでみよう……」
危険は無いと判断したオレは、さらに森の奥へと進んで行った。
◆◆◆
「ギャフゥッ!」
「うるさ……っ!」
フォレストボア、攻撃力はそれほど高くないのか、奴の突進攻撃のダメージは通っていない。
だがこいつ、めちゃんこ硬い!
こっちの攻撃が、ダメージ1しか通っていないのだ。
オレの攻撃力は、あのイノシシの防御力よりも低いらしい。悲しい……。
まぁ、これはVIT全振りの宿命のようなものだ。甘んじて受け入れるより他にない。
「うおおお!」
オレはフォレストボアに向かって突撃し、ひたすら殴りまくった。
数分間の激闘の末、フォレストボアは無事昇天。これでオレのレベルは5になった。
経験値は旨いが、ドロップ品は無かった。残念。
スキルも取得出来なかった。そうそう旨い話があるはずは無いが、期待してなかったという訳でも無いだけに、ちょっぴり凹む……。
「……今日はこれくらいで終わっておくか」
かれこれもう3時間くらい経っている。
この続きは、また明日にしよう。
オレはメニューボードを開き、ログアウトボタンを押して終了した。
初期ステータスです。
【フリント】
LV:1
HP:900/900
MP:50/50
STR:65
VIT:90
INT:50
DEX:50
AGI:50
〈初期装備〉
ガントレット、ビギナーメイル