ラジオ放送終了後の怪
『さぁ今夜も始まりました、小説帝国ラジオ! 司会はこの俺……アメリカ生まれアメリカ育ちの声優ジョージ・村岡と!』
『ロリに老婆、さらにはロボやモンスターなどの人外の声まで、何でもござれ! 日本が生んだ七色声の魔術師こと、REIRAだおー!』
小説投稿サイト『小説帝国』に投稿する予定の作品を執筆しながら、小説帝国では暁月ソーランヘイムと名乗っている俺は、ラジオから聴こえる声に傾注した。
小説投稿サイト『小説帝国』の運営が作ったラジオ番組である。
司会者は今話題の声優さん二人。ちなみに声優さんのスケジュールの関係なのかラジオを聴いている者を飽きさせないためか、一年ごとに司会が交代するらしく、今司会をしている声優さんは四十五代目……らしい。
小説投稿サイト『小説帝国』の投稿作品が次々に小説や漫画、さらにはアニメになり、それがキッカケで、WEB小説の人気が上がりに上がり、それに伴いラジオもそれだけ長続きしているのだ。凄まじい事である。
『さぁ今夜最初のコーナーは何れふかジョージたま!』
『いったいどういうキャラなのかな!? ロリかな!? とにかく最初のコーナーは、これだぁ』
ジョージさんの声が、途中から1/fゆらぎ満載の色っぽい発音の声になる。と同時にこれまた色っぽいGBMが流れて、
『「教えてちょ、声優すぁん♪」』
これまた色っぽい声でジョージさんがコーナー名を告げる。
女性向けの恋愛モノなアニメやボイスドラマで現在活躍中らしい、ジョージさんの声色の色っぽさは半端ない。というか、最近ではニチアサの女児向けアニメにもジョージさんは出演している……らしい。
本当のところは知らない。
俺は執筆で忙しい故に、そのアニメを一度も見た事ないし、それにジョージさんの姿さえも……俺は見た事がないのだから。ジョージさんの事は知りようがない。
ちなみに友人情報だが、主人公と敵対する悪の組織の幹部の役で、色っぽい声も時々だが出すそうな。女児に対しこの声……刺激が強過ぎないか、と常々思う。
ちなみに、現在の時刻は午後十一時を過ぎたところ。
時間帯的には色っぽい声だろうと問題ないワケだけど……それでも、中には俺のように、徹夜して小説を書いたりなどしながらラジオ聴いてる少年少女もいるかもしれないだろうに……まぁ、そこんところは少年少女の自己責任だから、これ以上何も言わないけど。
『さてさてぇ、最初の質問者を紹介するのであります! 最初の質問者は、エルベ軍曹さん!』
『エルベ軍曹さん、お便りありがとう!』
『えぇ~と、なになに……「私はほとんどの帝国作家さんのように毎日小説投稿をしたいのですが、家の事情などで毎日投稿ができなくて困っています。どうすれば毎日投稿ができるのですか。教えてください」……なるほどぉ。確かに、帝国作家さん……それも人気作の作家さんは毎日投稿してるけぇのぉ』
『いきなり訛った!? まぁ確かに……帝国作家さんの中には毎日投稿している方が多いですね』
「…………ん?」
しかしその質問内容には、思わず反応してしまう。
以前、同じような質問を『小説帝国』のDMで……それもお気に入り登録をしていない相手からいきなり受け取った事があったからだ。
確か相手は、質問の内容からして……そして俺の投稿作品に毎回入れてくれる感想からして、相当俺の作品に夢中になっているファンっぽかったが……後でそいつのマイページを覗いてみるか。これも何かの縁だ。
『毎日投稿……確かにそれをすれば、人気が上がる確率は限りなく高くなりますよね。そしてそれを可能とするには……あらかじめ、ある程度物語の設計図を作っておいて、それを少ない時間の中で書き上げる……それが無理なら、ある程度物語のストックを作っておいて、それを、かなり先の未来にて、毎日投稿する設定で予約投稿しておく……などの方法があるとは思いますが』
そしてその返答も、俺のとほぼ同じだ。
確か俺の場合は『あらかじめ作っておいた物語の設計図に従って、小説の執筆に使える短い時間をギリギリまで使って書き上げる』だったか。ひと月以上も前の事だから、よく思い出せないな。
今思えば無茶な返答をしたものだと思う。
それは若かったからこそ使えた手だ。今じゃジョージさんの言う通り、予約投稿とか使わないと毎日投稿は無理だ。
『思いますが……なんでっしゃろ?』
『どこの方言かな!? えぇとですね……そもそもそれ以前の問題として、毎日投稿に拘らなくてもいいと思うんですよ』
……おや? まさか質問自体を否定だと?
ちょっとジョージさん、ラジオ聴いてる人が困惑するからその辺でやめといたらどうかなッ?
『俺はですね、小説投稿サイト「小説帝国」の読み手さんの中にも、書き手さんと同じように、仕事で小説読む時間がほとんどない人がいると思うんですよ。そしてその人達の中には、積読を減らすために……多くの作品を並行して読み進める、という、無茶をしている方もいらっしゃるかもしれない。そしてそんな人達にとって毎日投稿というのは、結構キツめな事だと思うんですよ』
まぁ、確かに。
その並行して読み進めている作品の内のいくつかが毎日投稿をしている作品だとすると、読む時間が少ない人にとってはキツめかもしれない。
『ですから、そんな方々の負担を、そして書き手さんの負担を減らすために、毎日投稿ではなく、週一投稿にするのも一つの手ではないかと俺は思うんです。まぁ、最終的にどうするかは書き手さんの自由ではありますので、個人的な意見ですが』
『なるほどぉ~。一理あるザマス!』
『いきなりお金持ちの夫人キャラかな!?』
…………良いこと言ったのに、相方であるREIRAさんの言葉で台無しだな。
まぁでも、一理あるって部分は激しく同意だ。
ジョージさんの言う通り、読み手さんには読む手さんの事情があるから、場合によっては毎日から週一の投稿に変更するのもいいかもしれないな。
俺の場合、今連載している作品のほとんどを毎日投稿で通しちゃっているから、今さら変えると読者が混乱するかもしれないので変えようにも変えれないのだが。
と、そんな俺の小説についてだが……ラジオを聴いている内に、今日のノルマ分は書き終える事ができた。
あとはラジオに傾注して……最近生まれたらしい、小説帝国ラジオの都市伝説を検証し次第寝るだけだ。
※
とある友人の友人曰く。
小説帝国ラジオの放送が終わった後、どういうワケか、放送終了したハズの小説帝国ラジオが再び始まる、という都市伝説が、最近ネット界隈で生まれたらしい。
そしてその友人が言うには、そのラジオを聴いた者には十中八九、不幸な出来事が起こるらしく、そしてこの都市伝説の出どころは……その十中八九に当て嵌まらなかった幸運な人だとか。
どっかで聞いたような怪談だなぁ、と正直思った。
しかし同時に、タイミングが良い事に、今年の『小説帝国ホラー企画』のネタに困っていた俺は、良い刺激になるのではと思い……こうして小説執筆の片手間で、その都市伝説検証をしている、というワケだ。
※
午後十一時四十五分。
時間通りに『小説帝国ラジオ』は終了した。
そしてこのラジオの内容は、動画サイトに後日、載る事だろう。
ジョージさんの週一投稿発言に、ラジオを聴いていなかったジョージさんファンや小説帝国作家さん達がどう反応するのか……ちょっと今から楽しみだ。
そんな事を考えながらしばらく待ってみたのだが……なかなか、小説帝国ラジオが再開しない。小説帝国ラジオの次のラジオ番組の枠が、小説帝国ラジオに変更になったり、もしくは小説帝国ラジオが次の番組を乗っ取るなんてサプライズな事が起きるのでは、なんてアホな事を考えたりしていたのだが……。
※
「もういいか、寝よ」
日付が変わり、午前二時を過ぎても始まる気配がないので、俺は明日……というか今日か。とにかくそのために、ラジオをオフにして眠ろうとした…………まさにその時だった。
『小説帝国……裏・レズィ~~オォ』
おどろおどろしい、ジョージさんの声が響いたのは。
まさかのタイミングでの、まさかの声に……俺は驚愕し冷や汗が出た。
というか……いったいどういう事だ?
この時間帯、小説帝国ラジオの放送局は閉まっているんじゃないかな??
だったらジョージさんは……いったいどこからこの放送をしているんだ????
『今夜は、わざわざ本放送の時間帯まで起きててくださりありがとうございます。まぁ、起きていなくとも……こちらからそちらの「差し歯型通信デバイス」に干渉して無理やり起こすまでですけど』
ッッッッ!?!?
い、今ジョージさん……なんて言った?
『差し歯型通信デバイス』に、干渉……だと?
ちょ、ちょっと待て……冗談にしてはタチが悪くないかジョージさん?
ちなみに『差し歯型通信デバイス』とは。
西暦二〇五〇年代になってから開発された通信デバイスで、少し前にその利便性から多く売買されたものの、最終的には日本政府の決定で、健康上の理由から売買が禁止されたスマフォンに代わって発売された、さらに利便性の高い……なんと、差し歯型の通信デバイスである。
ちなみに、なぜ差し歯型なのかと言えば。
平成だか昭和だかに、銀歯が偶然にもラジオ化してしまい、装着者が本来電波系ではないのに、まさに電波な感じになり気が狂ってしまったという事件が、かつて日本であったらしく、その事件を基にして通信機器関連の会社が開発したという、なんともユニークな理由だ。
そしてそのユニークさもさる事ながら、利便性……と言っても電話やラジオ関連でだが、それらはスマフォン以上で、どこにも手軽に持ち込め(当たり前だ)て、そのおかげで人気を博したらしい。
そしてそんなデバイスは、俺ももちろん使用している。
というか歯を一本犠牲にしてでも買う価値があるデバイスだ。
そして、そんなデバイスに干渉……だと?
ま、まさかジョージさん……ハッキングスキルを持ってるとでも言うのか?
『ちなみに、この放送を聴いているのは暁月ソーランヘイムさん……いや、赤月昇さん、あなただけですので、他の誰かに今回の事を言ったところで信じてもらえやしませんよ』
ッッッッ!?!?
なッ、い、ま……なんて言ったこの人?
俺しか、この放送を聴いていない……だけじゃなくて……。
――俺の、本名を言わなかったか?
なぜ、その出演作品を一度も見ていない俺の名前を。
なぜ、TVなどで顔を見せた事が一度もないらしい、ジョージさんが知っているのか………………。
未知、と言ってもいい相手の告げた……まさかの事実……。
相手の事を知らないのに、その相手は俺の事を知っている……そんな異常な状況の中で、俺は背筋に寒気を覚え…………その身をブルリと震わせた……。
『ちなみにこの放送は。
相手の事をよく知ろうとしないのに、軽い気持ちで、自分のファンの質問に返答した君への意趣返し……いや、ちょっと違うカナ? とにかくそんな感じで……俺の正体を伝えずして進行したいと思います』
ッッッッ!?!?
い、いったい何の事を言って……ぁ、もしかして…………ひと月以上前に、俺に質問してきた読者の事を言っているのか!?!?
『さて君は、小説家になりたくて、人気作家になりたくて毎日投稿しているらしいね。凄いもんだ。そしてそんな君にもファンが付いた。そして君は、そのファンのみなさんをそれなりに大事にしたと思うけど……毎日投稿の忙しさを理由に、時々だけど考えもなしに、相手の事を知ろうともしないまま、相手からのメールの返信をした事があるよね?』
ッッッッ!!!!
や、やっぱりあのメールへの返信の事を言っているのか。
でも、なんで……なんでそのメールの事でわざわざこうして通信をしてくるんだジョージさん!?!?
『そしてその中には……まぁ、半分自己責任だと思うけど、それでも、君の発言のせいで不幸になった人もいる。ひと月前に君に質問をしてきた人もそうだ。彼は、君と同じく、人気作家になりたくて。夢を追いかけて。そして君という、憧れる事ができる人を見つけて……そして君の言った通り、使える時間をギリギリまで使うなんて無茶をして…………己が抱えていた持病が悪化し、先日亡くなったよ』
ッッッッ!?!? なん……だと……?
あ、あの時の質問者が……死んだ、だって?
『一応、彼の活動報告には、彼の持病についても書かれていましたよ。
何て病気か、などの情報は伏せられていましたけどね。身バレ対策かな?
にも拘わらず君は……そんな相手の事を知ろうとせずに、軽い気持ちで返答したせいで、君に心酔していたファンを死に追いやった…………さっきも言った通り、半分は彼の自己責任だからあまり強くは言わないけど…………相手の状況などを、ちゃんと知った上で返答しなきゃ…………作家さんになるのなら、自分の言葉にはちゃんと責任を持たなきゃ…………不幸になる人も、いるんですよ?』
ジョージさんの声が、さらにおどろおどろしいモノに……変わる……ッ。
そして、その声が……あの、質問者が……亡くなった事が……事実か、どうかは分からないけど……でも、その声が……軽い気持ちで、多くのファンの言葉に返答してきた、俺の胸に……突き刺さる!!
『そして、今回の事は……半分は、相手の自己責任ですから……差し歯を通じて、あなたの心を少々変える程度で許してあげますよ』
そして、続けてその声を聴いた後……俺は一瞬、ジョージさんがいったい、何を言っているのか分からなくなった。
でも、次の瞬間。
銀歯がラジオ化したせいで、おかしくなってしまった人がいる、という事件の事を思い出して、次の瞬間――。
――俺の意識は途絶えた。
※
「おい知ってるか、例の都市伝説」
「都市伝説? もしかしてアレか?」
小説帝国ラジオのスタジオにいるスタッフの間で、会話が交わされる。
そして、収録室にてスタンバイしている司会者の一人、そして一体へと、二人は視線を一度だけ向けてから……自分達の声が相手に届いていないと確信してから、再び話し出す。
「声優の体調不良などの、イレギュラーな事態に対応するべく開発されたっていう人工知能『ニクシー』が、収録後は、ウチの局のパソコンに厳重封印されてるっていうニクシーが、収録終了後に何かコトを起こしてるってアレだろ?」
「そうそう。ウチの社長の知り合いの知り合いが開発したっていう……声優の声を完璧にトレースして演じる事ができる、あのニクシーの都市伝説だ」
「いやいや、ウチのパソコンの警備プログラムに、穴なんてないでしょ。ニクシーが抜け出せるとは思えないね」
「でもさ、小説帝国の、一部作家さん見て最近思うんだけど……なんか途中から、文体とか、更新頻度とか、変わったような気がしないか? それに……どうも最近さぁ……帝国作家さんの不審死の事件が、増えた気がするんだ」
「おいおい、それがニクシーの仕業だって? あり得ねぇって」
「だ、だよなぁ……考え過ぎ、だよなぁ?」
どちらからともなく、苦笑いを浮かべる二人。
しかしその目は、疑惑の視線は……収録室に持ち込まれたパソコンの画面の中で笑顔を振り撒き、そして音響装置から、一身上の都合により、この場には姿を見せられないと連絡してきたジョージと、同じ声を発する人工知能へと向いていた。
実際に、銀歯がラジオ化する事件があったっぽいですね。