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26.光の力※グランツ視点

「随分魔物が多いですね」


 ニキアスとともに西の森まで一気に転移してきたのはいいが、ここから魔族の住処までは自分たちで向かわなければならない。


 だが、先ほどから何度も魔物が襲いかかってくる。

 ニキアスの魔術と僕の剣でなんとか倒しているが、一刻も早くアビーのもとに向かいたいというのに、足止めを食らっている。


 いくら魔族の住処が近い森とはいえ、こんなに魔物が活性化しているのは何かおかしい。


「殿下、やはり空の様子がおかしいです」

「ああ、僕も気になっていた。暗くなるのが早すぎる」

「これはもしかして……」

「……っ」


 そう、曇っているわけでもないのに、空が暗い。まるで光だけが奪われているかのように。

 考えたくはないが、かつて魔王がこの世界を闇で覆ったというその状況に近い気がした。


 それだと魔物たちが活性化している理由も納得がいく。闇魔法の力は邪悪な力を増幅させることがあると言われているのだから。


 だが、アビーが自らそんなことをするとは思えない。

 ならば操られているか、無理やり闇魔法を使わされているのだろうか。


 どちらにしても、アビーは苦しんでいるに違いない。


「とにかく、一刻も早くアビーのもとへ行かなければ……!」

「はい」


 そんなことを考えながらニキアスとともに森の奥へ進んでいたら、僕と並んでいたルルがピタリと足を止めて低い唸り声を上げた。


「グルルルルル……」

「……ルル?」


 そんなルルに目を向けると、白かったルルの毛の色が徐々に黒く染まっていった。


「!」


 更に、それと同時にその身体が巨大化し始めた。


「ルル……!」

「殿下、いけません!!」


 苦しそうに唸っているルルに手を伸ばした僕に、ニキアスが焦ったように声を張った、その直後。


「ガアアアアアア――」


 ルルは鋭い牙を剥き出し、僕目がけて飛びかかってきた。


「……っ!」


 僕は頭を庇うように左腕を上げ、咄嗟に右手をルルに向けると、思い切り自分の魔力を解放させた。


「きゅぅん……っ」


 その瞬間辺りを強い光が覆い、牙が僕に届く前に、ルルは大人しく口を閉じて地面に着地した。


「ルル」

「……きゅうん」


 光を浴びて元の白い毛色に戻ったルルは、僕を見てしゅんと耳を垂らし、その場に伏せた。


「大丈夫だよ、ルル。元に戻ってよかった」

「グランツ殿下……これは……!」


 ルルの頭を撫でるようにそっと手を置いた僕に、ニキアスが驚愕の声を上げる。


「光魔法の力でルルの闇を払ったのですね……! しかもそれだけではなく、この辺り一帯の瘴気も浄化された……! なんて素晴らしいお力……!!」

「……そのようだな」


 光魔法を極めると、悪しき心や魔物を浄化することもできると言われている。


 僕は光魔法を極めようと幼い頃から努力してきたが、その結果大きくなりすぎたこの力を制御できなくなり、自分が光り輝いてしまった。


 これまでずっと、ニキアスら優秀な魔術師とともにこの力を制御できるよう努めてきた。


 それが今、ここで成し遂げられたのか……?


「今のうちに参りましょう、殿下」

「ああ」


 だが、考えるのは後だ。ともかく今は、急いでアビーのもとへ向かおう。

 辺り一帯の魔物が浄化された、今のうちに。


「アオン!」

「ルル、どうした」


 狼ではなく、熊ほどの大きさに巨大化したままのルルが、僕を呼ぶように鳴き、背を低くした。


「……背中に乗れということではないでしょうか?」

「そうなのか……?」

「アオン!」


 ニキアスの言葉にルルを確認すると、頷くようにもう一度鳴くルル。


「……わかった。ありがとう、ルル。ニキアス、僕はルルと先に行く! 君は騎士団と合流しろ!」

「ハッ!」


 ニキアスにそう伝えると、ルルは僕を背中に乗せて走り出した。


 速い、とても速い。自分の足で走るよりも……馬よりも。


 それに、ルルは迷いなくまっすぐ走っている。

 まさか、アビーの居場所もわかっているのか?


「ルル。君が一緒に居てくれて助かった」

「アオン!」


 振り落とされないようルルの背中にしっかり掴まって、僕はひたすらアビーの無事を願った。



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