第5話 役作り
「……クラウン、何してんだ?」
「…あ〜……役作りしてる所です」
劇団の庭で、クラウンは剣をずっと構え、静止していた。
「剣聖の人って……こうやって、静止する訓練してるらしくて……剣聖を完璧に演じるには…剣聖と同じ事をしないと…!」
その瞬間、ソフィアはクラウンの手と足から、大量の血が滲み出ている事に気付いた。
「お…おい!……ちょっと待て!!」
「…あぅ?」
「お前……いつからその体勢でいるんだ!?」
「……演武の事を教えてもらってから…ずっとですよ…!」
「…って事はお前……5日もその体勢で…ッ」
クラウンは、苦しそうな表情をしてはいるが同時に、楽しそうでもあった。
「お前……何でそんな…楽しそうなんだ…?」
「…もしかしたら…僕……演技に取り憑かれたのかもしれません…!」
そして少しすると、クラウンは木剣をおろした。
「……まぁ…これくらいでいいかぁ…」
そのまま、凄まじい剣技を披露した。その剣技は、もはや剣聖のレベルではなかった。
『前よりも…研ぎ澄まされてる……』
「よし!…次は賢者の役作りだ!」
「まだやるのかよ!」
すると今度は剣を置き、その場で座禅を組んだ。
「……賢者は精神を統一させて…人間の体内に存在する…魔法を生み出す為の源…魔力と同期する訓練があるらしいかですから……」
「……………ッ」
そして更に数時間、クラウンはまばたきもせず、身体も動かさずにいた。血の涙が流れ、舌を噛み切りそうになりながらも、クラウンはジッと座禅していた。
「おい!もういいだろ!」
「……だゃめでぇすよ…まだゃ…役ぢゅくりが…」
クラウンの言葉は、もはや言葉になっていなかった。
『何だ……コイツの、この執念は…』
クラウンの脳内にはずっと、サリーの顔がチラついていた。
『サリー…僕は強くなるよ……もう二度と…大事な人を奪われないように……』
「……ヒール」
その時、クラウンの傷がみるみる回復していった。
「これは……賢者レベルしか扱えないハズの…」
「……賢者の役作りはこれで良さそうですね…あとは……あれ…?」
倒れそうになったクラウンを、ソフィアが支える。クラウンは、誤作動でも起こしたかの様な顔をして、自身の身体を見ていた。
「…クラウン……もう少し…自分の身体を労われ……」
「……大丈夫ですよ…まだ僕は……ッ」
「副団長命令だ……本番の日まで休め…」
「………それなら…仕方ないですね…」
クラウンは、ソフィアに支えられながら部屋へ戻っていった。
「お前、こんな役作りしてたら、いつか死んじまうぞ」
「大丈夫ですよ」
「……ともかく、安静にしてろよ。役作りしてる途中で死なれたら、元も子もないからな」
そしてソフィアは部屋から出て行った、クラウンは窓から、空を見つめていた。
『……演者…か……』
“クラウン坊ちゃん、職業スキルは生まれついての才能、その才能にハズレはありません。上手く使えば必ず、花ひらくはずです”
「…あの言葉…間違いじゃなかったのかもね……」
クラウンは、小さな火球を生み出しながら呟いた。
『……この力があれば…剣聖や賢者にも…いや……何にでも…なれる……』
「クラウン、役作りに必死で体調崩したって聞いたけど、大丈夫か?」
「あっクレイ!…丁度いい所に来たね!」
「な…なんだよ?」
そこから2日後、王城にて。
「おぉ〜!」
「あれが噂の……」
レインを先頭に、劇団は国王の舞台の前で姿を現した。そんな中、興奮する国王を外の大窓から、ジッと見つめる黒いフードの男達がいた。
「……フン、呑気なものだ」
「自分が狙われてるとも気付かず、劇の観覧とはな」
そして黒フードの男の1人が、吹矢を構えた瞬間、吹矢は真っ二つになった。
「誰だ…ッ!?」
「…夜明けの騎士団の、クレイ」
「……そしてソフィアだ」
「クラウンもいるよ!」
武装した夜明けの騎士団が、黒フードのアサシン達の前に、姿を現した。アサシンは、城の屋根の上に飛び移り、夜明けの騎士団もそれを追う。
「よし、作戦通りいくぞ、クラウン、クレイ」
「オーケー……」
アサシン達は、ジッと3人のスキを伺っている。
「フン……夜明けの騎士団…か……聞いたことがある……かつて名の売れた騎士団だと……だが」
その瞬間、アサシンは地面に何かを投げつけた。すると、煙が飛び出す。
「…こういう場所での戦闘は……アサシンの専売特許だ…!」
「……ッ!!」
煙の中、ソフィアがアサシンのナイフを剣で受け止めるが、少しバランスを崩す。
「……屋根の上だと、傾斜が……」
「へへ……どうした?…足元がふらついてるぜッ!!」
「くッ…!」
アサシンは、バランスを崩す事なく、屋根の上で猛攻する。アサシン達の相手をしながら、クレイがクラウンへ叫ぶ。
「ク…クラウン!!……今こそお前の力を見せつける時だ!」
「ふふ、分かってますよ!」
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