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「おい二番街の酒場で派手な喧嘩らしいぞ!!」
「どうにも魔法使いってやつが暴れているらしい、その証拠に魔法警察がこんなに、あ、悪い」
肩と肩がぶつかる。
無理もない。押し寄せる波に逆走しているのだから。
「こちらこそ、すみません。あぁ1ついいですか?ここらへんでお土産にオススメなものって……できれば日持ちする食べ物だと嬉しいんですが」
無視されてしまった。
仕方ない。だってあの人急いでたし。
別に僕の影が薄いとか、間が悪いとかで絶対ない。
それにしても少し騒ぎが大きくなりすぎた。
もうあまりこの街にはいられないかもしれない。
「まいったなぁ」
はぁ。難儀な職業だよまったく。
まったく他の魔法使いたちはどうやって凌いでいるのだろうか。
誰かに会ったら聞いてみよう。そうしよう。
とりあえずお土産は目の前に「ぬるま湯温泉100回漬け饅頭」でいいか。
なんかオススメって書いてあるし。
適当じゃないよ、断じて。
「ま、待ってくれ!!」
この声を背後から聞くのは2回目かな。
振り返ると汗だくのおっさんが手を膝についてこちらを見ていた。
「よくこの人混みで見つけれたね」
「あ、ああ。この国で白髪は珍しい。こういっちゃなんだが、小僧目立つぜだいぶ」
「たしかに見ないかも。ごめんおっさん。僕ちょっと急いでこの国をでなくちゃいけなくて」
おっさんは膝から手を離すと息を整え、こちらを見据える。
「なぁ小僧。俺は子供の頃、おとぎ話の中の魔法使いが好きだった。でもそれから俺は魔法使いは世界の悪だと教わった。なぁ教えてくれ。本当にお前たちは世界の半分滅ぼしたのか?」
◼︎
かつて魔法の時代があった。
魔法は人々の生活を灯し、王国と帝国はともに競い合い、それは繁栄を極めた。
人々は魔法とともにこの先の未来を歩んでいく。そう皆が信じて疑わなかった。
しかし繁栄は長くはなかった。
独りの魔法使いが、怒りに心を支配されてから、世界は地獄となったーー
王国は世界の半分は、4日で焦土と化したと聞く。
その災悪の魔女とも呼ばれる魔法使いは、王国を滅ぼした後に我が身も塵となったそうだ。
ともに高め合った王国を失った帝国は魔法の力を恐れてしまった。
その惨劇を二度と起こすまいと行ったものこそ「魔女狩り」
そうそれが全ての始まり。二百年前の出来事。
帝国は事実抹消を行なっているようだけど、それは変わりようのない事実。
◼︎
「本当にお前たちは世界の半分を滅ぼしたのか?」
「その問い、わたしが答えよう。では君はどう思う?魔法使いは悪か?」
「お前その喋り方……いや、俺は少なくともお前が悪だとは思わない。だって魔法警察から俺たちを守ってくれたのもそうだが、命を狙ったあいつらすらもを一人として殺していないだろ」
「ふむ。ならばそういうことだ。君が見たもの、聞いたもの、信じるもの、それこそが真実で事実」
「真実で事実」
「その通り。他人に安易に答えを求めてはーーダメだよ。おっさん。これ魔法使いが成長する基本その1!!」
「その喋り方、こ、小僧なのか?」
「もちろん!!僕はもう行くよおっさん。お土産も無事に買えたし、これ以上の面倒ごともごめんだしね」
「あ、あぁ。小僧も元気でな」
本当はあと3日はいたかった。残念。
さて次はどこに行こうか。海?山?
「それは当然、海であろう」
「海かぁ。ならレレニアの街かな」
「ウィルよ。わたしも小僧と呼んでもいいか?」
「勘弁してくれ。というか勝手にでてくるなよ!!」
「ああいう輩は嫌いじゃない。常識となった事象に疑問を抱けるものは大成する」
「はいはい」
「だいたいウィルももっと物事を多角的にな」
「うるさい!!もういくぞ!!」
これは、ウィルが最後の魔法使いと呼ばれる、その旅路の物語。