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20.自業自得※姉視点

 なんなのよ、あの王子! 本当に気分が悪いわ!

 あの子のどこがいいのかしら、まったく。


 今思い出しても腹が立つ。


 グランツ殿下の誕生日パーティーに参加した私は、とんでもなく酷い目に遭って帰ってくることになった。


 大勢の貴族の前で、恥をかかされたのだ。

 それに、危うく失明するところだった。

 まぁなんとか失明は免れたけど、あの後しばらく目がちかちかしてとても辛かった!


「それにあの子もあの子よ……! アビスのくせに調子に乗っちゃって、本当に腹が立つわ!」


 これまでアビスは、私の言うことに逆らったことはなかった。

 私が言えばなんでも大人しく従っていたのに、私が王子を返せと言ったら、はっきり「嫌だ」と言ったのだ。


 何を勘違いしているのかしら。アビスのくせに、本当に生意気ね!


 だけど、まさかあの子がグランツ殿下の眩しすぎる光を闇魔法で抑えてしまうとは思わなかった。

 あんなに大勢の前であの邪悪な力を使ったことにも驚いたけど、あの子にあんなことができるなんて、知らなかった。


 自身を纏っている光が消えて姿が見えるようになったグランツ殿下は、目を見張るような美しい方だった。


 だからアビスなんかよりも美人で育ちのいい私が結婚してあげようと思ったのに、あの王子はまるで私のことが見えていないみたいに冷たい瞳で「知らない」と言い、私の存在を否定したのだ。


 本当に信じられない! 本当に失礼な人だわ!


「愚かな王子ね! 教養も何もない、あんな女と結婚してうまくいくはずがないのに!」


 だいたい、アビスもアビスよ! この私に口答えするなんて!


 でもまぁ、十年以上も光り輝いていたせいで、ほとんど引きこもっていた王子が立太子されるはずがないわね。

 大丈夫、王子はあと二人もいるのだし、アビスが幸せになれるはずがないわ。

 どうせマナーも教養もないから恥をかいて、すぐに追い出されるに決まっているわよ。

 アビスが私より幸せになるなんて、絶対に許さないんだから!



 そう考えながら私はいい男を捕まえるため、お父様に新しいドレスを買ってもらおうとおねだりをしに書斎を訪れた。


「ねぇ、お父様。お願いがあるんだけど」

「……ああ……アビアナ……」

「?」


 可愛い私がおねだりすると、父はいつも表情をでれっと緩めて「なんだい?」と甘い声を出す。


 それなのに今日はなんだか顔色が悪い。というか、血の気がない。真っ青だ。どうしたのかしら?


「お父様、私、新しいドレスが欲しいの。私の魅力がうんと引き出せるドレスを着て、素敵な方と結婚――」

「爵位と領地が剥奪されてしまう」

「え?」


 それでも構わず用件を口にした私の言葉を最後まで聞かずに、父が何か言った。


 爵位と領地が剥奪される? 会話が成り立っていないわ。というか、お父様は何を言っているのかしら。そんなことあるわけないじゃない。いいえ、あってはならないわよ。


「アビスが王子に嫁いだお金で借金は返せるのでしょう?」

「……そのアビスを長年虐待してきた罪と、娘を入れ替わらせてグランツ殿下を騙した罪で私は爵位と領地を奪われる……」

「ええ!?」


 もう一度告げられた言葉に、私の口からは大きな声が出た。


「嘘でしょう!? 信じられない!」


〝なぜばれてしまったんだ……〟と呟きながら頭を抱えている父は、とても頼りなく見える。


「ねぇお父様、嘘でしょう!? 嘘だと言ってよ!! 嫌よ私、まだ嫁ぎ先も決まっていないのに――」

「……おまえが大人しくしていれば、ばれることはなかったはずなんだ……!!」

「え……?」


 けれど続けられた父の言葉に、私は顔をしかめて言葉を呑み込む。


「そうだ……おまえが勝手に殿下の誕生日パーティーに行ったりしなければ……! なぜ勝手なことをした!! 本当におまえはいつもいつも自分勝手がすぎるんだ……!」

「お父様……?」


 私はアビスではなく、アビアナよ?


 お父様が私にこんな怒鳴り声を上げるのは初めてだ。

 まるで、アビスに対するときのような口調にビクリと身体が揺れる。


「おまえのせいだぞ、わかっているのか、アビアナ!! アビスのように魔力が強くもないおまえは見た目だけが頼りだというのに、勝手なことをしたせいで評判もがた落ちだ!! 私の言うことを聞いていればよかったものを……! もうおまえみたいな娘を拾ってくれる高位貴族の男はいないからな!!」

「そんな……っ!」


 捲し立てるように一気に声を荒げた父に、私は圧倒されて言葉を返せない。


 私にはあんなに優しかったのに……どうして!?


「ああ……最悪だ……私はこれからどうなるのだ……」

「……」


 娘にいい結婚相手が見つからないかもしれないというのに、この父親は自分の心配をして頭を抱えている。


 なんて酷い父親なのかしら……!

 私のせいにするなんて! 元はと言えば父が借金を作ったからこうなったんじゃない! 自業自得だわ!


 ……でも、それでは困る。

 結婚相手も見つからない、父の爵位も領地も奪われる。


 そしたら私は、今後どうやって生活していけばいいの――?




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