とある双子のプレイヤー
念の為。
新キャラクターが登場しますが、人によっては嫌悪する部分があると思います。
それでも良ければ、自己責任で。
追記:内容の一部を修正しました。(2023.4.8)
「ふっ!」
木々の間を枝伝いに飛び移り、目にも止まらぬ弓捌きで少し離れたところにいる魔物の肩を打ち抜く。
魔物の右腕はボトリとその場に落ち、肩からは血が止めどなく流れ落ちている。
「トドメッ!」
弓使いの少女は矢を番え、狙いを定めて放ち、魔物の額に直撃させた。
魔物の身体は光の粒子となって砕け散り、2人の中へと吸収されていった。
「お疲れ様、スミレ」
「うん、ありがとお姉ちゃん」
2人は、現実世界では双子である。
父の影響を受け、彼女たちは幼少の頃からゲームに触れて育ってきた。
父も母もそんな2人を受け入れ、"勉強を頑張る"という条件の下、毎日ゲームを楽しんでいた。
いつも一緒にプレイしてきた2人は、この〈ユートピア〉というゲームにおいても、コンビを組んでプレイしていた。
姉はサクラという名前で回復魔法使いとして、妹はスミレという名前で弓使いとして、息のあった連携を取りながらプレイしていた。
しかしそんな2人には、ある悩みがあった……。
「今回の魔物もキツかったね」
「うん。このままじゃあ、とても4階層までは上がれないね……」
「せめてあと一人、前衛を張れる人がいれば……」
前衛職の不在。
そもそもパーティーとは、剣士などの"前衛職"、魔法使いなどの"後衛職"、斥候などの"中衛職"の3つの専門職によって主に成り立っている。
中には"前衛職と後衛職のみ"のようなパーティーも存在するが、それらは人数と戦闘職の種類、そして戦術によっていくらでもカバー出来るので、さしたる問題にはなったりしない……。
しかし、この2人に限っては話は変わる。
今の2人のコンビは回復魔法使いと弓使い、後衛職が2人という実にバランスの悪い組み合わせ。
例えるなら、襲い来る敵に対してノーガードで堂々と弓を番えるようなもの。
いずれ、何処かで詰むのは目に見えていた。
しかし、こういう組み合わせになったのにはそれなりの理由がある。
2人は常に、一緒にプレイしてきた間柄。互いの癖や思考パターンなどはある程度お互い理解出来ており、臨機応変なチームプレイなどお手の物。
さらに、実は2人とも慎重派かつ不器用であるという事が、この問題を大きくしている。
もし片方が前衛職を引き受ければ、もう片方は後衛職。となれば、後衛は"遠距離火力"か"支援能力"かの2択を迫られる。
前衛職には一応、パラディンなどのように支援能力を持つ職業も存在してはいる。しかし、2人には"一人二役"のような器用な事は難しい。やってやれないことは無いのだろうが、2人にとっては実にハードルが高い選択肢。
それならば、2人でまとめて後衛職を引き受け、勧誘した前衛職のプレイヤーを2人で全力サポートしようという考えに行き着いた。
しかし、ここまできて……。
「中々見つからないね、お姉ちゃん……」
「そうね……。ある程度は妥協するにしても、脆い人が多過ぎるのよね。前衛職なのに」
「だね。前衛職なのにね」
2人は、前衛職の耐久力に関する認識がズレていた。
補足しておくが、前衛職は決して脆くはない。
パーティーの壁役を張る事もある前衛職は、だいたい防御面は高めに設定されている。
しかし、それはあくまで戦闘職同士を比較してのもの。
ドラゴンを初めとする魔物達を基準とするならば、前衛の耐久力はいくらあっても足りるものではない。
そう。
彼女たちが求める前衛職の耐久力は。
「せめて、ドラゴンのブレスを受け切れるくらいじゃないとねー」
ドラゴンの攻撃を受けてもやられないだけの防御力と、あまりにも無理難題が過ぎるものであった。
彼女たちは、自分たちが求める基準がどれほど高くて厳しいものなのかを、全然理解していなかった。
別のゲームでは出来たのだから、このゲームでも出来るだろうという思い違いをしていた!
「一旦、第1階層に戻ろっか」
「分かった!」
そんな事など自力で気づけるはずも無く、2人は第1階層へと移動を開始した。
◆◆◆
「いらっしゃいませー。あら、サクラちゃんとスミレちゃん! 来てくれてありがとう!」
「「こんにちは、ユリネさん」」
ここは、ユリネが開いている武具店である。
2人は、ユリネとは顔見知りであった。もちろん、ゲーム内での話ではあるが。
「今日は何の用なの?」
「えと、武器のメンテナンスをお願いしたくてきました」
「そういう事ね、了解。綺麗にメンテしてあげる♪」
「「お願いします!」」
武器のメンテナンス。
この〈ユートピア〉世界において、武具は基本的に消耗品である。
武具それぞれに耐久値があり、それを回復出来るのが生産職の強みである。
故に、長くダンジョンに潜るパーティーなどには、生産職のプレイヤーは必須級の存在であると言える。
「いつ見ても凄い……!」
「私も、いつかユリネさんにオリジナルの防具を作って欲しいなぁ……」
スミレは豪華絢爛な武器たちを見て心を踊らせ、サクラは鎧を見つめながら将来の願望に想いを馳せていた。
数分後……。
「はい、出来たわよ」
「「ありがとうございます、ユリネさん!」」
あっという間にメンテナンスが終了し、ユリネは武器をそれぞれ手渡した。
「それで、2人ともパーティーメンバーは見つかったの?」
「それは……」
俯く2人。
ユリネは、2人の事情を知る数少ない人物だった。
「まだ、見つかっていません……」
「そりゃそうよねぇ。いくらなんでも、ドラゴンのブレスに耐え切れる前衛職なんてそうそういやしないわよ」
「そう、ですよね……」
「「はぁ……」」
「……」
2人の口から、重いため息がこぼれる。
そんな2人の姿を見かねたユリネは、助け舟を出すべく口を開いた。
「ひとりだけ、心当たりがあるんだけど……。どうする?」
中には『こんな人間とか生理的に無理』なんていう人もいると思ったので、ああいう前書きを用意しました。
要らぬ心配、杞憂である事を祈ります。




