04.光王子※グランツ視点
僕は、かつて魔王を倒したという、勇者が使っていた光魔法の力を持って生まれた。
生まれた瞬間から淡い光を身体にまとっていたらしい僕の誕生に、父や母だけではなく、国中が歓喜したという。
光魔法はとても希少で素晴らしい力だとされている。
暗闇に明かりをともすだけではなく、極めれば人々の悪しき心や病、魔物をも浄化できると言われているのだ。
そんな力を、王子が持って生まれた。
王や民が喜ばないはずがなかった。
僕もその期待に応えようと、幼い頃から魔法の勉強や訓練に励んだ。
この国に魔王は蘇っていないが、魔物は滅んでいない。
この力を極めて困っている人々の力になりたい。
いつか立派な王になりたい。
そう思っていた。
〝ああ、グランツ様は今日も眩しいですね〟
子供の頃、従者たちは僕を見てにこやかにそう口にしていた。
生まれたときから淡い光を身体にまとっていた僕だが、幼い頃は決して姿が見えないというほど輝いてはいなかった。
誰にでも見えるオーラのような淡い光をまとっているだけだったのだ。
〝光王子〟期待と親しみを込めて、人々は僕のことをそう呼んだ。
しかしその輝きは成長するにつれて強いものになっていった。
『光王子は今日も眩しい』
『本当に。お顔もとっても可愛らしいし、将来がとても楽しみですね』
『でも少し眩しすぎないかしら?』
『そういえば最近少し、ちかちかしてお顔をよく拝見できないのよね』
人々の声にはそのようなものが混ざり始めたが、それでもまだ、子供の頃の僕は姿が見えないほど眩しいということはなかった。
『美しい』
『とても素晴らしいお力だ』
『なんてありがたい輝き』
『将来はどれほど立派な王になるのだろう』
そのような前向きな言葉が聞こえていたのは、僕が十歳を迎えるくらいまでだった――。
「グランツ様……とても眩しくて……目が……!」
ある朝起こしにきた僕付きの従者が、僕を見るなりそう言って目を覆った。
年々、僕の身体から発せられる光は強くなっているのだ。
長い間直視すると目がちかちかしてしまうようになり、近くで僕のことを見ることができなくなり、ついにはサングラスなしでは僕の姿を捉えるのが難しくなっていった。
そして十二歳を迎える頃には、とうとうサングラスをかけても、人々は僕の姿を見ることができなくなってしまった。
焦った父は、国中の力ある魔術師に頼んで僕の光を抑えるよう手を尽くさせた。
しかしその効力は一時的なものであったり、輝きを少しだけ抑えることしかできなかったり、年々増していく輝きの速度を遅らせる程度のものだった。
僕自身もなんとかこの力をコントロールしようと試みた。
しかし力を付ければ付けるほど、輝きは増してしまうのだ。
父は元々、僕の婚約者選びにはとても慎重だった。
そのため、僕が光魔法を極めすぎて姿が見えなくなってしまったときには、もうこんな僕と結婚したいと思ってくれる令嬢は現れなかった。
〝直視したら目が潰れてしまうらしい〟
実際に目を潰した者はいなかったが、そんな噂が一人歩きしていった。
確かに僕の輝きは眩しすぎて他人から見れば強烈すぎるのだろうから、その噂が信じられてしまうのも無理はなかった。
更にちょうどその頃、母が流行り病にかかって亡くなった。
僕は病を癒せるという光魔法が使えるのに、母を助けることができなかったのだ。
とても虚しかった。
僕は人を助けたくて、立派な王子になりたくて努力してきたのに。大切な人すら助けることができず、力を制御できなくなって人々を困らせているのだ――。
それから人前に出ることを控えるようになった僕を見て、父は王宮の魔術師たちに特別なサングラスを作らせ、人々の目を守らせた。
おかげで大事な式典などには参加することができたが、その特殊なサングラス越しでも僕の姿を捉えることはできなくなってしまった。
もう、手は尽くした。
僕は物理的にも〝光王子〟となってしまったのだ。
僕がどこにいるかは皆一目でわかる。何せとても目立つのだから。
ただし僕の姿はただの光の塊にしか見えていないのだ。
僕からはこれまでと変わらずみんなを見ることができた。
だが、誰一人として目を合わせることはできなくなってしまった。
みんな僕から目を逸らし、顔を逸らし、距離を置いた。
僕の世話をしてくれていた者たちも僕に近づくのが怖いのだろうということが、僕には伝わった。
僕がどこを見ているのか彼らにはわからないから、怯えた表情を見せてしまうのだ。
彼らに罪はない。それはわかっていたが、とても寂しかった。
だから僕はできるだけ自分のことは自分で行うようにし、髪も自分で切るようになった。
身なりを整えてもどうせ誰からも見えないのだから、切るのは年に一度だけにした。
幼い頃は「天使のように可愛い王子だ」と言われてきた僕だが、見えなければそんなことに意味はない。
僕は本当に存在しているのだろうか? 生きているのだろうか?
そんなふうに考えたこともあった。
それでも父は僕の幸せを諦めなかった。
僕と結婚してくれる貴族令嬢を大々的に募集して、名乗りを上げたフローシュ子爵のご令嬢を、僕と結婚させることを決めた。
父の願いを聞くつもりで婚約を受け入れ、彼女と顔合わせを行った。
フローシュ子爵のご令嬢アビアナは、見た目の美しい娘だった。
だが顔合わせの場で、僕を見て怪訝そうに顔をしかめた。
きっと彼女も父に言われて嫌々結婚するのだろうということがわかった。
それを思うと本当に申し訳ない気持ちになったことを、今でもよく覚えている。
そして迎えた結婚式当日――。
彼女は来なかった。
いや、彼女に似た花嫁は来たのだが、それはあのアビアナではなかったのだ。
結婚式で僕との愛を誓ったこの女性は誰だろうか……?
そんな疑問を抱いたが、僕には相手が誰であろうと、関係なかった。
結婚さえすれば父は納得してくれるだろう。
僕と結婚させられたこの女性には申し訳なく思うが、花嫁は嫌な顔を一度も見せなかった。
僕にはそれがとても不思議だった。
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