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21.ホワイトウルフ

 グラン様の眩しすぎた輝きが抑えられてから、私たちは時間があれば一緒に過ごすようになった。


 これまでもとても楽しい時間を過ごせていたけれど、グラン様と目を合わせて会話することができるようになった今は本当に幸せ。


 姿が見えなくなってしまってからも、グラン様は勉強や努力を怠らなかった、立派な方。


 こんなに素敵な方の妻だということが未だに少し信じられないけれど、私たちはゆっくり進んでいくのだ。



「アビー、見てごらん。花がとても綺麗に咲いているよ」

「まぁ、本当ですね」


 グラン様は積極的に部屋から出るようになったので、今日はお部屋でお茶をするのではなく、王宮裏にある森でピクニックをすることにした。


 森を進むと小さな湖があったので、その近くにシートを敷いて二人で並んで座る。


 辺りには色とりどりの可愛いお花がたくさん咲いている。

 王宮の庭園も庭師によって美しく剪定されていて素晴らしいけれど、自然に咲いている草花もそれはそれでどこか違う美しさがある。


 そうそう、今王宮の庭園に、花に囲まれたガゼボを作ってくれている。

 完成したらそこでお茶をしようとグラン様と約束しているので、それも楽しみ。


 グラン様とは、これから色んなことができるのだ。考えただけでわくわくしてしまう。


 花や湖を眺めながらゆっくりお茶を飲んで、しばらく二人で静かな時間を過ごした。


「アビー、少し湖に近づいてみようか」

「はい」


 紅茶を飲み終わった頃、そう言って手を差し出してくれたグラン様に頷いて、私はその手に自分の手を重ねた。

 そのまま手を繋いで湖の近くまで歩く。


 そうしながらふとグラン様を見上げるとにこりと微笑まれて、顔にぽっと熱が集まった。


「あ……」


 それで思わずグラン様から視線を外したら、草の影に白いものが丸まっているのが目にとまった。


「グラン様、あれは……」

「どうした?」


 気になってそちらに近づいてみると、白い毛に覆われた犬のような生き物が丸まっているのがわかった。


「……! 大変です! この子、怪我をしているようです!!」


 それも、前足を怪我してしまったようで、血を流して動けずにいる。


「ホワイトウルフだね。まだ子供のようだ」

「まだ子供……」


 普通の狼だったらもう大人だろう大きさだけど、ホワイトウルフは魔物だ。


 私たちが近づいたことで警戒しているようで、〝ぐるるるるるるる〟と小さく唸り声を上げている。けれど、かなり弱っているのがわかる。


「すぐお医者様に――」


 診てもらわなければ! そう思ったけど、グラン様は取り乱すことなくまっすぐその子に歩み寄ると、屈んで自分の手を前に出した。


「……」

「グラン様……?」


 無言のまま血が流れているホワイトウルフの足に手をかざしているグラン様は、何かに集中している。


「……あっ」


 しばらくすると、その子の足から流れていた血が止まったように見えた。


「よし」

「すごい……すごいです、グラン様……!!」


 光魔法を極めれば、怪我や病気を治癒することができると聞いたことがある。


 今、グラン様がしてみたように。


「これくらいの小さな傷なら僕でも治せるのだが……とにかく、これは応急処置にすぎない。一応医師にも診てもらおう」

「はい!」


 グラン様が「おいで」と言って手を伸ばすと、先ほどまで警戒していたというのに、ホワイトウルフは「きゅうん」と可愛く鳴いてグラン様にすり寄った。


 魔物が人に懐くことは、まずあり得ないと聞いている。


 ということは、グラン様の力は魔物を従えさせることができるということだろうか……?


 光魔法は、本当にとても素晴らしい力のようだ。




 ***




「――うむ、特に異常はなさそうですね」

「よかった……」


 王宮に戻った私たちは、魔獣医に先ほどのホワイトウルフの子供を診てもらった。


 足の怪我は治ったし他に悪いところもないようで、私はほっと胸を撫で下ろす。


「しかし、本当によく懐いていますね」

「そうみたいだな」


 診察が終わるとすぐにグラン様のもとに駆け寄り、〝おすわり〟をしてぱたぱたとしっぽを揺らしているホワイトウルフ。


 はっきり言って、とても可愛い。


「しかし森の湖近くで倒れていたとは……おそらく群れからはぐれてしまったのでしょうね」

「まだ子供なのにかわいそう……」

「そうですね……」


 魔獣医と私の言葉を聞いて、グラン様はじっとホワイトウルフを見つめた。

 ウルフのほうはもうすっかりグラン様をリーダーだと思っているのか、金色の瞳を輝かせ、信頼を含んだ視線をグラン様に向けている。


 子供なのに群れから離れて独りになって、大丈夫なのだろうか。

 今だって怪我をしていたし、とても心配……。


「……大人になるまで、僕たちで面倒を見ようか」


 そんな気持ちでグラン様を見つめたら、私と視線を合わせて優しく微笑みながらそう提案してくれた。


「はいっ!! そうしましょう!」


 グラン様の言葉に、私は力一杯頷く。

 さすがはグラン様だ。お優しい。

 

「では、早速名前を決めましょう!」

「嬉しそうだな、アビー」

「えっ」


 張り切ってそう言った私を見て、グラン様がくすりと笑う。


 別に私が〝飼いましょう!〟と訴えたわけではない……わよ?


 ……ほんのちょっと、期待したけど。


「名前か。……ルル、はどうだろう?」

「ルル……いいですね、可愛いです!」


 けれどグラン様はすぐにこの子の名前を考えてくれた。


 私たちが最初にこの子を見つけたとき、〝がるるるるる〟と唸っていた。だから、〝ルル〟という名前は結構しっくりくる。


 今では〝きゅぅん〟だけどね。


「よろしくね、ルル」

「アオン!」


 グラン様の隣でルルに目線を合わせて言ったら、私にもぱたりとしっぽを振ってくれた。


 なんだか本当に子犬のようで、とっても可愛い……!




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