第5話 体力測定なう#2
「はぁーい☆俺やりまーす♪♪」
そう言ってまっすぐ手を挙げたのは、出席番号23号、『織菜 莉輝』。
柔道部で黒帯、筋肉質でムキムキ、そして坊主。
そんな男が、キャピキャピしながら手を挙げて出てきた。
「そっ、そうか!!ではあの線に立ってくれ!!」
「はーい♪」
そう言って、カカシから5メートルほど離れたところにある線の上に立つ。
「では、始めます。」
「お願いしますぞ!!」
「フゥゥゥゥ……」
深呼吸を始めたところで黄緑色の光がリキを包み込み、マインが詠唱を始める。
詠唱を終え、リキを纏う光が消えたところで、ガインに目配せをし、リキに向き直る。
ガインもマインも、そしてリニアもそのほかの騎士たちも、勇者と呼ばれる者の力に興味を持っていた。
ところが、そんなことに気づく以前に、リキはどこからか聞こえてくる声に耳を傾けていた。
《スキル、『極気功』の効果により、状態異常を無効化しました。》
「……?これは……」
そしてガインの方を見てみる。
「む!?……あぁ!いつでも、好きな時に始めていいぞ!」
「……え?あ、あれ……?」
「はぁ……まぁ、いっか♪」
そうして、簡単な構えをとる。
マインが驚くような、疑問を浮かべるような表情をしていたが、それを見ていた者はどこにもいなかった。
一方リキはと言うと……周りの期待には……気づいていなかった。
「おりゃぁーー!☆」
キャピキャピとカカシに向かって走って行く。
「奇〇種」
ひとりがそう呟いた。
それと同時に、貪欲の空気が辺りを漂う。
勇者一行は笑っていたが、興味を寄せていた騎士たちは、大きなため息をこぼした。
「はぁ……勇者と言えど、やはり子供か……」
「正直、ガッカリしたが……元気がいいということにしておこう」
と、その時。
カカシに一撃を与えようとしたその途端。
「リキー!真面目にやれー!」
冗談交じりに先生がそう言った途端。
リキの緩い拳がカカシにぶつかる。
いや、この場合、もはやただ触れただけ、と言った方がいいだろう。
そう、触れただけなのである。
「えーい☆」
その瞬間、国全体に巨大な爆発音が響いた。
叩きつけるような暴風が吹き荒れ、砂埃が舞う。
小石や土が舞い上がっており、視認するどころか、目すら開けられない。
ようやく視界がはっきりとしてきたところで、全員がリキに注目した。
その風景には、誰しもが目を疑った。
カカシは根元から折れて、いくつもの耐性魔法が重ねがけされたそれは、胸元が凹むようにして大きく変形し、カカシは何枚もの壁を突き破り、まるで流れ星のように、高い場所に位置する城の中から、城下町へと落ちていった。
城の中にいた者たちは、一瞬の静けさのあと、何事かと騒ぎ始める。
「な、ななななな何がっ……いったい何が起こったと言うのだ!!?」
「そちらの方からとてつもない音がしたぞ!!」
「まっ、魔物か!?魔物なのか!!?ドラゴンでも出たというのかァ!!?」
「まさか……魔族か……!!?魔族が到来してきたというのか!!!」
巻き起こる混乱。
騎士やほかの勇者たちは、ただ唖然とすることしかできなかった。
もう一度言おう。
ただ、触れただけなのである。
はっと意識を取り戻したガイルが話し出す。
「……あ。お、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ勇者様ァ!これが勇者様の力か!!まさかこれほどの力があるとは!!!我々一同!驚きを隠せませぬぞ!!!わはははは!!」
そんな、ガイルの大声で意識を取り戻したマインがガイルに言う。
「……はっ!が、ガイルさん!わははじゃないですよ!!怪我をしている人がいるかもしれないので早く人員を動かしてください!!それに、感心するのはいいですが早くこの混乱を治めてください!!騎士団総長であるあなたぐらいしかできないんですよ!!!」
「はっ!?それもそうですな!!騎士の皆!!怪我人が居ないかはやく救助にあたれ!皆の者!!安心してほしい!!!これは魔族からの攻撃でもドラゴンの攻撃でもない!!」
そうして、騎士達とガイルが救助と混乱の回復にあたり、その場には勇者一行とマインが残った。
「はぁ……ガイルさんったら……客人や上の者には敬語を使ってくださいと言っているのに……」
「あ、あの……」
顔を真っ青にしたリキがマインに話しかける。
「はい?」
「これって……大丈夫なの?ちょっと俺ピンチじゃない?やばくない?いきなりこうなるのは俺知らないよ???」
周りに話しかけてみるが、当然のごとく助けてくれる人はいなかった。
「どんまいリキ」
「お見合いぐらいは行ってやるよ」
「えっと……頑張ってね!」
「お、お前らぁ……ちょっとぉ……」
泣き目になりながらそう言う。
その様子を見て、マインがリキに話しかけた。
「安心してください。投獄することも、何か罰を与えることは何一つありません。なので大丈夫ですよ。」
「えっ、マジ!?ありがと!!」
「ありがとうってなんだよ」
パッと明るくなって勢いよく振り返る。
先程の見る影は何一つない。
コロコロと感情を移り変えて忙しい。
「えぇ。では私は怪我人の治療に当るので、あなた方はひとまずあちらにおられる使用人の方に自室へ案内してもらってください。」
そう言われ、全員が後方に顔を向ける。
その先には3人の使用人がいつの間にか立っていた。
少し驚くが、「こちらです」と使用人に案内され、皆は着いていく。
廊下を歩く途中、使用人の1人がリキに話しかけてくる。
「上腕二頭筋さん……でしたっけ。大丈夫ですよ。そんなに緊張しなくても」
「い、いや……緊張してるわけじゃないので大丈夫っすよ。それと俺の名前はリキです。めちゃ独特な間違い方するんすね」
「まぁ、分かりますよ。緊張するのは」
「無視かよ」
「私のような美女を人目見てしまえば、一目惚れしてしまうのにも納得がいきます。ですが私は使用人の身。夫を作る訳には行かないのです。」
「はっ、え、……はぁ……」
確かに、周りの目を惹いてしまうほどには美しい女性だ。
短く切られた髪は艶やかで、澄んだ瞳に乗る目付きは鋭く、それにしては小柄で愛おしくも感じる。
とはいえ、なぜ急にこんな話を?
そう思っていると、使用人のもう一人が話しかけてくる。
「安心してていいってことですよです」
「そっ、そうなの……?」
「ニナはこう見えて不器用だから、許して欲しいです」
「なっ、なるほど……?」
「ミナ、余計なこと言わない」
「ごめんなさいでーす」
よく見ると、この2人の顔はどことなく似ている気がした。
ミナと呼ばれた子の髪は長く、銀髪であるが、口元や輪郭がどことなく似ている。
ツンデレ系と癒し系……という認識で間違ってはいないだろう。
そんなことを思っていると、もう一人の使用人さんが振り返って話しかけてくる。
きっと二人の先輩にあたる人物だろう。
「こら、ミナ、ニナ。余計なことは喋らない。育成学校で習わなかったの?」
「まぁ、習いましたですけどぉ〜」
「緊張は解くべき。緊張するとお腹を壊す」
「はぁ……」
まるで二人の姉のようだ。
そんなこんなしていると、いつの間にかたくさんの扉がある場所へとやってきた。
「夕食ができましたらお呼びします。部屋は自由に使ってもらって構いません。では」
そう言って3人は下の階へ降りて行った。
部屋割りを決め、ドアを開ける。
果たして今後どんな生活を送ることになるのか。
いったいどんなハプニングや事件が起こるのか。
それは誰しもが思っていたことだが、誰にもそれを理解することはできなかった。
たった、一人を除いて。
彼は、真っ白な空間の中で、椅子の上で頬杖を着いたまま小さく笑った。