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01.結婚が決まった

急遽連載版開始しました!

短編版から加筆修正しております。

「アビス、おまえの嫁ぎ先が決まったぞ」


 父親のあまりに突然の言葉に、すぐに声が出せなかった。


 結婚……? 私が?


「それも相手は王子だ。おまえにはもったいなさすぎる相手だ。私に感謝しろ」


 王子と結婚……? 私が!?


 続けられた言葉には更に驚いたけど、姉のアビアナが父の隣でニッと口角を上げたのを見て、まさかと思う。


「もしかして、お姉様が嫁ぐ予定だったグランツ殿下のもとにですか……?」

「そうだ」

「……――!」


 ああ、なんということでしょう。


 私がグランツ殿下と結婚できるなんて……!


 この国の第一王子グランツ・クロル殿下は、かつて魔王を倒した勇者様が使っていたのと同じ、光魔法の力を持って生まれた。

 光魔法はとても稀少な力だ。勇者様の死後数百年の間、グランツ殿下以外に使える者は現れていない。


 そんな素晴らしい王子様と結婚できるなんて……本当にいいの?


「顔は同じなのだから、大丈夫よ。あんたが結婚できるだけでも奇跡なんだから、ありがたく思いなさいよ。目くらい潰したっていいでしょう?」


 ふっと鼻で笑いながら私を見下してそう言ったアビアナは、とても怖い顔をしていた。


 顔は同じか……。では私も、こういう顔をしているのだろうか……?


「そうだ。おまえのそのブルーグレーの髪も瞳の色もアビアナそっくりなのだから、しっかり手入れしてから行けば、ばれるはずがない。目を潰してもいいから粗相だけはするなよ!」


 姉に続いた父の言葉に、私はボサボサになった自分の髪に触れた。


 私のこの髪も、ちゃんと手入れすればアビアナそっくりになるの……?



 グランツ殿下には、一つだけ問題がある。


 光魔法を極めすぎたせいで、殿下はその力に自身を呑み込まれてしまったのだ。


 といっても命に別状はない。

 普通に生活もできる。


 ただし、グランツ殿下は自身が輝きすぎて、その姿が他人から見えなくなってしまったのだ。


 眩しすぎて、直視すると目が潰れてしまうらしい。


 そのため、二十二歳になったというのに婚約者が決まらず、国王陛下は困り果てていたのだ。


 いくら王子でも、直視したら目が潰れてしまう人と結婚したがる高位貴族の令嬢は現れなかった。


 そこで陛下は、息子と結婚してくれる相手を大々的に募集したのだ。そこにチャンスとばかりに、フローシュ子爵である父が「うちの娘を」と名乗り出た。


 父には借金がある。

 王族と結婚すればその借金を返済してもらえると企み、私の双子の姉、アビアナがグランツ殿下に嫁ぐことになっていた。


 けれど。


「いくら王子でも、さすがにあれは無理よ。大袈裟だと思っていたけど、噂以上に強烈な光だったわ。見たら目が潰れてしまう人と結婚だなんて、無理」


 グランツ殿下との顔合せから帰ってきたアビアナは、はっきりとそう言い切った。


 しかし婚約の手続きは父がさっさと済ませてしまったらしく、姉の代わりにグランツ殿下と私が結婚すればいいと、二人の間で話がまとまったようだ。


 父と姉はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているけれど、それくらいなんだと、私は思う。



 私とアビアナを産んですぐ、母は亡くなっている。

 父は、私を産んだせいで母は亡くなったと言った。

 その理由は、私が闇魔法の力を持って生まれたからだ。


 闇魔法は光魔法同様、とても特殊な力。しかし、勇者が使っていた光魔法とは違い、闇魔法はかつて魔王が有していた力なのだ。


 そのため、魔王が滅んで数百年経っている今でも恐ろしい力として知れ渡っており、邪悪で気味が悪いとされているのだ。


 生まれてすぐ無意識にその力を使ってしまったらしい私は、ずっとこの存在を隠されて生きてきた。


〝殺されないだけありがたく思え〟


 父には毎日のようにそう言われて、召使い同様に家事をやらされ、ぼろを着せられ、食事は残飯のみで、生きてきた。


 そんな私が、王子様と結婚できる……?


 そんなお伽噺のような素敵な話が、私の身に起きるなんて……!!


 ああ、でもこんな私で本当にいいのかしら?

 

 この家の娘はずっと、アビアナ一人とされてきた。

 双子だというのに、美しいアビアナと私は全然似ていない――と、私は思っている。


 私は社交性だってないし、若い男性とろくに話をしたこともないし……。


 ああ、でも本当にとても素敵な話だわ!


 いつかこの家を出て広い世界を見てみたいと思っていたけれど、まさかお城に……王子様に嫁げるなんて……!


 この家から出て行けるだけでも奇跡なのに、本当に素晴らしいわ。


 いつか読んだ物語のヒロインを思い出して、私はそっと胸を熱くさせた。




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