第32話 モンスター
「レイヴンさんは、何をしてる方なんですか?」
「……昔は…傭兵をしていた……今は…旅をしている」
「そうなんですね!」
馬車の中で、4人は話していた。そんな時、外からズチャッと、奇妙な音が聞こえてきた。
「うわ!?」
「どうした!?」
「外に……魔物が…ッ!!」
「なに!?」
4人が急いで止まった馬車から降りると、巨大なスライムのような魔物がいた。
「ズルルルル……」
「…無性魔物か……」
無性魔物。意思を持たない魔物で人間、魔物、亜人を見境なく襲う。
「何故、こんな所に……」
「さぁな、だが……無性魔物は稀に、自然発生する事がある……」
「だけど、この大きさは珍しいですよね〜!」
魔法は本来、生物の体内にある魔素を、物質に変換して作り出す。魔力は、変換できる量の事である。
そして、魔素は様々な物質にも含まれるが、稀にその魔素が突然増殖をし、物質がモンスターへと変化する。突然増殖する現象については、解明されていない。
「クソ…すぐに連絡を…」
「安心しな、こう見えて俺達は強いんでね」
ブラッドは、腰の剣を抜いて4人の前に立つ。
「…スライム系モンスターか……」
そして剣で突くが、液体ゆえに、貫通するだけだった。
「やっぱダメか……仕方ねぇ…魔法で……」
「私がやろう」
ブラッドを差し置いて、レイヴンが短剣を抜いた。短剣は刀身に刻まれた、奇妙な文字が光っていた。
「あれ……その短剣…」
「……聖魔剣か…!」
その短剣を持ち、レイヴンは離れた場所から、思い切り振った。すると斬撃から、沢山の同じ短剣の残像が飛び出し、スライムをズタズタに引き裂いた。
「うぉお!?」
「一振りでバラバラにした!」
スライムは弾けて、バラバラになったが、また組み合わさろうとしている。
「ブラッド!…魔消水を!!」
「あ…ああ!」
ブラッドはすぐさま、光る水の入った瓶を取り出して、スライムだった水へかけた。
「プスゥゥゥ……」
すると水は蠢くのをやめ、何の変哲も無い水へと戻った。
「……ふぅ…」
「何ですか、その水」
「魔消水だよ」
魔消水。魔素が自然に精製される、原魔の湖で採れる特殊な液体を原料に作られた魔道具。この水は魔素を吸収し、付着した物質の魔素を消す。生物にかけると、体内で作られていた魔素を消して、一定時間魔法を使えなくする。
「……まぁ…生物にかけたら、少しの間魔法を使えなくして……モンスターにかけたら、倒す事ができる優れものだよ」
「そんなものがあるんだ……モンスターと戦った事ないから、知らなかった……」
「勉強になりましたね!」
そして、3人はレイヴンの方を見た。
「…只者じゃないですよね……」
「……おい」
ブラッドはレイヴンの元へ歩いていくと、短剣を見ながら尋ねた。
「…その聖魔剣、どこで…?」
「……拾った」
「…拾ったぁ…?」
それを聞いて、ブラッドは「冗談だろ」とでも言わんばかりで、レイヴンを見た。
「……まぁ、いいや。詳しい話は馬車で聞こう」
「すみませ〜ん!…出発できます〜?」
「ああ!…おかげさまで!」
そして再び、馬車は動き出した。ブラッドは、馬車の中でレイヴンに再び尋ねた。
「どこで拾ったんだよ」
「……何故、知りたい」
「いや……聖魔剣なんて…これから行く聖魔剣山に、全部集められてると思ってたからさ…………欲しいわけじゃねぇぞ?」
「ブラッド、分かりやす過ぎです」
レイヴンは、短剣を見ながら言った。
「…名前も無い山の、崖の下に洞窟があった。そこに、土にまみれて落ちていた」
「……なるほど…まだ発見されていなかった聖魔剣か……あるもんなんだな……この世界にある聖魔剣は、全て聖魔剣山にあるのかと思ったぜ」
聖魔剣山。この世界には聖魔剣と呼ばれる、特殊な力を持った武器がある。聖魔剣山は、世界中にある聖魔剣を、保管している山である。
「確か、聖魔剣が沢山ある丘が観光スポットなんですよね!」
「ああ、精霊とも話せるしな……って…お前!…聖魔剣を使えてるって事は…精霊に選ばれたのか!?」
「そういう事になるな」
聖魔剣には、精霊と呼ばれる存在が取り憑いており、その精霊の許可を得れば使う事ができる。聖魔剣に宿る力の源は、精霊によるものである。
「出てこい、ピーレス」
(なんだよいきなり)
「うわ!…なんか出た!」
馬車の席に、盗賊のような格好の男が座っていた。
「コイツが精霊だ。この剣の名前と同じピーレスという名だ」
(コイツらに紹介する為だけに呼んだのかよ!)
「ああ、もう帰っていいぞ」
(……こんな人使い荒い奴と、契約するんじゃなかったぜ…)
文句を言いながら、ピーレスは消えていった。
「…スゲェ……マジの聖魔剣かよ…」
「ああ」
「……よっしゃ!…俺も聖魔剣山で聖魔剣ゲットするぜ!」
「前に行った時も、結局手にする事はできませんでしたよね」
「うるせーッ!今回は違うぜ!!」




