第51話 バケモノ
「……ケルフィンの殺気が消えた…どうやら王達が勝ったようだな」
「うぉぉ!!やった!!」
エリーがそう言うと、空中に浮いている大地がゆっくりと落下した。拘束されたケルフィンと、王達が歩いてくる。
「…エリー……フン…貴様……やはり人間側だったか…」
「悪いな」
そして、王達は兵士に言った。
「この戦い…人間側の勝利だ」
「よっしゃああああッ!!」
その言葉を聞いて、兵士や騎士達は歓喜した。
「…エンドーが気になるが……ひとまずブラディーンは制圧完了だな」
「……帰ろう!」
兵士や騎士達は、国の方向へ歩いていく。すると、グリムが城の方を向いた。
「どうしたのグリム君?」
「……すみません…先に帰っていてください」
「え?…グリム君?」
グリムは、城の方へと走っていった。
「……どうしたんだろう」
◆
薄暗い聖堂にて、満身創痍の4人のナローンは話し合う。
「クソ……俺達が…なんてザマだ…ッ」
「エンドー…何処に行ったんだ……」
「とりあえず……今は傷を癒そう…そして……再び戦争を仕掛ければいい……エンドーを探すのはその時だ」
すると、そこへグリムがトコトコと歩いてくる。
「こんにちは、皆さん」
「…グリム……ッ!」
「グリムちゃん…ッ!」
ナローン達は、グリムの前で構える。そして、数秒の沈黙の後に、タイヨーが攻撃を仕掛けた。
「おッ…!」
「…クソ…ッ……グげッ!?」
グリムは、タイヨーの攻撃を避けて肘打ちした。タイヨーは、地面で苦しそうに転げ回る。
「…くッ……」
「はは……そんなんじゃ王どころか…僕にも勝てないよ?」
「クルァアァァアッ!!」
タカナシが突っ込み、大剣を振り下ろすが、その大剣をグリムは片手で掴んで止める。
「……うそ………ブルッ…!?」
グリムが、タカナシの股間を蹴り上げた。タカナシはその場で悶絶し、うめき声を上げる。
「ハァ……満身創痍とはいえ…この程度ですか…」
「グリムちゃん!」
「おう?」
ミサキはグリムに殴りかかるが、グリムはその拳を受け止める。そして、肘をへし折った。
「うぎゃ…ッ!?」
「……女の人でも容赦しませんよ?」
「くぐ……ッ」
ナローン達は、グリムから距離を取って、固まった。
「……全員で行くぞ…今の状態では一人一人行っても勝てない」
「おー…いいですね!」
グリムがガントレットを、黒い剣に変化させたその瞬間。
「うぉらぁ!!」
シンとタカナシが斬りかかるが、グリムはそれを簡単に避け、シンの剣を受け流すと、シンを抱き寄せた。
「ぐ…ッ」
「あれ?…僕が吸血鬼なの忘れてます?」
グリムはシンの首筋に噛み付いて、血を啜った。
「シン…!」
「…なんでアンタなのよ!」
そしてシンが力無く倒れると、グリムは手で口を拭いて、ナローン達を見た。
「よし……全回復!」
「…クソ!…シンがやられたか」
ミヤガワがグリムに斬りかかると、グリムはその剣を手で握った。だが、何故か血は出ない。
「なんて…力だ…」
「吸血鬼が血を吸う理由は…生きる為ではありません」
剣を握ったまま、グリムはミヤガワを蹴り飛ばす。
「はぐ…ッ!」
「じゃあ美味しいから?…確かに美味しいのもありますが……もう一つあります」
「…ッ!」
ミサキが、飛び上がってグリムに殴りかかる。グリムは、ミサキの鳩尾を、思い切り殴った。
「がふ…ッ……」
「それは……血を吸えばその分…強くなるから……ですよ」
「……なに?」
「吸血鬼の強さは……強者の血をどれだけ取り入れたかで…決まるのです」
グリムは、不気味に笑みを浮かべて言った。それを聞いて、ナローン達は怖じける。
「僕の場合は…296人のイスカル持ちを……血を吸い尽くして再起不能にしました…♡」
「……嘘だろ…」
「あなた方で…記念すべき300人目ですね♡」
「…バケモノが……ッ」
そして、黒い剣の刃を、指でなぞりながらグリムは言った。
「ご心配なく……あなた方の血も…吸い尽くして差し上げますから♡」
「クソがァァ!!」
ナローン達は、一斉にグリムへ襲いかかる。
◆
「ハァ…ハァ……」
グリムの後を、こっそりとついてきたクラウンは、物陰からグリムをジッと見ていた。聖堂には、血の啜る音だけが響く。
『……298人のイスカル持ちの血を取り入れた?…グリム君の強さの秘訣はそれか……』
するとその時、近くから気配を感じたいクラウンが、横を向くとグリムが見つめていた。
「!!」
「……覗き見は良くないですね…クラウン」
クラウンは、驚きのあまり腰を抜かした。
「…この事は…他の人に言っちゃ駄目ですよ?」
グリムは唇に指を当てて、クラウンに言った。クラウンは、そんなグリムに震える声で尋ねる。
「…………僕の血も…吸うのか?」
「…フフ……そうですね…」
笑みを浮かべながら、グリムは言う。
「熟していない果実は…食べませんよ」
「………」
「…………ですが…」
グリムはクラウンの耳元で、囁くように言った。
「……食べ頃になったら…改めて食いに行きますよ…」
「…………ッ…!」
そう言い残し、グリムは笑みを浮かべながら聖堂をあとにした。グリムが見えなくなるまで、クラウンは腰を抜かしたままだった。
「…怖いなぁ……グリム君…」




