13.誕生日パーティー
グラン様と結婚して、三ヶ月近くが経った。
今日はグラン様の二十三歳のお誕生日で、王宮内の大ホールでパーティーが開かれる。
私はグラン様が用意してくださった淡いブルーのドレスを着て、そのドレスに似合う同色の宝石があしらわれたネックレスやイヤリングをつけて参加することになった。
本当はあのブレスレットもしたかったけれど……仕方ない。
「ああ……アビー。とてもよく似合っているよ」
「ありがとうございます」
私の支度が整うと、グラン様は私から距離を取った位置でそう呟いた。
グラン様の前では私は目を伏せている。
本当はサングラスをかけたほうが安全なのでしょうけれど、せっかく侍女たちが私を美しく仕上げてくれたのだから、顔を隠していない状態のままグラン様に見てほしいと思ったのだ。
「グラン様、私をエスコートしてくださいませんか?」
「ああ、では目を――」
「いいえ、ぜひこのまま」
「しかし……」
「大丈夫です、決して目を開けませんから」
「……わかった」
目を閉じたままそうお願いして手を前に差し出すと、グラン様のあたたかい手が私の手に触れた。
その瞬間、ドキリと小さく鼓動が跳ねる。グラン様だ……。グラン様の温もりだ。
腕をたどるように手を回すと、目を閉じている私をゆっくり、優しくエスコートしてくださるグラン様。
男性にエスコートされてパーティーに出席する日が来るなんて……。
本当に、なんて素晴らしいのかしら。
招待客は多かった。
来賓には皆特殊なサングラスが配られたけど、主役であるグラン様の玉座はホール中央から離れた位置に用意されている。
この距離からならば、たとえサングラスを外しても目が潰れてしまうことはないだろう。
「アビーも好きに踊ってきていいよ」
「いいえ、私はこちらでグラン様とおります」
「……そうか、ありがとう」
会話ができるギリギリくらいの位置に置かれた椅子に座っている私は、グラン様と一緒に来賓の方々の姿を眺めていた。
するとその中に、よく知っている人物の姿を見つけた。
――双子の姉、アビアナだ。
「……グラン様、申し訳ありませんが、少しだけ席を外します」
「ああ、わかった」
グラン様に断りを入れて、席を立つ。
アビアナは私と入れ替わった。うちに娘は一人しかいないことになっている。
それなのに、どうしてアビアナがここにいるのだろう――?
見つかったら大変だというのに……!
「お姉様……!」
「あら、ご機嫌よう、アビアナ様」
アビアナが一人になったところで声をかけ、人が少ないホールの端に寄る。
「どうしてこんなところに来たのですか?」
やっぱり雰囲気は私と全然違う気がするけれど、顔はとても似ているのだ。アビアナ妃と同じ顔の女性がここにいたら、他の方たちが混乱してしまう。
サングラスをかけてくれているのが、せめてもの救い。
「いいじゃない、私だってパーティーに参加したいのよ。ちょうどよかったわ。貴女、パーティーが終わるまでどこかに隠れていなさいよ。今だけは私がアビアナ妃になるから。どうせあの王子はあそこから降りてこないのでしょう?」
「そんな……っ」
なんて勝手なことを言うのだろうか。貴女が私に代わってと言ったから、こうなったのに。
「それは困るわ! グランツ殿下も混乱されてしまうし……!」
「じゃあ私はこの先一生社交の場に来ちゃいけないっていうの!? どうしてあんたにそんなこと言われないといけないのよ!!」
「それは……」
興奮気味に少し大きな声を出したアビアナに、私は怯んで言葉を詰まらせる。
これまで私は、父や姉の言いなりになって生きてきた。どうしてもその記憶や癖が抜けない。
「あんたなんて私の身代わりの、影の存在のくせに! 黙ってなさいよ、この忌み子! 私は私でいい相手を見つけるんだから、邪魔しないでよ。ああ、安心して、私は養子として子爵家にもらわれてきた子として新しい人生を生きるから――」
アビアナがふんぞり返ってそう言った直後、彼女ははっとして目を見開くと、素早く頭を下げた。
それと同時に周囲の者たちも慌てたようにサングラスを手に取り、目にかけた。




