第3話 異世界に転移した#3
「……っ!!勇者様方っ!!!」
国を代表して出てきた3人の後ろ。
たくさんの騎士が並ぶ中のたった一人が前に出てくる。
その声に反応し、辺りは静まり、その一点に注目が集まった。
「僕は……っ、僕は!この世界で生まれて、この世界で色んな経験をしてきました。
大切な人もいたし、もちろん家族がいた。
幸せだった。……」
でもそんな時、僕の住んでいた村にたった一人の魔族がやってきたんです。
お父さんは村一番の騎士だった。ぼくの憧れでした。
とっても強くて、とっても信頼できて、とってもカッコイイ人。
でもそんな人が、僕の目の前で死んだ。
たった一突きだった。
左胸から赤黒い腕が伸びていて、血がぼたぼたと溢れ出ていた。
何が起こったのか、訳が分からなかった。
ボーッとしていた僕の手を、姉さんはすかさず引っぱった。
何があってでも逃がしたかったんだと、今考えてみてやっと分かった。
でも逃げている途中、魔族からの攻撃で両足を無くし、最後に僕に逃げてと言って逃がしてくれた。
そして最後。
お母さんがいないことに気づいて後ろを振り返った時、あの魔族が僕に真っ直ぐ手を伸ばしていました。
もうダメだと思ったその時、目の前に母さんが現れた。
僕を守るようにして抱え込み、僕を突き飛ばした。
そして再び母さんの方を見てみるとそこには、血の池に浮かぶ母さんの姿があった。
魔族はもう、いなかった。
泣き叫び、声にならない声を上げ、嘆きながら母さんにしがみついた。
まだ小さく、何も分からない純粋無垢だった僕は、何をすることもできず、ただただ泣くことしかできなかった。
この先一生忘れることはないと思う。
「僕は、魔族に僕以外の家族を皆殺しにされました。村のみんなも殺された」
周りは唖然とした。
罵倒を上げる声はもうなくなっていた。
「あなた達は、帰ればまた家族に会うことができます。我々が今開発中の魔法が発現できれば……また帰られるんです。ですが、僕はもう僕の家族に会うことは出来ない。もう会えないんです。二度と。どれだけ悲しんだか。どれだけ……魔族を憎んだか。殺したいと思った。絶滅させてやりたいと思った。復讐してやりたい。だから僕は、聖騎士団に入ったんです」
身長は周りよりも一回り小さく、小柄な男。
いや、身長を見た限り、まだ周りよりもはるかに若い。
16、7歳ほどの少年が、鎧を身につけ、腰に剣を差し、みんなに向かってそう言った。
哀しく、虚しくなった。
こんなにも小さな少年が、今ここにいることに違和感を覚えないのはなぜだろう。
「おっ、俺は!」
静寂に包まれた聖堂に、もう一人の騎士が声を上げた。
そこから次々に、一人また一人と声が上がる。
「俺は大切な人を無惨に殺された!!だから騎士団に入った!!」
「俺は……!妻を……っ!」
「俺は2人の弟を殺された!!」
それぞれの騎士が、それぞれの問題を抱え、生きている。
だからこそ渡り合えたのだろう。
分かり合えたのだろう。
たとえ他人と言えど、理解し合うことは出来る。
この光景がそれを証明した。
ひとりじゃない。
その言葉が身に染みた。
俯くだけだった3人は、騒ぎ立てる騎士達を止めようとはしなかった。
背後にいる騎士たちの声と心意気をその目で見ていた。
その様子を見ていたガイルが、大きく息を吸う。
「俺は!!!!!」
そのとてつもなく大きな声が響いた瞬間、騎士達が一気に黙り込む。
そして次に注目されたのは、他の誰でもないガイルだった。
「5歳の時!!母親を殺され、その後に父親も殺された!!!兄弟はいなかったがっ!俺には仲間がいた!!!だがその仲間も魔族共の手によって殺された!!!そして……!!俺の妻っ……アイリーンまでっ!」
それに続くようにして、もう2人が話し始める。
「ワシはァ……2人の孫を殺された。娘も殺された。二人の息子がいたんだが……その2人も殺された。今となっては妻もおらん。もう何十年も前の話じゃ。だが、魔族を許す気はさらさらない」
「私が孤児院にいた時は、友達や先生を皆殺しにされ、教会に引き取られたあとでは、子供たちを全員殺され、連れ去られました。ここに来てからは、お兄さんと呼べる方々がいたのですが、もうこの世にはいません」
全員が、魔族に対する恨みがあった。
全員に戦う理由があった。
その目は闘志に燃え、輝いているようにすら思えた。
家族と共に出来なくなった勇者達と、
家族を、大切な人を失った騎士達。
同じように見えても、その違いは歴然だった。
いつの間にか、怒りの感情は無くなり、哀しさがこみ上がってくる。
助けてあげたい。
「あのさ」
勇者のひとりがそう呟いた。
下を俯いていて、声は震えている。
「俺……は、助けてあげたい。さっきは帰せって言ってたけど、やっぱり……助けてあげたい……な」
自信がなさそうにそう言う。
気まずそうに、申し訳なさそうに。
それに続いてもう一人が口を開いた。
「わっ、私もっ!助けてあげたい!つ……辛いと思うけど、わ私は、ここの人たちを助けたい!」
「俺も、意見は一緒だ。みんなはどうだ?まだ帰りたいって言うやつはいるか?」
その言葉が部屋にやけに大きく響くが、それに「はい」と答える者はいなかった。
この時、全員が、この世界に脅威をもたらしている魔族に対抗すると決めた。
この世界を助け出してみせる。
それが、勇者たちだけにしかできない、最大の手助けだから。