第9話 血塗られた牢獄にて
「……この手紙を受け取るまでは、本当に嫌われたのかと思っていた……だが、お前が余を助け、手紙をくれた時の目を見て、それは間違いだと気付いた」
『…俺が手紙を渡した時……?』
「……アンタを、嫌いになれるわけないだろ。弟みたいな存在だしな」
「うぉぉおおお…ッ!!」
涙を流すレインとシャロルより、大粒の涙を流すブラッドが飛び出してきた。
「ブッ…ブラッド!?」
「数年越しの告白…ッ!!……というのに…なんと切ない結末…ッ!!」
「そういう結末も、あっていいですよねぇ〜」
ブラッドへ続くようにして、劇団のメンバーも物陰から出てくる。
「お前ら……また隠れて見てたのかよ…」
「へへ…サーセン」
その場の全員が、その日の夜をとても長く感じていた。気付けば、朝日が登っていた。
「……レイン」
「…ん?」
「…………これからも…この国にいてくれぬか…?……余の…友達として」
「………当たり前だろ」
レインはシャロルの頭を、くしゃくしゃと撫でながら言った。
「そんじゃあ…な……シャロル」
「……ああ」
「そして、クラウン」
「何ですか?」
クラウンに、レインは付けていたマフラーを投げ渡した。
「…やるよ、欲しがってただろ?」
「え?…いいんですか?」
「ああ、過去の俺と、決別する為だ」
そして、マフラーを投げ渡した後に呟いた。
「…………ありがとな、クラウン」
そうして、レインと劇団は、シャロルとブラッドを残し、時計塔を後にした。
「……ハッ!……シャロル様…恋をしてた時よりも……生き生きしてんな…」
「…フン」
離れていくレインを、シャロルとブラッドは見えなくなるまで見ていた。
「……お前にフラれたおかげで、心が軽くなった……これで安心して、妻を探す事ができそうだな………ありがとう…レイン」
「シャロル様、良い女紹介しますよ」
「…フン」
◆
「……ッたく、いい加減吐いたらどうなんだ?」
「誰が吐くかボケ」
牢屋に入れられたアサシンへ、ブラッドが尋ねる。
「…仕方ない、死神に拷問してもらうか」
「死神?…ま…まさか……」
「おーい」
すると顔の整った、中性的な美少年がゆらゆらと歩いてきた。
「も〜……いきなり呼び出さないでくださいよぉ〜……女の子と遊んでたのにぃ……」
「悪いな。実は、コイツに拷問してほしいんだ。なかなか情報を吐かなくてな」
「お〜……これはこれは、僕好みの男の人ですね〜…」
牢屋に顔を近づけて、動物でも見るかのように少年はアサシンの目をジッと見る。
「な…なんでお前が……レッドイン王国に…ッ…!?」
「うふふ……その綺麗なお顔が…どう歪むのか楽しみです…!」
そしてアサシンの足を掴み、引きずりながら拷問部屋へと歩いていく。
「ま…待て待て!!…話す!…話すから!!」
「おっ、マジで?」
「あ…ああ…」
「死神くん!、離してやってくれ」
少年が手を離すと、アサシンは酷く怯えた様子で、その場にヘタレ込んだ。
「う〜…残念ですぅ……せっかく来たのに…」
「まぁまぁ、今度良い女紹介してやるよ」
「ホントですか!?…やった〜!」
そして、ブラッドはしゃがんでアサシンに尋ねた。
「シャロル王を殺そうとしたの、誰?」
「………詳しくは教えられていないが……スリーク王国の…王子……と聞いてる…」
「…!」
それを聞いて、ブラッドと少年の目の色が変わった。
「……デカイ話になってきたな」
「スリーク王国……姉さん…」
「…あー……お前、スリーク王国に姉がいるんだったな」
「はい〜……姉さんはハイルーン家の使用人してるので……もしかしたらこの話に関係あるかもです……」
少年が、少し悲しむ様子で呟く。
「まぁ、大丈夫だ。アイツは国絡みの事に関与できるほど、賢い奴じゃねぇ。脳筋だからな」
「僕の姉さんを馬鹿にしてますぅ〜?」
「な…なぁ!もう情報はやったろ!?俺を解放してくれ!」
アサシンがそう言うと、ブラッドはフッと笑って少年へ言った。
「死神くん?」
「およ?」
「お前最近、血を吸ってねぇよな?」
ブラッドが尋ねると、少年は首を傾けながら言った。
「そうですねぇ〜……最近は美味しそうな人がいないのでぇ…」
「こいつ、やるよ。アサシンだし、結構強いから美味いハズだぜ?」
「おっ!マジですか!」
「ぇえ?」
そう言って、ブラッドは牢屋から去っていった。それを見て、少年は舌なめずりをしながらアサシンを見る。
「やった〜…久々のご馳走ですぅ〜!」
「う…嘘だろ……」
「大丈夫ですよ、痛くない……というか、気持ちいいですから!」
そしてアサシンの首に、顔を近付け、牙を突き立てた。牢屋には、血を啜る音だけが響く。
「ぁ…へ…」
「ぷはぁ〜!…最高ですぅ〜…!」
肌が白くなったアサシンを前に、少年は身を捩る。
「あぁ〜…1週間ぶりの血は格別ですねぇ〜!……味もいいですしぃ〜!」
「お…おい……隣で何が起きてんだ…?」
アサシンの隣の牢獄にいる者が、怯えた様子で呟いていた。
「すみませ〜ん…お騒がせしましたぁ〜」
「え…ッ!?…死神!?」
「お〜、ここにも美味しそうなのが、いるじゃないですか〜」
「ヒッ…ヒィ……ッ」
「けど我慢ですね〜、ブラッドに怒られちゃいます……」
その時、少年はふとブラッドの言っていた事を思い出した。
「……フフ…姉さんにも、久しぶりに会いたいですねぇ…」
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