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1st:Mr.ヘンドリックの動揺

 我が社「ヘンドリック・カンパニー」はモデルガンや戦車等の模型を手掛ける玩具の製造会社だ。貧しく幼い時に兄と近所の空き缶等のゴミを拾ってブリキの城や戦車などを作って遊んでいた。その趣味の情熱は大人になっても覚める事がなく、ついに私たち兄弟はそういう玩具を手掛ける会社を設立したのだ。



 競争の激しい玩具業界。しかし私たちの手掛ける独自の厳つい雰囲気の玩具の数々は高度経済成長また軍拡を為しえている大国の我が国の子供たちのハートを奪い、瞬く間に私たちの会社を大きくした。



 まさにウハウハの人生になる筈だったが収益という収益は全て兄に奪われて、私は引退するまで支社の工場長として細々と厳つい玩具づくりに励んだ。




 転機は兄が90歳になったとき、拳銃のミニチュア模型を誤食し喉に詰まらせ、そのまま逝ってしまった。



 会社の会長特権で豪遊三昧をしていた兄に代わる者などいなかった。かく言う私も元妻を寝取られてしまい、その屈辱のまま何故か会社幹部から左遷された。その私に「会長に就いて欲しい」と会社本部から願われたのだ。




 私はそのとき、88歳となっていた――




 質素なアパートの一室を構えながら長閑に暮らしていたものの、急にそんな話が飛んできて困ったものだ。しかし兄が住んでいた豪邸に住めるのなら……。



「ひゃっほ~い! もちろん受けるぞ!」



 軽く返事を返してしまったのだ。しかしスグに私は厳しい現実を目の当たりにした。



 我が社の会長職は兄が分かりやすくそうであったように只の飾り人(ただのかざりもの)だ。



 兄の豪邸に仕えていた者たちは兄の死を機に皆、颯爽と去っていった――



 しかしたった一人だけその邸宅に残ったメイドがいた。キャサリン・テイラー。18歳の入職から40年ほど仕えているメイドのベテランだ。兄と兄の愛人らの身勝手な要望にもスマートにテキパキと応えられる極みつきのベテランである。



 私が会長となり、この館で過ごすようになっても彼女は変わる事なく主の要望に応えた。



「う~ん、このへんにコーヒーを零して染みができてしまったか……」

「明日には綺麗に補修しましょう。お任せください」

「おぉ……すまんね……」



 またある日は。



「アイテ! 爪切りに失敗しちゃった! あ! 血が出ているぅ!?」

「大丈夫ですか!? ご主人様!? すぐに手当てします!!」



 それからこんな日も。



「う~ん、腰が痛いなぁ。この段差を上がるのにも一苦労だ」

「支えましょうか? ご主人様?」

「おぉ……すまんね……」



 というもはや介護士さんのような役割を果たしてくれている。




 そんなキャサリンだが最近妙に冷たくなってきた。



 私はあの兄と違ってこの館でノホホンと過ごしている老人に過ぎないと思うし、兄と比べて実に楽勝で扱いやすい主人のように思うのだが……



 いかんせん、この館にいるのは私と彼女だけだ。



 そんな私達をある日、突飛な出来事が襲ってきたのだ――




 上空に鳴り響くヘリコプターの音。そして窓をみれば今にも戦闘準備万端だと構えている特殊部隊の屈強な男達。



「おい! キャ、キャサリン! コレはどういうことだ!?」



 最近はとにかく不愛想で「それぐらいご自身でがんばってくださいよ」とツンツンしてくる彼女が顔を赤くして泣いていた。



「どうしてだ!? どうしてこんな事になった!?」



 御年90になる私でも血相を変えて彼女に迫った。



「どうして……どうしてって……」



 彼女はずっと泣いてばかりだ。



 しかし泣きたいのは私だ! 私のほうなのだ!



「どうしてこうなったのかわからないのですぅ!!」



 彼女は涙をボロボロと零すばかりだった――



※本作は話ごとに視点が変わります。

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