ゲームを勧められてしまった
始まります。
全ては、ある一言から始まった。
「一緒にゲームしようぜ!」
「……は?」
オレの自宅に遊びに来ていた友人・左川ヒロアキが、突然そんな事を言い出した。
MMORPG・ユートピア。
2ヶ月前に発売されたゲームであり、『やり込み系オープンワールドRPG』という謳い文句を掲げる新感覚のオンラインゲームである。
……と、ヒロアキは嬉々として語っていた。
「いやぁー、まだ2ヶ月目だけどよ、めっちゃ楽しいんだよ! そりゃあたまにはバグもあったりしてるんだが、それもだいたいすぐに解決されるし、運営もまぁまぁ有能だ」
「へぇー……」
「だからよ、アカリ。お前もやってみてくれよ」
「へぇー……。……え?」
「始めてみないか? ユートピア」
そう言って、ヒロアキはとびきりの良い笑顔で1本のソフトをカバンから取り出した。
それは最新のゲームソフト、ユートピアだった。
「ほれ、お前にやるよ。あとこれ、ゲームデヴァイスな」
「え? え?」
次々と手渡されるゲーム品の数々……。
といっても、ゲームソフトとゲーム器本体のヘッドギアくらいのものだったが。
「お、おい……!」
「気にすんな、俺からのクリスマスプレゼントだ!」
そういやこいつ、ゲーム会社の社長の息子だったな。
ゲームのひとつやふたつはポンポンと他人にあげられるか……。
「という訳で、とりあえず1週間はやってみてくれ! その上で面白くないなら返してくれて良いからよ」
「分かった分かった。とりあえずやってみるよ……」
とはいえ、ゲームは苦手なんだがな……。
まぁ、いざとなったらコイツに頼れば良いか。
コイツ、実はとあるゲーム大会で優勝したくらいのゲーマーだしな。
「っと、もう7時前か……。んじゃ、俺はそろそろ帰るぜ。またな」
「ああ。気をつけてな」
「おう」
ヒロアキは上機嫌で帰っていった。
「ふぅ……。……さて、やってみるか」
ゲームソフトをセットしてヘッドギアを被り、起動。
何とかゲーム機本体の初期設定を終え、オレはゲームを始めた。
「プレイヤー名か……」
さて、ゲームのプレイヤー名だが、どうするか……。
こういうの、確か本名は避けた方が良いんだろうな。
となると……。
「フリント、と……」
オレは迷わず、飼い犬の名前を入力した。
次の項目に進む。
「次は……、武器か」
目の前には、様々な武具が並んでいた。
大剣、斧、弓矢、盾、杖……。結構色んな種類があるな……。
「オレ、結構ヘタクソだからな……。うーん……」
色々な武器を眺めているうちに、オレの脳内にはある映像が浮かんできた。
あらゆる攻撃をその身で受け、近づいて敵をぶん殴る……。
アホか。
でも、そこそこ面白そうなのがまた笑える……。
「あ、そうか」
オレは、そこで面白い事を思いついた。
そして目当て武器を探し、すぐに見つけた。
―――ガントレット。
両手にはめ込むナックル装備。
グチグチと考え込むのは止めた。
近づいて殴れば倒せるだろう、そういう結論に行き着いた。
オレはガントレットを選んだ。
「さて次は……」
次の項目は、キャラメイキングだった。
どうやらここで、アバターの性別と見た目を自由に設定出来るらしい。
服装までよりどりみどりとは、最近のゲームは凄いな……。
「どうせアイツはゴリゴリの脳筋スタイルだろうし、こっちは全然違うやつにしよ……」
ヒロアキは昔からゴリマッチョ好きで、自身も筋トレに励むくらいの筋肉好きだ。
ゲームでも脳筋ゴリ押しスタイルで、『パワーイズジャスティス!』とか言って攻撃力に特化させるのが好きなのだ。
それと正反対となると……。
「可愛い系、か……?」
背低くて、見た目も可愛い女の子。
でも、オレは男だしな……。
「……男の"娘"でいくか?」
可憐な姿の少年とゴリマッチョの青年……。
「プッ……」
見た目のギャップが酷過ぎて、想像するだけで笑えてくる。
良いね、そういうの。
人の印象は見た目が9割という。まずは視覚情報で先制攻撃だ。
オレは小1時間ほどかけて、いかにも男の娘な見た目のキャラを仕上げた。
見てくれは銀髪サイドテール美少女。しかし残念、これは男だ。
女の子だと思って近づいてくる奴らの絶望する顔が楽しみだ……。
「最後は……、ステータスポイントの割り振りか」
初期ステータスポイントは25ポイント。これをSTR、VIT、INT、DEX、AGIのどれかに割り振れるらしい。
先に思いついた戦闘スタイルを再現するなら、やるべき事は防御力の一点特化。
つまり、ここではVITか。これに全部振って仕上げればいい訳だ。
……おお、VITを上げると防御力だけじゃなくて、HPまで増えるのか。これは重畳。
他のゲームにもあったが、防御貫通攻撃に魔法攻撃、毒ダメージに割合ダメージ。防御力だけではどうにもならない場面は結構ある。HPも増えるのなら、VIT一点特化も意味はあるな。
防御力で防げなければ、HPで無理矢理耐えてしまえば良いのだ。
……そこまでするなら、いっそ盾が良かったか?
まぁ、装備品はいつでも変更出来るらしいし、その時に変えれば良いか。
オレはSPを全部VITに注ぎ込んだ。
「やっと終わった……」
ゲーム起動から、実に2時間近く経ってしまったが、これでようやく始められる。
とりあえず、見たまま、感じたままにプレイしてみるとしよう。
オレは意気揚々と、はじまりの街に降り立った。
念の為、注意書きをひとつ……。
MMORPGについては、にわか仕込みの知識程度しかありません。明らかにおかしな点があっても、『こういうものなんだ』という事でご承知くださいますようお願い致します。
もし受け入れられないようなら、速やかに回れ右をする事を強くおすすめ致します。少なくとも、胸を張って堂々とおすすめ出来るような作品ではございません。
以上をご承知の上、当作品をお楽しみくださいませ。