第43話 賢者バルガイド
「……賢者ってあれだろ?…回復とか使う…」
「…………………」
「戦えんの?」
タイヨーが嘲笑うかのようにそう言うと、バルガイドは地面に魔法陣を展開した。
「ん?」
「……『聖螺』…」
その瞬間、巨大な光の槍が発現し、魔物を巻き込みながらタイヨーへ向かっていく。
「うわっと!」
タイヨーはその光の槍を、剣で受け流した。槍は空へ舞い上がり、曇り空を穿った。雲の隙間から、バルガイドに光が差す。
「…なんつー魔法だよ!…賢者はそんな魔法も使うのか!」
「……受け流すか…では」
次にバルガイドは、光の刃を大量に作り出した。刃は、タイヨーに向かっていくが、タイヨーはそれも全て、受け流した。
「…で?……次は?」
「……バケモノが」
いつの間にか、タイヨーは目の前まで迫っていた。バルガイドがあっけに取られていると、タイヨーはバルガイドの肩へ、手刀を振り下ろした。
「ぐ…ッ!!」
膝をつき、肩を押さえるバルガイドを見て、タイヨーは薄ら笑いを浮かべる。
「王様は弱いなァ〜!」
「…ぐく……ッ」
◆
「ここだ!」
グリムとクラウンが、ブラディーンの門の前まで来ると、門番が立っていた。
「な…ッ!?」
「人間!?」
声を出す暇もなく、クラウンとグリムは門番を切り裂いた。
「…クラウンも強くなりましたね〜!」
「そうかな?」
そして2人が門を開けると、魔物の兵士達が立っていた。
「……まだいたんですか…」
「全員、戦場に行ったと思ったけど…」
「おい!人間が来たぞ!!」
兵士達は、武器を構える。それと同時に、グリムが大鎌を前方に振った。バラバラと、魔物の兵士の半分が切り裂かれ、倒れていく。
「一振りでこれか……」
「…うふふ……魔物の血は美味しいんですよねぇ〜!」
大鎌から滴り落ちる血を、口に含みながらグリムは言った。
「クッ…早く殺せ!!」
だが、グリムがもう一振りすると、兵士達は目の前から消えた。
「行きましょうか!」
「うん!」
その時、無造作に置かれている大きな檻が、クラウンの目に留まった。
「…ちょっと待って!」
「ん〜?」
檻の側まで行くと、中には傷だらけの人間がいた。
「助けてあげようよ!」
「…ですね」
グリムが錠前を壊し、中の人間を自由にする。
「う…うぅ……」
「…動けないみたいですね」
「僕が回復するよ」
するとクラウンは、バルガイドへと変化した。
「おー!バルガイドおじさん!」
「……【快復】…!」
クラウンが手のひらを人間達に向けると、人間達の傷が癒えていく。
「おおぉ…神の…お恵み…」
「皆のもの、この家に隠れているのだ」
そしてクラウンとグリムは、魔物の家の中へ人間達を避難させる。
「…今はここに隠れていてくれ……魔物を倒した後…迎えに行く…」
「バルガイド王……ありがたや…」
扉の前にバリケードを作って、クラウンは元の姿へと戻った。
「……行こうか」
「はい!」
そして再び、2人は走り始めた。目の前に聳え立つ、禍々しい城を目指して。
◆
「舐めるなよ若造……」
するとバルガイドは距離を取り、手のひらをタイヨーの方へ向けた。
「んん?」
「…【快復…」
すると、タイヨーの身体についた傷が、回復していく。それを見てタイヨーは、困惑した。
「敵に回復魔法って……頭おかしくなった…?」
「…………」
「おーい、オジサ…ヴッ…!?」
その瞬間タイヨーは、苦しそうに胸を抑えた。そして、バルガイドの方を睨む。
「…なんだ……ッ!?」
「……回復魔法には…ルールがある」
タイヨーを回復しながら、バルガイドは語る。
「回復魔法は傷を癒す…その原理は魔法の源である魔素を…他社に送り込むというものだ……」
「…なるほど…そ…そういう事か…ッ」
何かを察して、タイヨーは呟く。
「これにより送り込まれた魔素は、肉体を再生させる為に血液や組織に変化する………故に…与え過ぎれば……人体は生み出され続ける自身の血と組織に耐えきれず…パンクする…」
「…だけど……送り込むには魔素がいるよね!?…君の魔素が無くなるまで……耐えればいい話…」
それを聞いて、バルガイドはニヤリと笑った。
「…私の事を何も知らぬようだな」
「……あ…?」
バルガイドは手のひらを向けたまま、タイヨーに近付く。
「賢者だぞ?……魔素など…貴様の倍以上持っておるわ」
「なんだと………くッ…ソ…」
タイヨーは、最後に断末魔を上げる。
「……ナローンは弱いな」
「クソジジイィィ!!」
そして、タイヨーの身体から血が吹き出した。タイヨーは、その場に倒れる。
「他の者は大丈夫だろうか……?」




