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27.闇の力

 ――魔王様。

 ――魔王様。


 誰かが私を呼んでいる。


 ……いや、違う。

 私は魔王ではない――。


「魔王様」

「……っ!」

「ああ……よかった。目が覚めましたか、魔王様」

「……」


 目を開けると、私をここに連れてきた銀髪の男、フレディがベッドで寝ていた私の顔を覗き込むようにして立っているのが目に映った。


 私、いつの間にか眠っていたの……?


 大きなベッドに横になっていた私は身体を起こし、混乱する頭を整理した。


 今何時だろう? 朝? 夜? 

 眠る前、私は何をしていたんだっけ……。


「魔王様、お食事でございます」

「……また、そのフルーツ……?」


 一歩身を引き、丁寧に頭を下げて胸に手を当てながら、フレディが言った。

 その後ろから彼の部下と思われる者が、ガラガラと音を立てて台車に乗った大量のフルーツを運んできた。


「さぁ、どうぞ」

「いいです、お腹空いていないので……」

「そうおっしゃらず。美味しいですよ」

「……」


 橙色のその丸いフルーツは、きちんと皮を剥いて食べやすい大きさに切り分けてくれている。

 熟して果汁が溢れ出て、とても美味しそう。

 実際に、甘くてとても美味しかった。


 けれど、この見たことのないフルーツを食べた後、私はまるでお酒に酔ったみたいな感覚になり、いつの間にか眠っていたのだ。


 いや……待って、お風呂の後のオイルの香りも不思議な感じだった。


「さぁ、お召し上がりください! そして魔王様の力をもっと解放するのです!」

「え……?」


 魔王の力を解放する? どういうこと?


 嬉々として紡がれた男の言葉に、私は思わず顔をしかめた。


「聞こえますか? 感じますか? あなた様が帰ってきてくださったおかげで、この森の魔物たちも力を得ているのです! ですがあなたの力はまだまだこんなものではない! さぁ、もっとたくさん召し上がって、力を解き放つのです!」

「……」


 この方は、何を言っているのだろう。


 森の魔物が力を得ている? たくさん食べて力を解き放つ……?


 まさかと思い、ベッドから降りて窓に駆け寄った私は外を見て驚愕した。


 空がとても暗い。夜とは違う。雲もないのに、星が見えない。とても不気味で、嫌な感じがする。


 これは……私がやったの?

 知らない間に、私が邪悪な闇魔法の力を解放してしまったの――?


「大変……なんとかしないと……!」


 慌てて力を制御してみようと試みる。けれど、うまくいかない。


「どうして……」

「すっかり記憶をなくされているのですね。止める必要などありませんよ。あなたはここで我々と過ごすことで本来の力を正しいほう(・・・・・)に使っているだけなのですから」


 にやりと不気味な笑みを浮べて、人間のものよりも鋭く尖った歯を覗かせるフレディに、ぞくりと寒気がした。


 正しいほうなはずがない。

 私は人間だ。魔王じゃない。あの空は、とても嫌な感じがする。

 このままでは魔物が人間の暮らす街を襲ってしまう。


「さぁ、魔王様。心配しなくてもあなたの記憶はすぐに思い出させて差し上げますよ」

「……私は魔王じゃありません!!」


 私は生まれたときからずっと、邪悪な力を持っている忌み子だと言われてきた。存在を隠されて生きてきた。

 母が亡くなったのも私を産んだせいだと言われ、生きているだけありがたく思えと、父に言われ続けてきた。


 このままでは、本当にそうなってしまう。


 けれど、グラン様や陛下はそんな私を受け入れてくれた。

 悪いのはこの力ではない。この力をどう使うかが大切なのだと言ってくれた。


 私に優しくしてくれた方々を悲しませるようなことは絶対にしたくない――!



「!? 魔王様……!!」


 それを考えたら、私の中からとても強い力が込み上がってくるのがわかった。


 自分の光を抑えることが難しかったグラン様のように、私も闇の力を抑えるのはとても難しい。


 けれど、やってみせる。


 たとえこの身が朽ち果てたとしても、闇魔法を悪いものにはしない!!


「魔王様、おやめください!」


 神経のすべてを集中させる。力を抑えるよう意識する。空の闇を自身に吸い寄せるよう、イメージする。

 すると、空を覆っていた闇が少しだけ晴れてきた。


「魔王様!!」


 それを見て、フレディが慌てたように私の腕を掴んだ。


「私は魔王ではありません!! 離してください!!」

「そうはいきません……! 我々があなたをどれほど探していたと思っているのですか……! あなたを街で見かけたとき、どれほど嬉しかったと思っているのですか……!!」


 フレディのその言葉に、いつかグラン様とお忍びで街に出たとき、何か嫌な視線を感じたことを思い出した。


 そういえばあのときの感覚は、この男に話しかけられたときのものに似ている。


「人間の勇者にあなたの命を奪われて……我々がこの数百年、どんな思いでいたとお思いですか! 今こそ復讐するのです! あの忌々しい光の力を持った勇者に――!」

「!」


 光の力――グラン様のことだ。


 ということは、彼らはグラン様に復讐するつもりでいるということ? グラン様だって勇者とは別人なのに……!


「私は魔王ではないし、彼も勇者ではありません! もう帰してください!」

「……まさか、あなたはあの男を愛しているのですか……?」

「はい。私はあの方の妻ですから」

「……なんと」


 フレディの力が緩んだ隙に彼の目をまっすぐ見据えて手を振り払うと、私ははっきりと返事をした。



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