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02.王子との結婚

「いいか。くれぐれも無礼のないようにな。決してあの力(・・・)は使うなよ。わかっているな?」

「ええ、わかっています。お父様」

「ふんっ、ここまで生きてこられただけでも感謝すべきなのに、王子に嫁げるのだ。この先も一生、おまえに与えられる金品はすべて私とアビアナに送るように」

「はい」

「もし約束を破ったらおまえの力をばらしてやるからな」

「……はい」


 王宮へ向かう馬車の中、私は何度も繰り返し父にそう言われた。


 心配しなくても、私は闇魔法を使うようなことはしない。


 その力がどれほど気味の悪いものなのかは、この十七年間で散々父から聞いてきたのだ。

 せっかく結婚できる王子様に、気味悪がられたいとは思わない。


 というかそもそも、私には魔王のような強い力はない。


 昔母に付いていた侍女の話によると、私が使ってしまったのは明かりを消してしまったりするような、可愛いものなのだとか。


 まぁ、それでも闇魔法であることには違いないのだけど。


「おまえに教養などないことは知っているが、陛下はグランツ殿下に嫁いでくれる貴族の娘ならば、それは気にしないとおっしゃってくれた。おまえは黙っていればいい。何もしゃべるな。何もしゃべらず、大人しくしていればおまえも見た目だけはいいのだから」

「はい」


 登城するために、私は初めて侍女たちに丁寧に身体を洗われて髪を整えられた。


 傷んでいた毛先は切られたけれど、オイルまで使ってくれたおかげで、見た目はまだましになった。


 それでもまだアビアナに比べたらがりがりだし、髪や肌に艶が足りないと思うけど……。父は、「どうせグランツ殿下もそこまで見ていないさ」と言った。


 ……本当にそうかしら?

 眩しくて人からは見えないけれど、本人はちゃんと相手を見えているはずだ。


 ばれて王子の怒りに触れなければいいのだけど……。


 ともあれ私は、あの家を出て行ける。


 王宮での暮らしがどんなものかはわからないけれど、一生あの家で存在はないものとして隠れて暮らすことを思えば、それ以上悪いことはないのではないかと思えた。



 眩しすぎて姿が見えない王子か……。


 理由は全然違うけど、なんだか私と似ているわね。


 存在しているのに、その姿を見てもらえないだなんて――。




 ***




 グランツ殿下との結婚式は、すぐに執り行われた。

 アビアナが既に婚約も挨拶も済ませているので、準備が進められていたのだ。


 国王陛下も、花嫁の気が変わらないうちにさっさと結婚させてしまいたかったようだ。


 でも私の気は変わらないから、安心してほしい。



 結婚式では、みんな特殊なサングラスをかけていた。

 誤ってグランツ殿下の姿を直視しないようにだろう。


 遠くからであればグランツ殿下を見ても目が潰れるということはないようだ。でも、光り輝いていてどんな姿をしているのかはわからないらしい。


 まるで太陽のような方だと思った。


 けれど、近づけば近づくほど危険だということで、彼の隣にいる私は目を布で覆われた。サングラス越しでもこの距離で直視しては、本当に失明してしまう可能性があるのだとか。




 最低限の儀式だけを行うと、式はあっという間に終わった。


 私はグランツ殿下とは別々の部屋に通され、王宮でも身体を磨かれ、子爵家とは比べものにならないほど丁寧にマッサージを受けた。



 そして夜はすぐに訪れた。


 通された広い部屋で、大きなベッドの上で、グランツ殿下を待つ。


 静かな部屋で一人グランツ殿下を待つというのはとても緊張した。


 けれどこれからが本番だ。私はこのためにグランツ殿下と結婚したのだ。


 グランツ殿下の、世継ぎを産むために――。


 これからいたすことを考えてか、私にはサングラスも目隠しの布も与えられなかった。


 王宮の侍女には「決して目を開けてはなりません」と堅く言われたけれど、顔を隠して王子が萎えてしまわないようにだろう。


 少し痩せすぎだとは思うけど、決して見た目は悪くない私は、目だけつむって大人しくしていればそれなりなのだ。


 だから大人しく目をつむって、あとは王子に任せればいいということだ。


 しばらくベッドの上で静かに待っていたら、扉がノックされて誰かが入ってくる気配がした。




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