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17.最初から始めよう

「……ふぅ」


 私は今、自分の部屋のベッドの上でグラン様を待っている。


 今日は月に一度の、グラン様と寝室をともにする日だ。


 グラン様の眩しすぎる光が抑えられて、想いを伝え合って初めてともにする夜。


「はぁ……」


 緊張しないはずがない…………!!


 だって私たちはもうお互い目を見て会話できるし、気持ちを確認し合ったのだから、本物の夫婦になれたのだ。


 グラン様は「僕を愛する必要はない」と言った。顔の見えない男を愛せるはずがないのだから、と。


 けれど、そのどちらも克服されたのだ。


 第一王子であるグラン様が正式に立太子される日は近いだろうし、世継ぎも早急に求められるはず……!



「アビー、いいかな?」

「はい……っ!」


 そんなことを考えながら何度も深呼吸を繰り返していたら、扉をノックする音とともに聞こえたグラン様の声に、私の心臓はドキリと大きく飛び上がった。


「失礼するよ」

「……はい!」


 今まではずっと目を閉じていたけれど、今夜はしっかり目を開けてグラン様をお迎えすることができる。

 グラン様は品のいい夜着一枚の姿で現れた。


 ああ……本当に、とても素敵な方だわ。


 まだ光を放っているのではないかと思ってしまうほどキラキラと輝いている金髪に、白くてなめらかな肌。宝石を嵌め込んだような碧眼に、想像していたよりも鍛えられていて頼もしい肉体と、私より頭一つ分高い身長。


「……」


 これまで見ることができなかった分も、じっくりと観察してしまいたくなるほど美しい方だ。

 今では完全に光は抑えられているというのに、私にはとても眩しく見えてしまう。


「……アビー?」

「! すみません……!」


 ついぽーっとしながらグラン様を見つめていたら、小さく首を傾げられてしまった。


「グラン様のお姿をこうしてじっくり拝見できるのが嬉しくて、つい……!」


 正直にそう言ってから、恥ずかしさに俯く。

 そうしていれば、立ち止まっていたグラン様が再び歩き出したのがわかった。


「僕も、アビーと目を見て会話できるのがとても嬉しいよ」

「あ……」


 ぎしりとベッドが軋んだので顔を上げると、グラン様がベッドに腰を下ろしていた。


「だから顔は上げていてほしいな」

「……はい」


 にこりと優しい笑みを浮かべて穏やかな声で言ったグラン様に、私の胸は大きく高鳴っていく。


「アビー」

「はい……っ!」


 グラン様が近くにいる。

 これまでもすぐ隣でお話ししたことはあるけれど、お互いの顔が見えるようになったというだけで、こんなにドキドキしてしまうものなのだろうか。


 グラン様の手がすっと伸びてきて、私の頬の横に垂れていた髪を撫でた。

 それだけでびくりと肩が跳ねてしまったけれど、私は何を怖気づいているのだろうか。グラン様に嫁いだときから、とっくに覚悟はできていたというのに……!


「アビー」

「大丈夫です……! 覚悟はとうにできています!」


 こんなにびくびくしていたら、グラン様にも伝わってしまう……!!

 だから意を決して顔を上げ、思い切って言った。


 でもこんなに素敵な人と、これほど至近距離で目が合っているだけで、とても恥ずかしい……!


 だって私にはこんな経験、一度もないのだから……!!


「……聞いてほしい」

「はい……」


 私の髪を撫でていたグラン様の手が、そのまま滑り落ちて私の手に優しく重ねられた。


「僕はああいう体質だったから、今まで女性とこういう関係になったことはもちろん、デートもしたことがない」

「はい」


 私もです。


 そう思いながら、大きく頷く。


「僕たちはもう結婚してしまっているが……最初から始めないか?」

「え……?」


 私の手を握りながらそう言ったグラン様の言葉を、よく考えてみる。


 最初から始める……? それは、結婚をし直すということ?


「では、私たちの婚姻は解消するということですか……?」

「違う、それは絶対にしない!」


 確認のために聞いた言葉はすぐに否定された。

 よかった。私はほっと胸を撫でおろす。


「既に結婚はしているが、普通の恋人同士がするようなことを、順番にしていければと思っている」

「普通の恋人同士がすることを、順番に……」


 なるほど。普通の恋人がどのようなことをするのかはよくわからないけれど、それは少し憧れる。


「はい、ぜひ。私も誰かとお付き合いしたことはないので、上手にできるかわかりませんが……よろしくお願いいたします!」

「上手にできなくていいんだよ、君は君のままでいてくれれば」

「はい」


 ベッドの上に座ったまま深く頭を下げたら、グラン様はくすりと小さく笑ってくれた。


 その笑い声に顔を上げる。

 グラン様は、本当に美しい人だ。

 その笑顔に緊張が解けていく。


「今日もアビーはベッドで寝てくれ」

「グラン様は?」

「僕はいつも通りソファで寝るから」

「ですが……」

「いいんだ。最初から始めたいと言ったばかりなのに、それはできないよ」

「……わかりました」


 最後に私の額に口づけを落とすと、グラン様はいつものようにソファに身体を横にした。


「おやすみ、アビー」

「おやすみなさい、グラン様」


 今まではグラン様が横になるところを見られなかったから、王子様を本当にソファに寝かせるということに少し抵抗があったけど……。


 目を閉じたグラン様がとても幸せそうに見えたから、私の胸はきゅんと高鳴った。



続編開始しました!

短めです。何日かに分けて一気に更新する予定です!


面白い!更新頑張れ!応援してやるよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘酸っぱい~!! 王子も人と深くつき合うのは初めてなんですね。初々しい…!王子なのに人に見られる事に慣れてないだろうから、これから大変だろうな…
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