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第51話 バケモノ

「……ケルフィンの殺気が消えた…どうやら王達が勝ったようだな」

「うぉぉ!!やった!!」


エリーがそう言うと、空中に浮いている大地がゆっくりと落下した。拘束されたケルフィンと、王達が歩いてくる。


「…エリー……フン…貴様……やはり人間側だったか…」

「悪いな」


そして、王達は兵士に言った。


「この戦い…人間側の勝利だ」

「よっしゃああああッ!!」


その言葉を聞いて、兵士や騎士達は歓喜した。


「…エンドーが気になるが……ひとまずブラディーンは制圧完了だな」

「……帰ろう!」


兵士や騎士達は、国の方向へ歩いていく。すると、グリムが城の方を向いた。


「どうしたのグリム君?」

「……すみません…先に帰っていてください」

「え?…グリム君?」


グリムは、城の方へと走っていった。


「……どうしたんだろう」





薄暗い聖堂にて、満身創痍の4人のナローンは話し合う。


「クソ……俺達が…なんてザマだ…ッ」

「エンドー…何処に行ったんだ……」

「とりあえず……今は傷を癒そう…そして……再び戦争を仕掛ければいい……エンドーを探すのはその時だ」


すると、そこへグリムがトコトコと歩いてくる。


「こんにちは、皆さん」

「…グリム……ッ!」

「グリムちゃん…ッ!」


ナローン達は、グリムの前で構える。そして、数秒の沈黙の後に、タイヨーが攻撃を仕掛けた。


「おッ…!」

「…クソ…ッ……グげッ!?」


グリムは、タイヨーの攻撃を避けて肘打ちした。タイヨーは、地面で苦しそうに転げ回る。


「…くッ……」

「はは……そんなんじゃ王どころか…僕にも勝てないよ?」

「クルァアァァアッ!!」


タカナシが突っ込み、大剣を振り下ろすが、その大剣をグリムは片手で掴んで止める。


「……うそ………ブルッ…!?」


グリムが、タカナシの股間を蹴り上げた。タカナシはその場で悶絶し、うめき声を上げる。


「ハァ……満身創痍とはいえ…この程度ですか…」

「グリムちゃん!」

「おう?」


ミサキはグリムに殴りかかるが、グリムはその拳を受け止める。そして、肘をへし折った。


「うぎゃ…ッ!?」

「……女の人でも容赦しませんよ?」

「くぐ……ッ」


ナローン達は、グリムから距離を取って、固まった。


「……全員で行くぞ…今の状態では一人一人行っても勝てない」

「おー…いいですね!」


グリムがガントレットを、黒い剣に変化させたその瞬間。


「うぉらぁ!!」


シンとタカナシが斬りかかるが、グリムはそれを簡単に避け、シンの剣を受け流すと、シンを抱き寄せた。


「ぐ…ッ」

「あれ?…僕が吸血鬼なの忘れてます?」


グリムはシンの首筋に噛み付いて、血を啜った。


「シン…!」

「…なんでアンタなのよ!」


そしてシンが力無く倒れると、グリムは手で口を拭いて、ナローン達を見た。


「よし……全回復!」

「…クソ!…シンがやられたか」


ミヤガワがグリムに斬りかかると、グリムはその剣を手で握った。だが、何故か血は出ない。


「なんて…力だ…」

「吸血鬼が血を吸う理由は…生きる為ではありません」


剣を握ったまま、グリムはミヤガワを蹴り飛ばす。


「はぐ…ッ!」

「じゃあ美味しいから?…確かに美味しいのもありますが……もう一つあります」

「…ッ!」


ミサキが、飛び上がってグリムに殴りかかる。グリムは、ミサキの鳩尾(みぞおち)を、思い切り殴った。


「がふ…ッ……」

「それは……血を吸えばその分…強くなるから……ですよ」

「……なに?」

「吸血鬼の強さは……強者の血をどれだけ取り入れたかで…決まるのです」


グリムは、不気味に笑みを浮かべて言った。それを聞いて、ナローン達は怖じける。


「僕の場合は…296人のイスカル持ちを……血を吸い尽くして再起不能にしました…♡」

「……嘘だろ…」

「あなた方で…記念すべき300人目ですね♡」

「…バケモノが……ッ」


そして、黒い剣の刃を、指でなぞりながらグリムは言った。


「ご心配なく……あなた方の血も…吸い尽くして差し上げますから♡」

「クソがァァ!!」


ナローン達は、一斉にグリムへ襲いかかる。





「ハァ…ハァ……」


グリムの後を、こっそりとついてきたクラウンは、物陰からグリムをジッと見ていた。聖堂には、血の啜る音だけが響く。


『……298人のイスカル持ちの血を取り入れた?…グリム君の強さの秘訣はそれか……』


するとその時、近くから気配を感じたいクラウンが、横を向くとグリムが見つめていた。


「!!」

「……覗き見は良くないですね…クラウン」


クラウンは、驚きのあまり腰を抜かした。


「…()()()は…他の人に言っちゃ駄目ですよ?」


グリムは唇に指を当てて、クラウンに言った。クラウンは、そんなグリムに震える声で尋ねる。


「…………僕の血も…吸うのか?」

「…フフ……そうですね…」


笑みを浮かべながら、グリムは言う。


「熟していない果実は…食べませんよ」

「………」

「…………ですが…」


グリムはクラウンの耳元で、囁くように言った。


「……食べ頃になったら…改めて食いに行きますよ…」

「…………ッ…!」


そう言い残し、グリムは笑みを浮かべながら聖堂をあとにした。グリムが見えなくなるまで、クラウンは腰を抜かしたままだった。


「…怖いなぁ……グリム君…」


















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